表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/57

45 よそよそしさの向こう側

 夕食が済んで、皇子教育の時間になってもユリウスさんは帰って来なかった。


「すみません、拓海様。用事が長引いているようで、今夜の皇子教育はお休みになります」


 ザックさんが、申し訳なさそうに言ってきた。

 勉強漬けから解放されて、自由時間が増えたっていうのに、僕のテンションは上がらなかった。

 落ち込む僕を心配してくれたからなのか、ザックさんが「ゲームしましょう」と言い出した。


 ゲームなんて気分じゃない……。だけど、ザックさんにこれ以上心配かけたくないし、コディがゲームのコントローラーを引っ張り出しているのを見て、みんなでゲームをすることにした。


 選んだのは、車のレース。誰が一番先にゴールするかってやつだ。

 最初は仕方なく始めたけど、やってみれば案外悪くない。


 ザックさんはカーブの度に壁に突っ込んで、「あれ、あれ。どうなってるんだ?」とずっと苦戦してるのに、コディはいつの間にかショートカットを見つけて、ひとりだけめっちゃ上手い。

 気づいたら、僕も負けたくなくて、コントローラーを握る手に力が入っていた。

 そのとき、居間にユリウスさんが入って来た。


「遅くなって、すみませんでした」

「ユリウスさん!」

 僕はコントローラーを放り出して、ユリウスさんに駆け寄った。


「用事は、用事はもう終わったんですか?」

「あ、はい」

 そこで言葉を一旦切ったユリウスさんは、僕に深く頭を下げた。

「拓海様。先日の歴史の本、大変申し訳ありませんでした」


「え?」

「例の本を用意した者に会って、直接抗議をしてきました」

「抗議?」


 僕がぽかんとしていると、後ろからザックさんが教えてくれた。

「あの本って、魔界から取り寄せたものなんですけど、こちらの意図と違うものが届いちゃったんです。それでユリウス様はすごく怒って……。拓海様に嫌な思いをさせたって。それで、ちょっと俺たちの上司のところに殴り込みに行ってたんです」


「な、殴り込み?」

 僕が目を白黒させていると、

「殴り込みだなんて、大げさな言い方するなよ、ザック」

「えへへ、すいません」

 二人のやり取りを聞いていて、僕もわかった気がする。


 人間を馬鹿にしたような本を使ってしまったことを、ユリウスさんは心苦しく思っていたんだ。

 だから、僕に対してちょっとよそよそしかったのかもしれない。

 おまけに、これからのことまで考えて、自分の上司さんに改善を求めて抗議してきたなんて――。

 そんなの、そんなのって。だめだ、顔がにやけちゃう。

 さっきまで不安でいっぱいだった僕の胸が、嬉しさではちきれそうになった。


 ゲームが中断されて、コディが続きをやろうと僕の手を引っ張る。


「今日って、皇子教育はお休みですよね?」

「はい。突然で、すみま――」

「じゃあ、今夜はゲームをしましょう。ユリウスさんも一緒に!」


 僕のきらきらした目を見て、ユリウスさんは、ふっと笑った。


「持ち帰った荷物があるので、部屋に置いてきます。それから、私も参加させてください」

「はい。ちょ、コディ。わかった、わかったから、そんなに引っ張らないでよ」


 ゲームに戻った僕は、このときまだ気づいていなかった。

 さっきまで優しい光をたたえていたユリウスさんの目が、その奥でひっそりと闇を含んでいたことを。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ