第27話:消えゆく級友(NPC)と、隔離区画への片道切符
ボイラー室で夜を明かしたカイたちは、合流地点である時計塔を目指して旧校舎の裏ルートを進む。
道中、彼らはエニグマのシステムの恐るべき実態——「ゴミ箱」へと送られる途中の生徒たちの姿を目の当たりにする。
冷たいコンクリートの床で迎えた、サバイバル四日目の朝。
ボイラー室の小窓から差し込む光は、相変わらずどす黒い赤色だった。
「……外、バグの気配はないみたい。行こう、カイ、ユズ」
「はい、アオイ先輩」
アオイの合図で、俺たちはボイラー室を後にした。
目指すは、学園の中心にそびえ立つ『時計塔』。レナとセイラとの合流地点だ。
俺の右目はまだ熱を持ち、機能は沈黙したままだ。胸元では、小さくなったルナが静かに眠っている。
痛む右腕を庇いながら、アオイの先導に従って旧校舎の裏手を進む。ユズは手製のトラップを握りしめ、しんがりを務めてくれている。
「このまま中庭の脇を抜けられれば、時計塔はすぐそこだよ。……あっ」
角を曲がろうとしたアオイが、不意に息を呑んで立ち止まった。
その後ろからそっと顔を出した俺とユズは、信じられない光景に目を疑った。
「……なんだ、あれ……」
中庭の空間が、ガラスのひび割れのようにバキバキとひしゃげ、真っ白な『亀裂』を生み出していた。
その亀裂に向かって、虚ろな目をした生徒たちが、一列になってぞろぞろと歩いていくのだ。
彼らの体は所々ノイズに塗れ、ポリゴンのように不自然に欠け始めている。
「あれって、昨日図書館の『消去エリア』に巻き込まれた生徒たち……?」
アオイの震える声に、俺はハッとした。
列の中に、見覚えのある顔があった。よく俺にノートを貸してくれていた、隣の席の男子生徒だ。
「タカシ……!」
俺が思わず飛び出そうとした瞬間、アオイとユズが両脇から俺の腕を強く掴んだ。
「ダメだよ、カイ! あの白い亀裂……『隔離区画(ゴミ箱)』への転送ゲートに触れたら、私たちまで引きずり込まれる!」
「そうです、カイ先輩! お願いですから、今は我慢してください……っ!」
二人の必死の制止に、俺はぐっと足を踏みとどまるしかなかった。
亀裂の前に立ったタカシの体が、光の粒子へと分解され始める。
その瞬間、虚ろだった彼の瞳に、ふと感情のようなものが戻った気がした。
『……た、すけ……』
音にならない声が唇からこぼれた直後、タカシは完全にノイズとなって亀裂の奥へと吸い込まれてしまった。
後に残されたのは、無機質なエニグマのシステム音声だけだ。
【対象データの隔離区画への転送を完了。完全消去まで、残り48時間】
「……残り48時間。つまり、あと二日のうちにあの『ゴミ箱』からデータを引き戻せば、あいつらを助け出せるんだな……!」
ギリッと奥歯を噛み締める。
ただ背景として消されるだけのNPCじゃない。彼らは生きた人間で、今も消滅の恐怖の中で助けを求めているのだ。
「絶対に助ける。エニグマのシステムをぶっ壊してでも」
「カイ……。うん、一緒に助けよう」
「はいっ。まずはレナ先輩たちと合流しましょう!」
消えゆく級友たちの姿を目に焼き付け、俺たちは再び駆け出した。
悲しんでいる暇はない。時計塔の頂上は、もう目の前に迫っていた。
第27話、お読みいただきありがとうございました!
消去エリアに巻き込まれた生徒たちは、真っ白な亀裂を通って「隔離区画(ゴミ箱)」へ送られていました。
そして判明した【完全消去まで残り48時間】というタイムリミット。カイたちのサバイバルの目的が「生き残る」ことから「世界を壊して仲間を救う」ことへと明確にシフトしました。
次回、ついに合流地点の「時計塔」へ到着! しかし、そこには思いもよらない試練が待ち受けていて……!?
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