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53 魔法って面白そう

 今日は、僕が所属しているボランティア部の活動日だ。

 担任が宿題と明日の持ち物の確認をして、終礼が終わる。

 僕が部活に行こうと教室を出ようとしたところで「おい、拓海。この間のやつ、聞いてくれたか?」と孝太君が呼び止めてきた。


「この間の?」

「お前んちに行きたいから、一緒に住んでる人に都合聞いてくれって……なんだよ、まだ聞いてないのか?」


「ごめん。色々忙しかったから、その話してない」

「おいおい。拓海らしくないぞ。一体何を――」

「こら、孝太君。掃除当番さぼっちゃ駄目でしょ」


 僕と一緒に教室の外に出ようとした孝太君は、夏美ちゃんに腕をつかまれて、そのまま教室へと連行されていく。


「違う。俺はさぼったんじゃなくて、拓海に話があって」

「その前に、当番なんだから、掃除するの。あ、拓海君は部活だよね」

「うん。じゃあ、二人ともまたね」


 僕は、逃げるように教室を後にした。

 ごめん、孝太君。

 うちに住んでいるのは、魔界からやって来た人なんだ。

 孝太君はうちに来たがっているけど、呼んでいいのかまだ迷ってるんだよね……。


 僕がそんなことを考えながら廊下を歩いていると、部長の村田佳奈先輩が、ひょいっと僕の前に現れた。


「ねえねえ拓海君。聞いた? 樋口君の噂」

「あ、先輩、こんにちは。樋口先輩の噂ですか? いえ、知りません」


「本当かどうか怪しいけどさ……樋口君ね、神隠しに遭ったんだって」

「神隠し、ですか?」


「そう。家に帰ってこないっておうちの人が心配してたら、当の本人は子供の夢動物園にいたんだって」

「動物園に……」


「しかもね、モルモットの小屋で目が覚めたんだって。樋口君、状況が理解出来なくて、パニクってたら、モルモット全員からお説教されたんだってよ。あはは。そんな漫画みたいなこと、あると思う?」


「えっと、不思議な話ですね。はは……」


 僕は、なんとか笑顔を作った。だって、その話を、僕はもう知っていたから。


「あ、やだ。宿題のプリント置いてきちゃった。拓海君、先に行ってて」

「はい。わかりました」


 村田先輩は、ぱたぱたと廊下を走って行ってしまった。

 一人残された僕は歩き出そうとして、廊下の壁に飾られた絵が目に入り、思わず吹き出してしまう。仲の良さそうなモルモットの親子が描かれていたからだ。


 あの日、ユリウスさんが樋口先輩を自宅じゃなくて、動物園のモルモット小屋に移動させたって教えてくれたことを思い出す。

 気を失っていた樋口先輩が目を覚ますと『嶌村拓海に手を出すな。出せば、必ず不幸が訪れるぞ』って、モルモットに言われたらしい。


 その話を聞いた時は本当かなって、ちょっと疑ってた。でも、さっきの村田先輩の話で、ユリウスさんの言ったことは、本当だったんだって、僕は納得した。

 きっと樋口先輩は、ものすごく驚いただろうな。うん。これに懲りて、僕の学校生活も平和になってくれるといいんだけど。


 それにしても、魔法ってすごい。

 ものすごく興味が湧いてきた。だって、もし魔法が使えたら、いろんな事が出来そう。例えば、例えばだけど……ある人が僕のことをどう思っているのか、心の声を聞いちゃうとか。

 あー、でも、もし全然関心がなかったら……。いや、それどころか、嫌われてた場合は、どうしたら……。


「あ、そういう時は、ほれ薬を作っちゃえばいいのか」

 つい妄想が、声に出てしまった。


「薬って、どこか具合悪いの?」

「うわー! す、杉咲先輩」


 後ろに、杉咲先輩が立っていた。


「ごめんね。急に声をかけたから、驚いちゃった?」


「あ、はい。いえ、違います。確かにびっくりしたけど、それはその、心の準備が、その、できてにゃくて」

 やばい。噛んだ。


「……拓海君って……面白いね」

 そう言って、どこか呆れたように笑われた。

 でも、そんな先輩も、僕にはすっごく可愛らしく映る。


「もうすぐ始まるから、行こう」

「はい」


 僕らは並んで歩き出した。先輩の方が、僕より背が高い。ああ、今すぐ身長がほしい。

 せっかく二人きりなんだから、何か話さないと――。


「あ、あの、先輩。この間は、差し入れありがとうございました」

「え? ああ……姉がコンビニで大量買いして持て余していたから、もらってくれて、こっちも助かったのよ。……それに、本当にちょうどいいタイミングだったし」


「えっと、その、沢山もらってしまったので、あの、お礼をしたいんですが」

「お礼? そんなの必要ないから、気にしないで」


「いえ。受けた恩は返す。うちのおばあちゃんもよく言っているんです。だから、是非、お礼をさせてください!」

「そう、なんだ……。じゃあ、何がいいか、ちょっと考えるね」


「はい。ありがとうございます」

「この場合、お礼を言うのは違う気がするけど……ほんと、変な子」

「え? なんですか、先輩」

「ううん。なんでも」

 

先輩が、にっこり笑った。

 先輩とお喋りしているだけでも胸がドキドキしているのに、至近距離での笑顔って――僕は完熟リンゴよりも赤くなってしまった。


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