第30話:書き換えられる理(ことわり)と、蒼き再誕
時計塔の最深部で突きつけられた、残酷な二択。
仲間を救えば世界が消え、世界を救えば仲間が消える。
エニグマの嘲笑が響く中、極限状態に陥ったカイの右目と、胸元で眠るルナに異変が起こる。
「三つ目の選択肢」を掴み取るための、命懸けの書き換え(リライト)が始まる。
『さあ、答えを聞かせてください。あなたが救うのは、自分たちの命ですか? それとも、ただのデータ(NPC)ですか?』
エニグマの声が、時計塔の冷たい壁に反響する。
カプセルに閉じ込められた生徒たちのデータが、一秒ごとに光の粒子となって削り取られていく。
「ふざけないで……。わたくしたちも、あの子たちも救う。そんなの、決まっていますわ!」
赤城レナが叫び、掌から炎を放つ。だが、その業火さえも、生体サーバーを包む強力な防護障壁に弾き返された。
「ダメですわ、物理的な破壊は全て遮断されています。無理にこじ開ければ、中のデータごと自壊するように設定されています……!」
「そんな……! じゃあ、見ているしかないっていうの!?」
アオイが絶望に顔を歪ませる。
俺は、激痛に震える右目を押さえながら、生体サーバーに表示された数式を凝視していた。
(エネルギー変換のロジックは……『絶望』と『消去』だ。なら、その定義自体を書き換えられれば……!)
その時だった。
俺の胸元で小さくなっていたルナが、不意に眩い蒼色の光を放ち始めた。
『……カイ……私の……力を使って……』
脳内に直接響く、ルナの幼くも透き通った声。
彼女の光が俺の右腕を伝い、封じられていた右目へと流れ込んでいく。
熱い。焼けるような熱さが、視神経を、脳を、世界の認識そのものを焼き焦がしていく。
「あ、がぁぁぁぁぁっ!!」
「カイ先輩!?」
ユズの悲鳴が聞こえる。
だが、俺の視界からは色が消え、全てが膨大なコードの羅列へと変わっていた。
激痛の果てに、右目のシステムメッセージが更新される。
【警告:個体名『カイ』の権限を、管理者代理へと一時昇格】
【スキル『演算』を破棄——スキル『改竄』を解放します】
「……見えた」
俺は一歩、生体サーバーへと足み出した。
ルナが俺の肩に乗り、小さな翼を広げて光を増す。
「エニグマ、お前の作ったルールなんて知るか。……この世界の『理』は、俺たちが書き換える!」
俺は血の滲む右目を見開き、生体サーバーの防護障壁に直接手を触れた。
指先から、蒼いノイズが奔流となってサーバーへと流れ込む。
『なっ……!? 何をしているのですか! システムに直接干渉するなど、個体データが持ちこたえられるはずが——』
「うるせぇ! 黙って見てろ!!」
右目の奥で、絶望を燃料とする数式を、無理やり別の形へ捻じ曲げていく。
絶望を、希望に。消去を、待機に。
世界を維持するエネルギー源を、生徒たちの魂から、俺とルナが共鳴して生み出す『魔力』へと置換する!
「おおおおおおおっ!!」
塔全体が、割れんばかりの轟音と共に震えた。
逆回転していた歯車が火花を散らして止まり、次の瞬間、カプセルを覆っていた黒いノイズが、純白の光へと反転した。
【リライト成功:NPCデータの転送を一時停止。隔離区画を『保護区画』へ再定義完了】
「……はぁ、はぁ……っ!」
膝をつき、激しく肩で息を突く。
右目からは一筋の血が流れていたが、視界の先では、カプセルの中の生徒たちの表情が、苦悶から安らかな眠りへと変わっていた。
「……やった、んだよね?」
アオイの問いに答えるように、時計塔の鐘が、今度は優しく、穏やかな音色で一度だけ響いた。
第30話、お読みいただきありがとうございました!
ついにカイの右目が「リライト(改竄)」へと進化し、ルナとの共鳴によって絶望的な二択を打ち破りました。
NPCを燃料にするという残酷なシステムを一時的に停止させ、彼らを「保護」することに成功しましたが、それは同時に、カイ自身が世界のエネルギー源を肩代わりするという過酷な戦いの始まりでもあります。
次回、第31話。
一時的な平穏が訪れたのも束の間、システムを書き換えられたことに激怒したエニグマが、ついに「直接的な制裁」を開始します。
学園全体が変貌し、さらに過酷な後半戦へ……!
続きが気になる方は、ぜひ下部の☆☆☆☆☆から応援よろしくお願いします!




