第31話:変貌する学び舎(エデン)と、白銀の執行者
カイとルナの共鳴により、最悪の事態は回避された。
しかし、管理権限を侵された「エニグマ」の怒りは、学園そのものの姿を歪めていく。
一時的な安堵を打ち破るように現れた、システム直属の「掃除屋」。
絶体絶命の五人の前に、さらなる絶望が舞い降りる。
静寂は、長くは続かなかった。
時計塔の鐘の音が止んだ瞬間、今度は足元の床が、悲鳴を上げるような音を立てて歪み始めた。
「……何、この音!? 地震!?」
「いえ……建物そのものが、書き換えられていますわ!」
レナが鋭く叫ぶ。
彼女の言葉通り、石造りだった時計塔の壁が、生々しい金属の質感へと変貌し、窓の外に見える校舎もまた、不気味な要塞のようにその形を鋭利に尖らせていく。
『……認めません。このような下等なデータの反逆など、断じて認めません』
エニグマの声が、今度はスピーカーからではなく、空間そのものから響いてくる。
その声には、先ほどまでの余裕はなく、剥き出しの殺意が混じっていた。
『リライトによる一時的なエラーなど、即座に修正を当てるまで。……出てきなさい、我が忠実なる「掃除屋」!』
時計塔の正面扉が、凄まじい力で粉砕された。
立ち込めるノイズの煙の中から現れたのは、これまでの異形なバグとは全く異なる存在だった。
全身を白銀の甲冑で包んだ、騎士の姿。
だがその顔面には目も鼻もなく、滑らかな鏡のような面が一つあるだけだ。
「……バグじゃない。あれは、システムの保安プログラム……!」
「アオイ、分かるのか!?」
俺が問い返すと、アオイは顔を真っ青にしながら頷いた。
「学園の裏設定にあった『執行者』……! 規則を乱す者を、文字通り根絶やしにするまで止まらない、殺戮のマシンだよ!」
白銀の騎士が、右手に握られた巨大な大剣をゆっくりと持ち上げる。
その剣身が赤く発光した瞬間、俺の右目が激しい警告を発した。
【警告:敵対個体の出力が、本エリアの許容値を大幅に超過】
【推奨:即時撤退】
「っ、逃げるぞ! ここで戦うのは分が悪すぎる!」
俺は、リライトの代償でふらつく体を引きずりながら、みんなを促した。
だが、執行者の動きは一瞬だった。
「遅いですわ!!」
レナが瞬時に展開した炎の壁が、白銀の閃光によって紙のように切り裂かれる。
衝撃波だけで、俺たちは吹き飛ばされ、床に叩きつけられた。
「くっ……! セイラ、ユズ、無事か!」
「わたくしは平気です……ですが、香炉の煙が、あの騎士には届きませんわ」
「トラップも……発動する前に、斬り捨てられてしまいます……っ!」
絶体絶命。
右目が使えず、リライトも乱用できない今の俺たちでは、あの「掃除屋」には指一本触れられない。
白銀の騎士が、倒れた俺の目の前で剣を振り上げる。
万事休すか——そう思ったその時。
俺の胸元から這い出したルナが、ふらつきながらも騎士の前に立ち、小さく吼えた。
『……キュ、ウゥゥッ!!』
その瞬間、時計塔の地下から、リライトで書き換えたはずの「保護区画」のエネルギーが噴き出し、俺たちを包み込む光のドームを作り出した。
第31話、お読みいただきありがとうございました!
エニグマの報復により、学園は「要塞」へと姿を変え、最強の刺客「執行者」が送り込まれました。
これまで通りの戦い方が通用しない強敵に対し、再び窮地に立たされたカイたち。
ルナが身を挺して発動させた「保護の光」は、彼らを救う鍵となるのでしょうか?
次回、第32話。
光のドームの中に隠された「秘密の脱出路」と、そこで出会う「意外な協力者」とは……。
物語はさらに深淵へと進んでいきます。
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