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48 魔王親衛隊 D班

 魔王親衛隊とは、魔王の特別警護のために編成された組織である。その本部は、魔王城の中でも最重要区域とされる魔王の居住区に置かれている。


 そして今、親衛隊副隊長クラウスの執務室には、呼び出しを受けたD班の面々がそろっていた。


 重厚な机の前にはD班リーダーのオースティンが立ち、一歩後ろにメンバーであるエヴァン、リック、アンソニーが横一列に並んでいる。


 オースティンは銀縁の眼鏡がよく似合う理知的なタイプで、責任感が強い。エヴァンは親衛隊の中でもずば抜けた実力の持ち主だが、どこか覇気に乏しく、存在感が薄い。アンソニーは美容に詳しく、艶やかな髪と白い肌の持ち主。

 そして、その二人の間に立っている小柄な少年が、親衛隊最年少記録で入隊したリックである。


 整列した四人をじろりと見渡し、クラウスが口を開いた。


「車の修理報告書が俺のところに回ってきた。事故があったなんて話、聞いてないんだがな……どういうことか説明しろ、オースティン」


「はっ。信号無視をした車と接触し、車体に損傷が生じたため、修理が必要になりました。些末な事故だったので、お忙しい副隊長の耳に入れる必要はないと判断し、報告しませんでした」


「ほう。信号無視をした車、ねえ。お前の言い方だと、相手側に非があるように聞こえるが……それで合っているか?」

「それは……」


 鷹のように鋭い眼差しを向けられ、オースティンは言葉に詰まる。メンバーを庇うため、ただの接触事故として内々で処理してしまうつもりだった。だが、上官への虚偽申告は重罪だ。何故なら、親衛隊隊長は名誉職にすぎず、実際に親衛隊を率いているのは目の前にいるクラウスなのだ。


「訂正します。相手に落ち度はなく、こちらが信号を無視したことによる接触事故です。申し訳ありません」


「なるほど。相手はきちんと交通ルールを守っていた、と……ああ。それと知っているか。あの日、大量の鶏が公道を走っていると、何件も通報が入って、交通管理部が大騒ぎになったことを」


「も、申し訳ありません……」

「それで、運転していたのは誰だ?」


 ばっと、エヴァンとアンソニーが、二人の間に立っているリックを指さした。


「な、なんだよ。裏切り者!」

 そんな様子を見て、オースティンはため息をつき、覚悟を決めて語り出した。


「あの日は、来月予定されている視察ルートを確認するため、市内を走っていました。本部に帰還する途中、リックが喉が渇いたと騒いだため、カフェに立ち寄り、自分とエヴァンが買い出しに行き、リックとアンソニーは車外で待機していました。その時、不審な車両を目にしたリックが、アンソニーの制止を振り切り、一人で追跡を開始したのです」


 オースティンの報告を聞き終えると、クラウスは長い長いため息をついた。


「ったく、入隊したばっかで、なにやってるんだ、リック。こんな不祥事、前代未聞だぞ!!」

「だって、退屈してたんだよ。クラウスおじさん」


「おじさんじゃない。副隊長と呼べ。親戚だからといって、馴れ馴れしくするな」

「あー、そうだった。ごめん、おじさ……じゃなくて、副隊長」

「……で、単独行動した理由はなんだ。言ってみろ」


「だから、退屈だったんだって。せっかく親衛隊員になったっていうのにさ、やることといったら、訓練と警護ばっか。事件のひとつも起こらない。刺激がないんだよ、刺激がぁ。で、そんな時、面白そうな奴が乗った車が現れた。なら、追いかけるしかないじゃん」


 リックがにやりと笑った瞬間、部屋が揺れた。


「この馬鹿者がーーーーーーー!!!!!!」

 クラウスの雷が落ちたのだ。衝撃で、机に置かれていた役職と名前の刻まれたプレートが落ちかけ、オースティンが素早くキャッチする。


「親衛隊は、魔王様をお守りするためにあるんだ。刺激なんてもんはな、いらないんだよ。殺伐とした事件は勿論、イレギュラーな出来事だって起きない。そんな平和で平凡な毎日こそが、俺たちにとって一番さいっこーなお勤めなんだ。覚えとけ!」


「えー、そんなん、つまんない。やる気出ない」


「うるさい! 口答えするな! いいか、よく聞け。お前の自分勝手な行動のせいで、こっちは補償金を請求されてるんだ。廃車になった家畜運搬車と、逃げた鶏の代金をな! 経理部の部長からは『親衛隊はいつから家畜運搬車の護衛もするようになったんですか?』って、嫌味まで言われたんだぞ!!」


 ばん、とクラウスが机を叩いた。あまりの剣幕に、リックの顔が引きつる。


「え、まさか。これで除隊……なんて、そんなことはないよね」

「……ふん。そういう事もありえる」

「そ、そんなあ…………!」


 本気で狼狽えるリックを見て、クラウスの怒りもようやくおさまってきた。


「確かに、今回の件、リックの愚行が招いたことだが……わかっているな、オースティン」


「はい。メンバーの失態は連帯責任。処罰は全員で受けます」

「え?」と、エヴァンとアンソニー、そしてリックまで同時に声を上げる。


 オースティンは、さっきまでの穏やかだった表情を一変させて振り返り、三人を鋭く睨みつけた。


「では、処分を言い渡す。今回の騒動ならびに報告遅延の罰として、お前らには三日間の自宅謹慎を命じる」

 クラウスの言葉を聞き、四人はほっと安堵の色を浮かべた。

「と、一ヶ月間の城内清掃だ」


「まじか」と、エヴァンが露骨に嫌そうな顔をする。

「親衛隊員である我々が清掃だなんて、そんな恥ずかしいこと、出来ません」とアンソニー。それに、リックも全力でうなずく。


「はい。確かに承りました」

「「「オースティン!!!」」」


「静かにしろ。除隊させられたいのか」

 再度オースティンに睨まれ、三人は、「うっ……」と言葉につまった。


「では、これにて失礼します」

 オースティンに促され、部屋を出て行こうとしたD班を、クラウスが呼び止める。


「お前たち。リックが追い回した車の正体を知っているのか?」

「いえ」と答えかけたオースティンを押しのけ、リックが前に出た。


「そんなの俺に聞けよ。おじさ……じゃなくて、副隊長。後部座席に始末屋のユリウスが乗ってたから、あいつの車だろ。運転手は、その連れの狼族だな。俺より、ちょーっと運転は、上手かったけど、次はそうはいかない。今度は、俺がぎゃふんと言わせてやるぜ!!」


 腕組みし、鼻息荒く言い放つリックの言葉に、三人が顔を見合わせた。


「ユリウスが乗っていた?」とオースティン。

「あの男の上司って」とエヴァン。

「その高級車は、特権エリアの方角からやってきた」

 アンソニーが、はっと息を呑む。


「そうだ。ユリウスが乗っていたのは、ブラッドフォード卿の車だ」

「「「!」」」


 死刑判決にも等しいその名を聞き、リックを除く三人は真っ青になった。


「自分たちのやらかしが分かったのなら、張り切って城を磨けよ」

 そう言ってクラウス副隊長は、にんまり笑った。



 ◆◆◆◆◆


 後日。魔王城の庭園では、草むしりをする親衛隊D班の姿があった。

 他の三人が汗だくになって草を抜く横で、アンソニーだけは帽子と手袋でばっちり日焼け対策をしていた。


「あはは。見ろよ、あれ」

「おーい。いつ転職したんだー」

「さっすがダメダメD班。やってることがぶっ飛んでるぞ」


 他の親衛隊員が通りかかる度に、野次が飛んでくる。

 オースティン、エヴァン、アンソニーの三人は、無視を決め込み、黙々と草を抜いていく。だが、三人に比べてまだ年若いリックには、それが出来なかった。


「くっそー。これも始末屋の……ユリウスのせいだ。覚えてろよ。この屈辱、絶対倍にして返してやるからな!!!」

 引き千切った草を握りしめ、リックは怒りの炎をたぎらせた。



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