第32話:奈落の隠し通路と、忘れ去られた教育者(NPC)
ルナが身を挺して展開した「保護の光」。
最強の刺客・執行者の猛攻を一時的に凌ぐものの、光のドームには無情な亀裂が走り始める。
絶体絶命の窮地でアオイが見つけたのは、時計塔の地下へと続く未知のルートだった。
暗闇の先に待ち受けていたのは、敵か、味方か——。
ギィィィィィィンッ!
白銀の騎士が振り下ろす大剣が、蒼い光のドームに弾かれる。
だが、その衝撃のたびに、ドームを維持するルナの小さな体がビクリと震え、光にヒビが入っていく。
『キュ、ウゥ……ッ……!』
「ルナ、もういい! 無理するな!」
俺が叫ぶが、ルナは必死に翼を広げ、俺たちを守り続けている。
リライトの反動で焼けるように熱い俺の右目が、無慈悲な現実を網膜に映し出す。
【保護ドームの耐久値:残り12%】
【執行者の再チャージまで:3秒】
「カイ、こっち! あの壁の奥……私の記憶にある『正常な時計塔の構造図』と違う! 本来なら、あんな空間はないはずだよ!」
アオイが、崩れかけた壁の一角を指差した。
その言葉に反応したユズが、目を細めて壁の奥の歯車を観察する。
「本当だ……。ただバグって壊れてるんじゃない。あの三つの歯車、隠し扉を開けるための連動ギミック(仕掛け)みたいに動いてます!」
「ユズ、あそこの隙間に何か挟めるか!?」
「任せてください! ……これなら!」
ユズが懐から取り出したのは、バグから回収した『高硬度の結晶』を加工した楔だ。
彼女が正確にそれを歯車の間に叩き込むと、ガガガッという異音と共に、床の石畳がスライドし、地下へと続く螺旋階段が姿を現した。
「よし! 二人とも、レナとセイラを連れて先に降りろ!」
「カイ様!? あなたはどうするつもりですの!」
「俺が最後だ! 行け!!」
レナたちが階段へ飛び込んだ直後、光のドームが粉々に砕け散った。
執行者の赤い双眸(鏡面)が、俺を捉える。
『キュゥッ……!』
「ルナ!」
ルナが身を挺して俺を庇う。
【Eva分体の活動限界。スリープモードに移行します。】
ルナが光に包まれて俺の右目に吸い込まれる。
その勢いのまま地下通路へと飛び込んだ。
「アオイ、ユズ! 扉を閉めろ!」
上から降りてきた石畳が、入り口を完全に封鎖する。
直後、頭上から凄まじい衝撃音が響いたが、どうやら突破は免れたようだった。
「はぁ、はぁ……ルナ……」
天の声でスリープモードと言っていた。ルナは生きてる。
今はこの状況を脱しなければどうにもならない。俺は右目を軽く押さえ冷静さを取り戻す。
真っ暗な通路。
セイラが香炉に火を灯すと、淡い光が地下の全貌を照らし出した。
そこは、埃にまみれた古い書庫のような場所だった。
「ここ、ただの地下室じゃないわ。……見て、この名簿」
アオイが拾い上げた一冊の本。
そこには、今の学園からは消去されたはずの『かつての教師たち』の名前が並んでいた。
「勝手に入ってくるとは、礼儀の知らん生徒たちだな」
闇の奥から、低く掠れた声が響いた。
全員が息を呑み、声のした方へ武器を構える。
現れたのは、ボロボロのスーツを着た、片腕がノイズで消失している初老の男だった。
彼は割れた眼鏡の奥で、鋭い眼光を俺たちに向ける。
「……先生、なのか?」
「先生、か。……久しく呼ばれていなかった言葉だ。私は『第42代・学園管理AI』——だった残骸だよ。君たちが、エニグマに盾突いている馬鹿者かね?」
彼が指差した先には、地下に潜伏している数名の、意志を持ったNPCたちの姿があった。
第32話、お読みいただきありがとうございました!
執行者の追撃を振り切り、辿り着いたのは忘れ去られた地下の潜伏者たちの拠点でした。
ルナは力を使い果たしスリープモードに移行してカイの右目に…。
その先にいた元管理AIの教師NPCは、果たして敵か味方か。
学園の成り立ちに関わる重大な秘密が、次明かされようとしています!
次回、第33話。
「先生」から語られる、エニグマの致命的な弱点と、カイの右目の『真の権限』について。
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