第29話:再会と、時計仕掛けの供犠(くぎ)
時計塔で無事に再会を果たした五人。
しかし、安堵も束の間、塔の内部に隠された「世界の心臓部」が姿を現す。
そこは、消去された生徒たちの魂を燃料へと変える、残酷な変換炉だった。
救えば世界が滅び、見捨てれば良心が死ぬ。エニグマが突きつけた究極の二択に対し、カイが出す答えとは。
「カイ様っ!!」
時計塔の一階、巨大な歯車が回るエントランスに駆け込んできたのは、赤髪をなびかせたレナだった。
後ろからは、重い香炉を背負ったセイラが、安堵に胸をなでおろしながら続いてくる。
「レナ! セイラ! 無事だったか!」
「こっちのセリフですわ! あなたがいなくて、わたくしがどれだけ……どれだけ心配したと……っ!」
レナが俺の胸に飛び込もうとして、血に染まった俺の右腕と、肩を貸すアオイ、そしてボロボロのユズの姿を見て動きを止めた。
彼女の瞳に、激しい怒りと後悔の火が灯る。
「……その怪我、誰にやられましたの。今すぐ灰にして差し上げますわ」
「落ち着いて、レナ様。カイ様を救ったのは、アオイ様とユズ様です」
セイラが静かに、だが温かい眼差しを二人に向けた。
「お二人とも、カイ様を守ってくださり、心から感謝いたします」
「い、いえっ、私たちはただ、カイ先輩に引っ張ってもらっただけで……」
「……ううん。二人がいなかったら、俺は今ここにいない。ありがとう」
改めて二人に礼を言うと、アオイは照れくさそうに目を逸らし、ユズは顔を赤くして俯いた。
だが、再会の余韻に浸る時間は短かった。
時計塔の奥から、心臓の鼓動のような、不気味な重低音が響いてきたからだ。
「……カイ様。中を見てください。私たちは、これの守備に手一杯で、まだ奥を確認できていなかったのですが」
セイラに促され、俺たちは塔の中央、吹き抜けになった巨大な空洞を見上げた。
そこにあったのは、時計の部品などではなかった。
「……何、これ……。心臓、みたい」
アオイが絶句する。
空洞の中央に吊り下げられていたのは、無数の光ファイバーが血管のようにのたうち回る、巨大な『生体サーバー』だった。
そして、その周囲を回るいくつものカプセルの中には、先ほど中庭で見た、ノイズ塗れの生徒たちが詰め込まれていた。
【システム・ステータス:エネルギー変換中】
【変換ソース:NPC個体データ(魂の残滓)】
【進捗率:82%】
「……嘘だろ。エニグマは、消去した生徒たちをゴミ箱に捨てた後、ここで『燃料』として再利用してるのか……?」
右目が、痛みと共に強制的にログを読み解く。
そこには、戦慄の数式が並んでいた。
Energy=∑( NPC Data✕Despair Factor)
生徒たちの絶望を、世界を維持するためのエネルギーに変えるシステム。
48時間のタイムリミットが過ぎれば、彼らはデータすら残らない『完全な無』へと変換されてしまう。
「ひどい……。こんなの、ただの殺戮じゃない!」
「許せませんわ……。人の心を燃料にするなんて、そんな趣味の悪いシステム、この赤城レナが焼き尽くして差し上げますわ!」
レナの周囲で炎が渦を巻く。だが、エニグマの嘲笑が再びスピーカーから響いた。
『あら、熱烈な歓迎ですね。ですが、それを壊せばこの学園(世界)の維持エネルギーが枯渇し、あなた方もろとも虚無へ消えることになりますよ?』
「……なんだと?」
『級友を救うために世界を壊すか。自分たちが生き残るために級友を見捨てるか。……さあ、最高の「選択」を見せてください、イレギュラーの皆さん?』
エニグマの声と共に、時計塔の歯車が狂ったように逆回転を始めた。
第29話、お読みいただきありがとうございました!
ついに五人が揃いましたが、状況はこれまでで最悪と言えるかもしれません。
NPC(生徒)を救うことが、自分たちの消滅に直結するというエニグマの罠。
次回、第30話。物語は大きな節目を迎えます!
カイはこの矛盾したシステムを「書き換える」ことができるのか?
そして、小さくなったままのルナに異変が……!?
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