表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
確率0.00%の絶望を書き換える――バグだらけの世界で、俺だけが因果を絶断して最強の聖女たちを救う。  作者: 仁胡 黒
【Phase 2:世界再構築編】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/55

第19話:真夜中の点呼と、狂った笑顔

女子寮の一室で、ようやく束の間の休息を得た五人。

しかし、カイの右目は扉の向こうに迫る「異常な気配」を捉えていた。

夜が更けた学園で、かつての級友たちが魅せる『再構築された日常』の狂気が、静かに彼らを追い詰めていく。

【警告:高エネルギー反応を検知】

【接近中……対象:NPC(背景同化体)】

「……みんな、声を出さないで」

 俺の低く切迫した声に、部屋の空気が一瞬で凍りついた。

 ベッドで身を寄せ合っていたアオイとユズが息を呑み、レナとセイラが音もなく武器に手をかける。

 俺は部屋の明かりを消し、扉の覗きドアスコープにそっと目を近づけた。

 廊下を歩いてくる足音が聞こえる。

 コツ、コツ、コツ。

 それは、怪物の重い足音ではない。ごく普通の、革靴が床を叩く音だ。

 ——コン、コン、コン。

 扉がノックされた。

 等間隔で、機械のように正確なリズム。

「……レナさん、セイラさん。起きていますか?」

 聞こえてきたのは、聞き馴染みのある声だった。

 この女子寮のまとめ役である、三年生のサキ先輩だ。いつも優しく、面倒見の良い先輩としてレナたちも慕っていたはずの人物。

「サキ先輩……? こんな夜中に、一体どうしましたの?」

 レナが扉越しに、努めて普段通りの声を取り繕って尋ねる。

 すると、扉の向こうから「ふふっ」と穏やかな笑い声が返ってきた。

「夜中? 何を寝ぼけているの。今は『25時』。綺麗な赤い太陽が、真上に出ているじゃない。……さあ、朝の点呼の時間よ。早く扉を開けなさい」

 ぞわり、と背筋に冷たいものが走った。

 窓の外は暗闇だ。赤い空など出ていないし、時計は深夜の2時を回っている。

 25時? 赤い太陽? 彼女の認識は、根本から狂ってしまっている。

「……先輩、わたくしたち、少し体調が優れなくて。点呼はお休みさせて——」

 ——ガンッ!!

 唐突に、扉が激しく叩かれた。

 ビクッとユズが肩を跳ねさせ、アオイが両手で口を塞ぐ。

「開・け・な・さ・い」

 サキ先輩の声から、一切の感情が消え失せていた。

 覗き穴から外を見ると、彼女がこちらを覗き込んでいた。その顔には、口角だけが不自然に吊り上がった『笑顔』が張り付いている。

 だが、その瞳孔は焦点が合っておらず、まるで書き割りのお面のようだった。

「なぜ制服を着ていないの? なぜ泥で汚れているの? なぜ、存在しないはずの傷から『青い血』を流しているの?」

 支離滅裂な言葉が、ノックの音と共に連続して浴びせられる。

 ガン! ガン! ガン! ガン!

 力任せではない。物理法則を無視したような一定の力が、扉に不気味なへこみを作り始めていた。

「カイ様、これ以上は結界が持ちません! わたくしが——」

 セイラが香炉を構えようとするのを、俺は手で制した。

 右目に映るログが、最悪の可能性を示唆していたからだ。

【警告:NPCへの攻撃は『深刻なエラー』として処理されます】

【実行した場合、排除プログラム(スイーパー)を100体転送します】

「駄目だ。こいつらはバグじゃない。この狂った世界の『正常な住民』だ。攻撃すれば、俺たちがウイルスとして認識されて、大群を呼ばれる」

「そんな……じゃあ、どうすれば!」

 扉の隙間から、紫色のノイズが漏れ出し始めた。サキ先輩が、扉の物理演算をバグらせて強引に侵入しようとしているのだ。

 俺は痛む右目を強く押さえ、システムの根幹へアクセスした。

 戦うのではなく、システムそのものを欺く。

(この部屋は……空室だ。誰もいない。入居者のデータごと、俺たちの存在座標を隠蔽する……!)

【権限行使:区画データの上書きを実行中……】

【Room 304:入居者なし(Empty)に設定変更】

 俺の右目からツーッと血の涙がこぼれ落ちた瞬間、ピタリ、と扉を叩く音が止んだ。

「……あら?」

 扉の向こうで、サキ先輩の狂った声が、突然もとの穏やかなトーンに戻った。

「誰もいないのね。……そうよね、今は25時。みんな赤い空のお散歩に行っているんだわ。ふふっ、良い一日を」

 コツ、コツ、コツ。

 足音が、廊下の奥へと遠ざかっていく。

「…………はぁっ」

 足音が完全に消えたのを確認し、アオイがその場にへたり込んだ。

 ユズはガタガタと震えながら、声も出せずに涙を流している。

 これが、Phase 2。

 怪物と戦うだけの単純なサバイバルではない。一歩間違えれば、かつての友人に「異常者」として処理される、狂気と隣り合わせの箱庭なのだ。

 俺たちは暗闇の中、ただ無言で身を寄せ合い、朝が来るのを待つことしかできなかった。

第19話、お読みいただきありがとうございました!

今回はバトルを封印し、再構築された世界の「不気味さ」に焦点を当てたサイコホラー展開でした。

かつて慕っていた先輩が、システムの歯車として狂った常識を押し付けてくる恐怖。そして「戦ってはいけない敵」の存在。

単なるモンスターパニックではない、Phase 2の真の恐ろしさが少しずつ牙を剥き始めます。

明日になれば、食料や物資の確保のために、この狂った生徒たちが徘徊する校舎を探索しなければなりません。

五人の過酷なサバイバル、どう切り抜けるのか!?

続きが気になる方は、ぜひ下部の☆☆☆☆☆から応援よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ