第22話:過熱(オーバーヒート)する右目
サバイバル三日目。
運営委員エニグマが告げた新たなルールは、学園の一部を『消去エリア』とする無慈悲な宣告だった。
安住の地を追われ、押し寄せるバグの群れ。
四人の仲間を守り抜くため、カイは右目の能力を限界まで解放し続ける。
『おはようございます、生存者の皆様。三日目の朝です』
女子寮のスピーカーから、エニグマの平坦な声が響き渡った。
同時に、俺の右目が視界の端に不吉な警告色を表示する。
【警告:指定区域のデータ抹消が開始されます】
【対象エリア:女子寮、旧校舎、裏庭】
「……なっ!?」
窓の外を見ると、女子寮の端から、まるで消しゴムで消されたかのように世界が真っ白な虚無へと変わっていた。
「みんな、起きろ! ここが消される! すぐに逃げるんだ!」
俺の叫び声に、飛び起きた四人が荷物を掴んで廊下へ飛び出す。
しかし、寮の出口には、虚無に追い立てられるようにして異様に肥大化した『バグの群れ』がなだれ込んできていた。
「『赫炎』ッ! 邪魔ですわ!」
「通しません!」
レナの炎とセイラの鉄槌が道を切り開く。だが、敵の数が尋常ではない。
Phase 2になり、敵の強度も、そしてこちらの守るべき人数も増えている。
(……やるしかない。全員、無傷で切り抜けさせる!)
「レナ、十時方向から三体! セイラ、足元のノイズに捕まるな! アオイ、ユズは俺の背後から離れるな!」
俺は右目のリミッターを外した。
視界に映るすべてのオブジェクトの座標、敵の攻撃予備動作、崩落する壁の軌道を強制的に演算し、四人へ最短の回避・攻撃ルートを指示し続ける。
【演算負荷:85%……90%……】
【警告:神経系への深刻なダメージを検知】
「あぐっ……!」
右目の奥が、焼けた鉄を押し当てられたような激痛に襲われる。
視界が真っ赤に染まり、耳鳴りが思考を遮る。だが、俺が止まれば、指示を待つ彼女たちが死ぬ。
「カイ様!? 目から血が……!」
「構うな! 止まるな、走り抜けろ!」
一時間、あるいは永遠とも思える激闘の末。
俺たちはようやく『消去エリア』を脱し、まだ形を保っている図書館へと逃げ込んだ。
扉を閉め、セイラが重い書架を積み上げて入り口を封鎖する。
「……はぁ、はぁ……っ。みんな、無事……か?」
俺が問いかけると、アオイとユズが青ざめた顔で頷き、レナとセイラが駆け寄ってくる。
四人とも、煤汚れはあるものの、大きな傷はない。
「無事ですわ! でもカイ、あなたのその目……!」
「ああ、ちょっと……使いすぎただけだ。少し休めば……」
言い終える前に、膝の力が抜けた。
視界がぐるりと回り、床が顔に迫る。
右目の奥からは、カチカチと電子音が鳴り響き、高熱を帯びていた。
「カイっ!!」
「カイ先輩っ!!」
アオイとユズの悲鳴が遠く聞こえる中、俺の意識は深い闇へと沈んでいった。
リーダーとして、彼女たちの前で倒れるわけにはいかなかったのに。
思考はそこで途絶え、俺は泥のような眠り、あるいは死に近い気絶へと落ちていった。
第22話、お読みいただきありがとうございました!
三日目にして早くも限界を迎えるカイ。
四人の仲間を守りきるという重圧と、右目の過剰な演算負荷が、ついに彼の肉体を蝕みます。
倒れ伏し、意識を失ったカイ。
そんな無防備な彼の元へ、暗がりから新たな影が忍び寄ります。
次回、絶体絶命のカイを救うのは——!?
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