第40話:地下の灯火(セーフゾーン)と、歪んだ世界の断理
スカベンジャーの群れを退け、命からがら辿り着いたのは、古びた地下鉄の廃駅だった。
地上とは打って変わり、静寂が支配するその場所で、拓真は自らの拠点を明かす。
そこで語られるのは、学園という「ゆりかご」では決して教わらなかった、外の世界の残酷な真実。
カイの右目に走る激痛の正体、そしてエニグマに抗う「第三の勢力」とは。
重いシャッターが、ガギギィ……と嫌な音を立てて閉まった。
「……ここまで来れば、ひとまずは安心だ。連中は、暗い場所は好きだが『密閉された空間』は警戒して入ってこない」
拓真が壁のスイッチを入れると、チカチカと頼りない蛍光灯が灯り、地下の空間を照らし出した。
そこは、かつて地下鉄の改札口だった場所だ。
今は券売機の代わりに、古びたサーバーラックや、野営用の簡易ベッド、そして大量の「紙の本」が積み上げられている。
「ここは……図書館、ですか?」
アオイが、埃を被った本の一冊を手に取って尋ねる。
「そんな立派なもんじゃない。ただの情報のゴミ捨て場だよ。……さあ、座れ。全員無事なのが奇跡みたいなもんだ」
俺たちは、拓真に促されるまま、ひび割れたプラスチックのベンチに腰を下ろした。
先ほどの戦闘で酷使した右目は、未だに奥の方がジリジリと焼けるように熱い。
「……拓真さん。さっき言っていた『代償』って、どういう意味だ?」
俺の問いに、拓真は自分用の折り畳み椅子に深く腰掛け、天井を仰ぎ見た。
「カイ。お前の右目は『管理者権限(Admin)』だ。だがな、あの学園の中と外じゃ、OSそのものが違うんだよ。……学園はエニグマが作り上げた『整えられた庭』だ。そこなら、書き換えもスムーズにいく」
拓真は、空中に一粒の砂利を放り投げた。
「だが外は違う。管理者のいない、壊れたデータの吹き溜まりだ。一つを書き換えようとすれば、連鎖的に周囲の数億個のデータが矛盾を起こして暴れ出す。……それを力技でねじ伏せようとすれば、どうなる?」
「……その矛盾の反動が、直接俺の脳を叩く……ってことか」
「正解だ。今はまだ『脳が焼けるような痛み』で済んでるが、無理を続ければお前の自我そのものが崩壊するぞ」
重い沈黙が流れる。
最強の武器だと思っていた「リライト」が、外の世界では自滅の刃になりかねない。
「じゃあ……カイはどうやって戦えばいいんですの! あの化物たちが、次から次へと襲ってくるこの世界で!」
レナが食ってかかるように声を上げる。拓真はそれを受け流し、机の上に一枚の地図——ノイズで歪んだ街のホログラムを展開した。
「今のこの世界には、三つの勢力がある。……一つは、世界を食い荒らす『エニグマ』。二つ目は、この廃墟で細々と生き延びる『俺たち人間』。そして最後の一つが……」
拓真が地図の中央、巨大な黒い影が渦巻くエリアを指差した。
「エニグマの制御すら受け付けない、純粋なバグの塊……『虚無』だ。……カイ、お前の右目が真に覚醒すれば、その『虚無』すらも理に変えられるかもしれない。だが、今のままじゃ犬死にだ」
「……どうすればいい」
俺の真っ直ぐな視線を受け、拓真はニッと不敵に口角を上げた。
「俺が鍛えてやるよ。……力に頼らず、世界を視る方法をな。……俺もお節介が過ぎるが、お前たちのその『真っ直ぐな目』、嫌いじゃないんだ」
地下駅の隅、古い時計がカチリ、と時を刻む。
新しい師、そして新しい戦い。
俺たちの「外」での生活は、こうして始まった。
第40話、お読みいただきありがとうございました!
学園の外の世界が、いかに不安定で過酷な場所であるかが語られました。
カイが直面した「リライトの代償」は、文字通り己の命を削る行為。
それを乗り越えるため、拓真という心強い先達から「力に頼らない戦い方」を学ぶことになります。
エニグマ、生存者、そして謎の勢力「虚無」。
三つ巴の様相を呈する廃墟都市編、物語のスケールはさらに拡大していきます。
次回、第41話。
拓真による過酷な修行開始!
慣れない環境と格上相手の訓練に、カイとヒロインたちはどう立ち向かうのか。
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