第38話:鉄の門の先、色を失った世界
時計塔の戦いは終わり、学園を縛っていた「偽りの空」が消え去った。
謎の青年・拓真に導かれ、カイたちはついに学園の境界線——巨大な鉄の門へと辿り着く。
その門が開かれた時、彼らが目にするのは希望か、それとも。
新章「廃墟都市編」、ついに開幕。
学園の最果て。そこには、天を突くほどに巨大な錆びついた鉄の門がそびえ立っていた。
「ここが……『外』への出口……」
アオイが呆然と呟く。彼女の持つ学園の構造図でも、この門の先は「進入不可領域」として塗り潰されていた場所だ。
先を歩く拓真が、腰の二丁拳銃の一方を軽く回し、ホルスターに収めた。
「ああ。ここまではエニグマの箱庭。……ここから先は、地獄の入り口だ。覚悟はいいか? 高校生」
拓真が門の横にある古びたコンソールに手をかざす。
彼の手の甲に刻まれた奇妙なノイズの紋章が、淡い青色に輝いた。
ズゥゥゥゥゥゥンッ……!!
何十年も動いていなかったであろう重い機械音が響き、ゆっくりと鉄の門が左右に分かれていく。
隙間から溢れ出してきたのは、学園の中のような甘い花の香りではない。
焦げた鉄の匂いと、ひんやりとした、どこか死を予感させる冷たい風だった。
「……行きましょう。立ち止まっていても、何も始まりませんわ」
レナが、震える拳を隠すようにドレスを強く握りしめ、一歩を踏み出す。
俺たちもそれに続いた。
門をくぐり抜けた先に広がっていたのは、言葉を失うような光景だった。
「……これが、外の世界……?」
ユズが息を呑む。
そこには、かつて大都会だったであろう街の成れの果てがあった。
天高くそびえる超高層ビルは半ばからへし折れ、その断面からは無数の電子回路のような根が、血管のように這い出している。
アスファルトを突き破って育った巨大な植物は、ところどころが透明なバグのノイズに侵食され、チカチカと不気味に発光していた。
何より異常だったのは、空だ。
学園で見上げていた夕焼けはどこにもない。
澱んだ灰色の雲が低く垂れ込め、その隙間を縫うように、巨大な「文字列」の奔流が、龍のように空を泳いでいた。
「驚いたか。これが今の、この世界の『デフォルト』だ」
拓真が慣れた手つきで大剣を担ぎ直し、瓦礫の山を指差した。
「エニグマに食い散らかされたデータの残骸。……そして、その残骸を餌にする連中が、そこら中に潜んでいる」
その言葉が終わるか終わらないかのうちに、周囲のビル影から、いくつもの「赤い光」がこちらを凝視し始めた。
学園で見かけた掃除屋とは比較にならないほど濃密な、殺意の波動。
「……セイラ、香炉を。ユズ、俺の背中に隠れてろ。アオイは拓真さんの後ろに!」
俺は痛む右目をこじ開け、黄金の視界を再起動させる。
右目に映し出された外の世界の情報は、学園のものとは比べ物にならないほど複雑で、凶悪なコードに満ちていた。
「歓迎会が始まるみたいだな。……おい、カイ。リライトは使いすぎるなよ。ここでは『代償』が重くなる」
拓真が不敵に笑い、大剣を引き抜く。
その刃が空気を切り裂く音と共に、廃墟の街に不気味な咆哮が響き渡った。
第38話、お読みいただきありがとうございました!
ついに学園を脱出し、物語の舞台は「廃墟都市」へと移りました。
ノイズに侵食されたビル群、空を泳ぐデータ。
そして、新天地で待ち受ける新たな脅威。
拓真という心強い「兄貴分」と共に、カイたちの本当の戦いがここから始まります。
次回、第39話。
廃墟都市の洗礼。次々と襲いかかる未知のバグ・モンスターを前に、拓真の圧倒的な実力と、外の世界の「過酷なルール」が明らかになります。
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