第18話:歪んだ日常と、束の間の安息
九死に一生を得て合流したアオイとユズ。
泥だらけで疲弊した二人を連れ、カイたちはひとまず安全な場所を求めて移動を開始する。
しかし、校舎の中で彼らが目にしたのは、惨劇の記憶を失い、赤く染まった空の下で平然と談笑する生徒たちの異様な姿だった。
「あうぅ……ぐすっ。あ、ありがとうございますぅ……」
ユズは俺に支えられながら、何度も涙を拭っていた。
アオイも、レナに肩を貸してもらいながら、ボロボロになった剣を杖代わりに一歩ずつ進む。
二人とも体力的にも精神的にも限界なのは明らかだ。一刻も早く、腰を落ち着けられる場所を見つけなければならない。
「とりあえず、わたくしたちの寮へ行きましょう。あそこなら備蓄もありますし、立て籠もるには最適ですわ」
レナの提案に異論はなかった。
俺たちは人目を避けるようにして、旧校舎から中庭を抜け、女子寮へと向かう。
その途中、俺たちは『再構築』された学園の真の異常性を目の当たりにした。
「……ねえ、あの服、可愛いと思わない?」
「あはは、本当だ! 今度の休み、買いに行こうよ」
噴水のそばで、女子生徒たちが談笑している。
だが、その背景にある校舎はひび割れて宙に浮き、空は血のような赤に染まっているのだ。
「……狂っていますわ。あの子たち、この空を見て何も思わないのですか?」
セイラが痛ましげに目を伏せる。
記憶を書き換えられた『背景(NPC)』の生徒たちにとって、この地獄のような光景こそが「正常な日常」として上書きされている。
俺たち五人だけが、世界のバグに取り残された異物なのだ。
ようやく辿り着いた女子寮の一室。
レナが魔法で部屋に結界を張り、入り口を厳重に封鎖した。
「……ふぅ。とりあえず、ここなら一息つけますわね」
部屋に入った途端、アオイとユズが糸の切れた人形のようにベッドへ倒れ込んだ。
セイラが手際よく二人の汚れを拭い、温かい飲み物を用意する。
「……さっきのこと、夢じゃなかったんだよね」
コップを両手で握りしめ、アオイがぽつりと呟いた。
「時計塔が光って、世界が揺れて……。気づいたら、みんなさっきまでの惨劇を忘れて笑ってた。私たちだけが、あの化け物に追いかけられて……。カイ、私たちはどうなっちゃうの?」
不安に揺れるアオイの瞳が、俺の右目を見つめる。
俺は、先ほどエニグマから告げられた『Phase 2』の内容を、努めて冷静に説明した。
「……生存競争、ですか」
「残り時間は168時間。あと七日間、この歪んだ学園で生き残らなきゃならない」
俺の言葉に、部屋が重苦しい沈黙に包まれる。
たった数時間のPhase 1でさえ、俺たちは死にかけた。それが今度は七日間も続く。
「……でも、一人じゃありませんわ」
レナがアオイの手を力強く握った。
「わたくしたちもいます。カイの『目』もあります。……絶対に、五人全員でここを抜け出しますわよ」
「レナ先輩……」
レナの言葉に、ユズが少しだけ表情を和らげ、こっくりと頷いた。
少しずつ、絶望に支配されていた二人の瞳に光が戻ってくる。
だが、俺の右目は、壁の向こう側——寮の廊下を徘徊する『何か』の気配を捉えていた。
【警告:高エネルギー反応を検知】
【対象の認識を解析中……】
(……早速お出ましってわけか)
168時間のカウントダウンは、まだ始まったばかりだ。
第18話、お読みいただきありがとうございました!
女子寮の一室に逃げ込み、ようやく一息ついた五人。
しかし、記憶を書き換えられた生徒たちとの「認識のズレ」が、静かな恐怖として彼女たちにのしかかります。
束の間の安らぎも束の間、寮内に忍び寄る新たな影。
五人のサバイバル、初日の夜が幕を開けます!
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