第24話:禁書庫のログと、世界のデフラグ
ルナの犠牲によって辛うじて一命を取り留めたカイ。
依然として右目の調子は万全ではないものの、彼はアオイの案内で図書館の奥深く、「立ち入り禁止区域」へと足を踏み入れる。
そこで彼らが目にしたのは、学園の歴史を塗り替える恐るべき『記録』だった。
「……気がついたみたいだね、カイ」
閲覧室のソファで上体を起こした俺に、アオイがそっと水の入ったコップを差し出した。
レナとセイラは、入り口付近で新たなバグの侵入を防ぐためにバリケードを補強している。ユズは本棚の間で、使えそうな備品を必死に集めていた。
「悪い、少し寝すぎた。……外の状況は?」
「今のところ、図書館は『消去エリア』から外れてる。でも、いつまで持つかはわからないかな」
アオイは窓の外、虚無に飲み込まれた女子寮の方角を複雑な表情で見つめた。
俺はジャケットの内側の『小さな重み』を確認する。ルナは、小さくなった体で静かに眠っていた。その温もりに安堵しながら、俺はアオイに問いかけた。
「アオイ、お前は図書委員だったよな。この図書館に、管理者用の端末がある場所を知らないか?」
「……やっぱり、そこを調べるつもりなんだね。こっちだよ」
アオイは迷いのない足取りで、地下へと続く重い鉄扉の前に俺を導いた。
そこは「閉架書庫」と呼ばれる、生徒の立ち入りが制限されたエリアだった。
「私、図書委員の特権でここの合鍵を持ってたんだ。……変だと思ってたんだよね。この学園、歴史は浅いはずなのに、地下のサーバーラックだけは、まるで何十年も前から稼働してるみたいに熱を持ってて」
アオイが鍵を開け、暗い地下室へと降りる。
そこには、無数のケーブルがのたうち回り、不気味な青い光を放つ巨大なメインサーバーが鎮座していた。
「カイ、あなたの『目』なら、これが読めるでしょ?」
俺は激痛を堪え、右目を細めた。
赤いノイズが混じる視界の中で、サーバーの奥深くに眠る秘匿ログを強制的に引き出す。
【プロジェクト:再生の箱庭(Garden of Rebirth)】
【進捗状況:Phase 2——最適化実行中】
「デフラグ……?」
俺の呟きに、アオイが眉をひそめる。
右目が映し出したのは、信じがたい記録だった。この学園は教育施設などではなく、**『壊れた人間の魂を再統合するための実験場』**だという記述。
「……アオイ、ここを見てくれ。NPC化された生徒たちのリストだ。ここには……『削除予定』のスタンプが押されている」
「それって、消去エリアに飲み込まれたら、あの子たちはデータごと消されるってこと……?」
【管理者権限:エニグマ(人工知能:意志決定モデル)】
【目的:純粋な個体『イレギュラー』の選別と、不要データの消去】
つまり、このサバイバルは生き残りをかけたゲームなどではない。
システムにとって「不要」と判断された人間を掃除し、エニグマが望む「最強の個体」だけを抽出するための、残酷な選別作業なのだ。
「そんなの……じゃあ、あの子たちは救われないの!? ただの背景として消えていくだけなんて……っ」
アオイが端末を叩く。その時、サーバーから耳を劈くような警告音が鳴り響いた。
『——あら、そこまで辿り着いてしまいましたか』
スピーカーから、エニグマの嘲笑を含んだ声が流れる。
『好奇心は猫を殺すと言いますが……予定を変更しましょう。図書館の消去、今すぐ開始します』
「なっ……! まだ一時間も経っていないぞ!」
「あはは! ルールは私が決めるんです。さあ、全力で逃げてくださいね、イレギュラーの皆様?」
突如として、図書館の天井がノイズと共に崩落し始めた。
地下室の壁からも、真っ白な虚無が染み出してくる。
「カイ、早く!!」
アオイが俺の手を掴み、崩れゆく書庫を駆け上がる。
三日目の夜。
安全地帯は消失し、俺たちは真の『終わり』を告げる虚無に追い詰められようとしていた。
第24話、お読みいただきありがとうございました!
アオイの案内で辿り着いた地下書庫で判明した、世界の残酷な真実。
NPCと化した級友たちは「不要なデータ」として消去されようとしており、エニグマはそのプロセスを加速させます。
図書館さえも消去エリアに指定され、逃げ場を失っていく五人。
極限状態の中、カイの右目は次なる「生き残るための穴」を見つけられるのか?
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