第25話:崩落の図書館と、白き分断
エニグマの気まぐれにより、突如として始まった図書館の『消去』。
迫り来る真っ白な虚無から逃れるため、カイとアオイは地下書庫から駆け上がる。
脱出の最中、カイの右目が捉えた「NPCたちを救うわずかな希望」。しかし、システムの悪意は容赦なく彼らの絆を引き裂こうとしていた。
「走れ、アオイ! 振り返るな!」
背後から迫る『真っ白な虚無』——空間そのものを削り取るノイズの波から逃れるように、俺たちは地下への階段を駆け上がった。
一段踏みしめるごとに、すぐ後ろの段が音もなく消滅していく。
「ハァッ……ハァッ……!」
息を切らしながら一階の閲覧室に飛び込むと、そこもすでに地獄絵図だった。
「カイ先輩! アオイ先輩!」
「遅いですわよ! 出口が……!」
ユズが涙目で叫び、レナとセイラが入り口を塞ぐバグの群れを必死に押し返している。
だが、そのバグたちでさえ、壁から染み出してきた白い虚無に触れた瞬間、悲鳴を上げる間もなく光の粒子となってフッと消え去っていく。
「あれに触れたら終わりだ! 全員、窓から外へ跳ぶぞ!」
俺が指示を飛ばしながら、ふと消滅していくバグと本棚の『崩壊のプロセス』に目を向けた時だった。
激痛の走る右目が、一瞬だけシステムの奥底のログを拾い上げた。
【データ移行先:隔離区画『ダストボックス』へ転送】
(転送……? 完全消去じゃないのか!?)
「アオイ、ユズ! あの消された生徒たちは死んでない! まだ『ゴミ箱』に送られただけだ!」
「えっ……!?」
俺の叫びに、アオイが弾かれたように顔を上げる。
パソコンのデータと同じだ。「ゴミ箱を空にする(完全消去)」が実行される前なら、隔離区画からデータを引き戻せる可能性がある!
『——ちっ。本当に目ざといですね、その右目は』
頭の中に、エニグマの舌打ちが響いた。
直後、俺たちを嘲笑うかのように、図書館の床の中心に太い亀裂が走った。
「きゃあっ!?」
凄まじい地鳴りと共に、床が真っ二つに割れ、そこから白いノイズの壁が天を突くように噴き上がった。
ノイズの壁は、俺・アオイ・ユズの三人セットと、レナ・セイラの二人セットを完全に分断してしまった。
「カイ様!!」
「レナ、セイラ! そっちに行くのは無理だ、壁から離れろ!」
分厚いノイズの壁越しに、レナの焦燥しきった声が聞こえる。
「ふざけないで! こんな壁、わたくしの炎で——」
「やめろ、それに触れたらデータごと消されるぞ! いいか、お前たちは自力でこのエリアを脱出しろ! 時計塔を目指すんだ、そこで必ず合流しよう!」
俺が声を張り上げると、壁の向こうで一瞬の沈黙があった後、セイラの凛とした声が返ってきた。
「……承知いたしました! カイ様、どうかご無事で! アオイ様とユズ様を頼みます!」
「絶対に死なせませんわよ! あなたも、死んだら承知しませんからね!」
二人の気配が遠ざかっていくのを確認し、俺は歯を食いしばった。
メイン火力の二人がいなくなった。残されたのは、満身創痍の俺と、非戦闘員のアオイ、そして震えるユズ。胸元には、力を使い果たして小さくなったルナ。
「カイ……っ。私たち……」
「泣いてる暇はないぞ、ユズ。アオイも、しっかり俺に掴まれ!」
俺は二人の手首を強く引き寄せ、図書館の裏窓を蹴り破った。
背後から迫る白の虚無に飲み込まれる寸前、俺たちは外の暗がりへと身を投げ出した。
圧倒的な戦力を失い、三人と一匹だけになった俺たち。
168時間のサバイバル、四日目の夜明け前。
本当の地獄は、ここからだった。
第25話、お読みいただきありがとうございました!
NPCの生徒たちがまだ「完全消去」されておらず、隔離区画(ゴミ箱)にいるという希望のヒントを掴んだカイ。
しかし、その代償としてエニグマの妨害に遭い、絶対的な戦力であったレナとセイラから分断されてしまいました。
残されたのは、カイ、アオイ、ユズ、そして弱ったルナ。
戦闘員がカイ一人という絶望的な状況で、彼らはどう生き延びるのか?
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