第26話:残された三人、非戦闘員の意地
図書館の崩落を間一髪で逃れたカイ、アオイ、ユズ。
しかし、主力であるレナとセイラと分断され、右目の限界を迎えたカイが一人で二人を守らなければならない絶望的な状況に陥る。
迫り来るバグの群れに対し、アオイとユズが取った行動とは——。
ガシャァァァンッ!
図書館の裏窓を突き破り、俺たちは夜の暗闇が支配する裏庭の茂みへと転がり落ちた。
直後、背後の図書館が凄まじい轟音と共に崩落し、真っ白な虚無へと変換されていく。
「ぐっ……! 二人とも、怪我はないか!?」
「い、痛たた……私は大丈夫!」
「私も平気です……っ。でも、カイ先輩の腕!」
ユズの悲鳴に近い声に視線を落とすと、ガラスの破片で切ったのか、俺の右腕から血が滴っていた。だが、痛みを感じる余裕すらない。
崩落の音を聞きつけたのか、暗がりから無数のノイズ音が這い寄ってくる。
『……ギ、ギギ……』
四つん這いの獣のような姿をしたバグの群れだ。
「くそっ……! 逃げるぞ!」
俺は二人を背に庇い、右目の演算を強制起動しようとした。
——が、ダメだ。
「あぐっ……!」
眼球の奥でバチッとショートするような激痛が走り、視界が真っ赤に明滅する。先ほどの過熱のダメージが全く抜けておらず、システムが起動を拒絶している。
「カイ! もう右目は使わないで!」
アオイが俺の肩を強く引き寄せた。
「でも、こいつらを倒さないと——」
「倒さなくていい! 逃げるんだよ!」
その言葉と同時、ユズが俺たちの前に飛び出した。その手には、女子寮の備品を組み合わせて作った手製の発煙筒が握られている。
「カイ先輩は、目を閉じててくださいっ!」
ユズが発煙筒のピンを引き抜き、バグの群れの中心へと放り投げた。
パァァァンッ!!
強烈な閃光と、むせ返るような白い煙が周囲を包み込む。バグたちが視覚データを乱され、同士討ちを始めるように暴れ回った。
「今だよ、こっち!」
アオイが俺の左腕を引き、煙の中を駆け出す。
「旧校舎の裏手にあるボイラー室! あそこは平和だった頃、立ち入り禁止区域だったから、NPCの巡回ルートから完全に外れてるはず!」
アオイの頭に入っている『学園のルール』。
俺たちは暗闇の中を無我夢中で走り抜け、錆びついた鉄扉をこじ開けて古いボイラー室へと転がり込んだ。
ユズが素早く内側から鍵をかけ、その場にへたり込む。
「はぁっ、はぁっ……! や、やり過ごせましたか……?」
「ああ。……追ってこない。助かった」
冷たいコンクリートの壁に背を預け、俺はずるずると座り込んだ。
胸元にそっと手を当てると、小さくなったルナの鼓動が微かに伝わってくる。ルナも無事だ。
「……悪い。俺がもっと、上手く立ち回れていれば」
レナたちと分断され、右目も使えない。リーダーとしての不甲斐なさに拳を握りしめる俺の前に、アオイがしゃがみ込んだ。
「カイ。レナさんやセイラさんみたいに戦えないからって、私たちがただ守られるだけの足手まといだと思ったら、大間違いだからね」
「アオイ……」
「戦闘はカイに頼るしかない。でも、隠れて逃げるルート探しなら私の得意分野だし、目くらましや罠の工作ならユズがいる。……一人で全部背負おうとしないで」
ユズも、震える手で自分の膝を抱えながら、力強く頷いた。
「カイ先輩の目は、どうしても戦わなきゃいけない時のために温存してください。……逃げる時は、私たちが先輩を引っ張りますから!」
真っ暗なボイラー室。
だが、二人の力強い眼差しは、どんな光よりも頼もしく見えた。
「……分かった。ナビゲートは任せる。合流地点の時計塔まで、頼りにしてるぞ」
絶対的な戦力を失った俺たち。
だが、この『非戦闘員』の二人の意地と知識こそが、今の俺たちの最大の武器だった。
第26話、お読みいただきありがとうございました!
レナとセイラという強大な戦力を失った三人ですが、アオイの地形把握とユズの工作スキルが光ります。戦闘力ゼロの彼女たちなりの「意地」を見せる回でした。
カイも少しだけ、肩の荷を下ろすことができたようです。
次回、三人は合流地点である「時計塔」を目指して、旧校舎の裏ルートを進みます。その道中で、彼らは信じられないものを目にすることに……!?
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