表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/69

65 後ろにいたのは

 今日、孝太君は朝から機嫌が良かった。いつ遊びに行けるのかって、会うたびに聞かれていて、僕もちょっと困っていたんだ。

 でも、ついにその日がやってきた。孝太君をもてなすために、あのユリウスさんが夕ご飯を作ってくれるなんて、正直、僕自身も楽しみで仕方ない。


 そして、やってきた終礼の時間。

 いつものように先生が、朝預かった携帯を返してくれたんだけど、そのとき気になることを孝太君に言った。


「お母さんから電話があってね。学校が終わったら、すぐに連絡がほしいそうなの。ちょっと急ぎみたいだから、校門を出たら早めに家に連絡してあげてね」


 そう告げられて、孝太君は首をかしげていた。

 そして、僕と孝太君は急いで学校を出て、校門から少し離れた電柱のところで電話をかけることにした。


「あ、母さん。何、急用? 俺、これから拓海の家に――えっ! マジ? 父さん、帰ってるの? うん。うん。あー。うん。わかった。急いで帰るわ」


 孝太君が携帯を切ったところで、僕は駆け寄った。話を聞いちゃ悪いなと思って、少し離れて待っていたんだ。


「どうだった? 何かあったの?」

「あー、実は、父さんが帰って来たんだって」

「え、おじさんが!」

「そう。それでさ……拓海には悪いんだけど、これから家族会議があって、俺も参加しないといけなくなったんだ」


 いつも元気な孝太君が、すごく申し訳なさそうに僕を見る。


「そっか。そういう事情なら仕方ないよ。うちでご飯を食べるのは、またの機会にしよう」

「ほんと悪い。ごめんな、拓海」


 孝太君は僕に拝むように手を合わせると、そのまま走って行ってしまった。


 僕はその背中を見送りながら、ユリウスさんになんて言おうかと考えた。

 朝の様子だと、きっと張り切って準備してるはずだ。

 だけど、しょうがない。孝太君のお父さんって、ちょっと変わっていて、お店は孝太君のお母さんとおばあちゃんに任せきりなんだ。

 本人は「自分探しの旅」とか言って、ふらっとどこかへ行っちゃう人だから、帰ってきたら全員でお説教するんだろうな。


「でも、本当になんて言おう……」


 僕の口から、ぽつりとそんな言葉が漏れた時、誰かに背中を叩かれた。



 ◇◇◇


「すみません。遅くなりました!」


 ザックは焦った様子で台所へ入ってきた。走って来たのか、額には玉の汗を浮かべている。


「お帰り、ザック」


 コンロの前に立つユリウスが、顔だけ向けて言った。ザックとは違うエプロンを着ている。片手には菜箸を持ち、鍋いっぱいの油の中で、とんかつがじゅうっと音を立てている。


「病院で、何かあったのか?」

「初音さんと、そのお友達と話し込んじゃって、帰る時間を過ぎちゃったんです。すみません。俺も今から手伝います」


 ザックが、壁に掛かっている愛用のエプロンに手を伸ばす。


「あ、そのままでいいぞ。もう出来上がるから」


 ユリウスは、揚げたてのとんかつをキッチンペーパーを敷いた皿の上に乗せた。


「あー、駄目ですよ。キッチンペーパー使っちゃ」

「え、でも、余計な油を取ったほうがいいだろ」

「とんかつは、さくっとしたほうが美味しいから、バットを使って油を切るんです」とザックが言っていると、玄関で呼び鈴が鳴った。


 ユリウスとザックが、顔を見合わせた。

「着いたようだな」

 二人は拓海と孝太君を出迎えようと、玄関に向かう。


 そこには、なんだかやたらと顔が赤い拓海と、その後ろにもう一人。

 あれ、友達の孝太君を連れてくるんじゃなかったのか。

 拓海の後ろに立つセーラー服姿の子に、ユリウスは訝しげな視線を向ける。


「あ、あの、孝太君がおうちの用事で来られなくなったので、その代わりっていうか、あ、違う、違う。代わりじゃなくて、スペシャルゲストっていうことで、あの、ぜひにってお願いして、その、特別にうちに来てもらったんです」


 言っていることはさっぱり要領を得ないが、要するに、急用で来られなくなった孝太君の代わりに、この子が来たということらしい。

 困惑しているユリウスに向かって、すっとセーラー服の女の子が前に進み出た。


「初めまして。お招きありがとうございます。拓海君と同じ部活動に所属しています、杉咲と言います。今夜はよろしくお願いします」

 そう言って、杉咲先輩はにっこりと笑った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ