第37話:束の間の静寂(しじま)と、外からの来訪者
エニグマの直接制御を断ち切り、執行者を打ち破ったカイ。
学園を覆っていた不気味なノイズが晴れ、静かな夕暮れが訪れる。
死闘の後の休息、先生との別れ。
そして、開かれた「外」の世界への扉。
廃墟都市へと続く物語の始まりに、飄々とした人物が現れる。
執行者が光の粒子となって消え去った後、時計塔には、重苦しい静寂が戻ってきた。
窓から差し込む夕暮れの光は、もはや赤黒いノイズを含んでいない。
ノイズのない、普通の、穏やかな夕日だ。
この学園に、青空と夕焼けが戻ってきたのだ。
「……本当に、勝ったのか……」
俺はふらつく体で、瓦礫の上に座り込んだ。
右目のAdmin権限は……休止中。黄金の光は収まったが、脳の奥に鈍い痛みが残っている。
俺の懐で、ルナが小さな寝息を立てていた。
「ええ、カイ。あなたが、あいつを消し去ったわ」
レナが、ボロボロになったドレスの裾を気にしながら、俺の隣に座る。
彼女の炎も、今は静かに収まっている。
「でも、先生は……」
セイラが香炉を静かに置き、黄金のキューブが消えた場所を見つめる。
俺たちは、自分たちを犠牲にして未来を託してくれた「先生」のために、黙祷を捧げた。
「カイ。エニグマが遺した言葉……覚えてる?」
アオイが、タブレットの画面(ノイズが晴れている)を見ながら尋ねる。
「ああ。『外の世界で、真の絶望が待っている』……だったか」
「ここ、学園は……広大なネットワークの末端に過ぎない。外には……廃墟となった都市が、広がってる」
アオイの言葉に、ユズが不安げに眉を寄せる。
「廃墟……? じゃあ、外にもバグが……?」
「ここを出る」
俺の言葉に、みんなの視線が集まる。
「エニグマがいる限り、この世界(学園)は……本当の意味では救われない。先生が命を懸けて繋いでくれたこの未来、無駄にはできない」
「……そうね。この私が、外の世界も焼き尽くして差し上げますわ!」
「わたくしも、カイ様と共に行きます」
「先輩が行くなら、私も行きます!」
「……まぁ、そう言うと思ったよ。外のデータ、できる限り集めておくね」
みんなの意志が、一つに固まった。
束の間の休息。俺たちは、瓦礫の中で互いの無事を喜び、外の世界への準備を始めた。
その時だった。
崩れかけた時計塔のエントランスに、カツン、カツン、と場違いなほど軽やかな足音が響いた。
「おっと、お邪魔だったかな? 勝利の余韻に浸ってるところ」
逆光の中に立つ、一人の人影。
俺たちは一瞬で武器を構え、警戒態勢を取る。
「落ち着けよ、高校生。敵じゃない。俺も……あいつ(エニグマ)に用があるクソッタレの被害者だ」
現れたのは、黒髪で少し長め、身長180cmほどの、大学生くらいの青年だった。
使い古された軍用ジャケットを羽織り、背中には巨大で、ノイズを帯びた刃の大剣、腰には二丁拳銃を下げている。
飄々とした、余裕のある笑み。少し、タバコの匂いがした。
「……誰、ですか?」
「湊 拓真。21歳。……大学生、だったかな? バグる前はね」
拓真は、俺たちの警戒を気にも留めず、崩れかけた柱に寄りかかった。
「いやー、やるじゃん高校生。エニグマのアバター(執行者)を完封するなんてね。外(廃墟)でも、あいつ(執行者)に手を焼いてる連中は多いんだよ」
「……外から来たの?」
「ああ。外は……廃墟都市。ここよりも、もっと酷いバグと、絶望が広がってる。……まぁ、ここ(学園)を出るって言うなら、少しは骨のある連中じゃないと困るからな」
拓真は、寄りかかっていた柱を、背中の大剣を一振りするだけで軽々と切り裂き、道を切り開いた。
「どうだ? 俺が案内してやるよ、お節介なお兄さんとしてな。……お前たちの『マスターキー(右目)』の権限、興味がある」
拓真の提案。俺は、彼の不敵な笑みを見つめた。
第37話、お読みいただきありがとうございました!
学園編のエピローグ。一時的な平和と、先生との別れ。そして、外の世界へ踏み出す決意。
ラストに登場した新キャラクター、湊 拓真。大学生のお兄さん。
ついに学園のゲートを開き、外の世界——廃墟都市へと踏み出します。
物語は新章「廃墟都市編」開始!
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