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22 就寝前のひととき

 ユリウスは、台所の入り口に立つ拓海に気が付いた。


「拓海様、どうしました? 眠れませんか?」


「喉が渇いたから、水を飲もうと思って……それより、ユリウスさん。結婚って、いつするんですか?」


 すごい勢いで、拓海がユリウスの横に座ってきた。


「そんな予定はありません、ザックの冗談です」


「ねえ聞いて下さい、拓海さまぁ……ユリウスさまはですね、一族を再興するためにい、一日でも早く結婚して、後継ぎをですね……うい……ひっく」


「ザック、お前、今日はもう飲むな」


 ザックは手に持っていたグラスを、ユリウスに取り上げられてしまった。


「ちょっと、ユリウスさまあ。なーんでそんなに冷たいんれすか? まさか、俺よりも、あの娘が良いっていうんじゃないでしょうね?」


「あの娘って?」


「仮面のー、あの娘ですよ。フフフ……ユリウスさまったら、気に入っちゃったみたいなんれす」


「ええー、そうなんですか! じゃあ、僕、応援します」


 酔っ払いの戯言なのに、拓海は本気にしたのか瞳が輝いている。ユリウスはなんだか頭が痛くなってきた。


「気に入ったのではなく、拓海様を襲った犯人だから、気に留めているだけです」


「犯人って……あの人、捕まったら何か罰を受けるんですか?」


「もちろんですよー。皇子襲撃なんて、一族郎党根絶やしですよ。ひっく」

 ザックの言葉に拓海の顔が青くなった。


「ね、根絶やし? そんなの絶対駄目です!……確かに、突然あの人が現れて、驚いたし、魔獣は怖かった。でも、それだけで一族根絶やしだなんて、可哀そうです。お願い、ユリウスさん。あの人を捕まえたり、罰を与えたりしないでください」


「危険な芽を摘まずに放置しろと?」


「……僕、あの人は危険じゃないって、そう思うんです」


「その根拠は?」


「だって、僕を殺す気なら、いくらでもその機会はあった。なのに、そうはしなかった。あの魔獣だって、威嚇はしても、決して僕を傷つける事はしなかった。……結局、あの人達が何をしたかったかは不明だけど、一族が根絶やしになるほどの罪は犯していません」


 ほう。ユリウスは、内心、感心した。拓海は魔界の者に襲われてショックだったろうに、ただ怯えるだけではなく、的確な状況分析が出来ている。


「わかりました。拓海様が、そうおっしゃるのなら」

「良かった」


 本来なら、ブラッドフォード卿に報告するべきだが、公にすればあの娘は間違いなく極刑に処せられるだろう。それでは拓海の意に反する。それにあの娘もすでに罰も受けた。スナイルの毒で一月ほどは苦しむのだから今回はそれで手打ちとしよう。


 しかし、チェザーレ一族の秘密を知っていた事は気になる。あの娘の素性については、個人的に調べるか。玄関の置物に、どうも術が仕掛けられていたようだし。


 ユリウスが思いを巡らせていると、腕が重くなった。見ると、拓海が寄りかかり、安心した顔で寝ている。そして、ザックもテーブルに突っ伏して、いびきをかいていた。


「まったく、世話の焼けるふたりだ」


 言葉とは裏腹にユリウスの声は、なんだか楽しそうだ。けれど――。


「結局、あの洗い物は俺ひとりでやるのか……」


 流しに積まれた皿の山に、ユリウスは遠い目をするのだった。



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