第41話:生存の対価(トレーニング)と、見開く左目
地下駅の静寂を破ったのは、拓真の冷酷なまでの号令だった。
「リライト」に頼れば脳が焼き切れ、炎を乱射すればすぐに「ガス欠」を起こす。
学園での常識が通用しない廃墟都市で、一行は生き残るための術を叩き込まれる。
痛みに悶えるカイに、拓真が突きつけたのは「右目に頼らない」という逆説的な試練だった。
カラン、と乾いた金属音が地下駅のホームに響いた。
「……遅い。あとコンマ二秒遅ければ、今ので首が飛んでるぞ」
拓真が手にした模擬刀を肩に担ぎ、冷めた視線をこちらへ向ける。
俺は冷たいコンクリートの床に這いつくばり、荒い息を吐き出した。全身が鉛のように重く、右目の奥は未だに燻るような熱を持っている。
「も、もう一度……お願いします……!」
「いいえ、カイ! これ以上は無理ですわ。あなたの顔色、もう真っ青じゃないの!」
駆け寄ろうとするレナを、拓真の鋭い眼光が制した。
「甘やかすな。外の世界じゃ、顔色が悪いなんて理由は、死を先延ばしにする言い訳にもなりゃしない。……お前もだ、赤城レナ。さっきの火炎放射は何だ? 派手なだけで燃費が悪すぎる。エニグマの補給がない以上、自分のリソース(魔力)を使い切れば、次に来るのは死だぞ」
レナが屈辱に唇を噛み締める。
彼女もまた、学園では無敵だった炎が、この不安定な大気の中では思うように制御できず、苦戦を強いられていた。
「アオイ、ユズ、セイラ。お前たちもだ。戦えないなら、戦える奴をどう生かすか徹底的に考えろ。……この世界じゃ、情報の読み間違い一つで全員が消えるんだ」
拓真の言葉は、ナイフのように鋭く俺たちの甘えを削ぎ落としていく。
彼は再び構えを解き、俺の目の前に立った。
「カイ。お前はさっきから、右目の権限で状況を無理やり『正解』に書き換えようとしている。……それが一番の悪手だ」
「……でも、それを使わなきゃ、あんな化物たちに……!」
「いいか、よく聞け。右目(管理者権限)は『切り札』だ。普段は左目……つまり、お前自身の生身の感覚で世界を視ろ。風の動き、地面の振動、敵の殺意……。システムに頼らずにそれらを捉えられるようになって、初めてリライトは『武器』になる」
拓真はそう言うと、俺の右目を無理やり手で覆い隠した。
「……えっ?」
「今から、左目だけで俺の攻撃を三回いなしてみせろ。できなきゃ、今日の飯は抜きだ」
視界の半分が奪われ、距離感が狂う。
右目という最強のセンサーを塞がれた俺に、拓真の容赦ない一撃が襲いかかる。
「(……見えない。速すぎる……!)」
だが、必死に左目を見開き、五感を研ぎ澄ませたその時。
拓真の踏み込む靴音、衣擦れの音、そして空気を切り裂く微かな風の唸りが、驚くほど鮮明に脳に届いた。
——左だ!
俺は無意識に体を捻った。
頬をかすめる模擬刀。熱い衝撃。だが、確かに「避けた」。
「……ほう。一回目だな。少しはマシな感覚をしてる」
拓真の口角が、わずかに上がった。
地獄のような修行の最中、俺は初めて、システムを介さない「世界の解像度」が上がるのを感じていた。
第41話、お読みいただきありがとうございました!
拓真による「リライト封印」の荒療治。
右目の権限という強力な力に依存していたカイが、自らの五感を研ぎ澄ませ、生身の人間としての強さを模索し始める重要なエピソードとなりました。
レナたちヒロインもまた、それぞれの課題に直面し、チームとしての形を変えようとしています。
次回、第42話。
修行の成果を試す時は、予想以上に早く訪れます。
地下駅に迫る、スカベンジャーを統率する「上位個体」の影。
右目を封じられた状態で、カイたちは仲間を守り切ることができるのか!?
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