19 拓海の学校生活
食事を終え、お茶を飲んでいる時、ユリウスが中学校の件を口にした。
「拓海様、中学校はどうしますか? 皇子教育の量は膨大です。中学校に通う片手間に出来る、そんな容易なことではありません」
「わかっています。僕は……もう学校には」
行かない。拓海は、そう言おうとしたようだが、黙ってしまった。学校への想いが断ち切れず葛藤しているのが、ユリウス達にも見て取れる。
「なあ、ザック。魔界の人間界情報って最新のものか?」
「え?」
ユリウスの意味ありげな視線に、ザックは、ぴんときた。
「俺が知ってる人間界の情報は古くて使い物になりませんでした。拓海様が人間界の事を学ぶのは、魔界にとっても役に立ちますね。うん。絶対そうですよ」
「え、それじゃあ」
拓海はユリウスとザックを交互に見た。彼らの瞳に浮かぶ温かい光に、はっとなる。
「学校に、学校に行ってもいいんですか!!!」
「……それを決めるのは拓海様です。ただし、学校と皇子教育の両立を目指すのなら、相当な覚悟がいります。学習時間を確保する為に、日々の生活を厳しく管理する必要があるし、自由時間なんて無いかもしれない。それでも途中で投げ出さず、最後までやり遂げる自信はありますか?」
ユリウスの問いに拓海は夢中で首を縦に振る。
「やる。やります。僕、学校と皇子教育を両立させます!」
「じゃあ、俺は、拓海様とユリウス様を全力でサポートをします。料理に洗濯、庭の草むしりにぽん介の世話。初音さんのお見舞いも、全てこのザックにお任せ下さい!」
「ありがとう、ザックさん! 凄く頼もしいです!」
拓海とザックが、固い握手を交わす。その横で、ユリウスは今後について思案する。
中学校に通いながらの皇子教育となれば、拓海の負担が大き過ぎる。予定されていた皇子教育の内容を精査し、必要最低限にするべきだろう。それにはブラッドフォード卿の許可がいるな。
通学の許可が出た事に気をよくした拓海は、二人に、自分の事をもっと知って欲しいと話しを始めた。
勉強は割と好きだけど、運動は苦手。幼馴染がいて、その子の家は駅前の商店街で八百屋をしていて、よく利用する事。中学校の副担任は、面倒見がよくて、生徒から人気がある。最近、部活動に入り、週二回活動をしている事など。
「拓海様、その部活動、辞めることは可能ですか?」
ユリウスの言葉に、拓海は飲んでいたお茶を噴き出しそうになった。
「な、な、なんで、どうして?」
「皇子教育の座学を減らしたとしても、実技の時間が足りません。少しでも学習時間を確保したいのです」
「駄目駄目駄目。絶対駄目! 学生にとって部活動というのは、青春なんです。これを辞めちゃったら、学校へ通う意味が半減しちゃいます。部活と学校はセット、一心同体、比翼の鳥。切り離すことなんて出来ません! 誰になんと言われても、僕はぜー-ったい部活は辞めませんから!!!」
拳を振り上げて熱弁する拓海に、ユリウスは若干引き気味だが、ザックが助け舟を出す。
「拓海様がこんなにも、やりたがってるんです。子供の可能性を大人が潰しちゃ駄目ですよ。ね、ユリウス様」
「そうはいっても……」
「僕、全力でやりますから! それに、部活での体験も人間界の見聞が広がるはずです。だからお願いです。ユリウスさんも、認めてください」
拓海とザックの二人から、期待のこもった眼差しを向けられ、ユリウスが折れた。
「……はあー。わかりました。部活動を認めましょう」
「やったー!」
ハイタッチする拓海とザック。ユリウスは、ふと浮かんだ疑問を口にする。
「拓海様。ひょっとして杉咲先輩も同じ部活動ですか?」
ザックと盛り上がっていた拓海が、ぴたっと固まった。
「やっぱりそうですか……」
「あ、あの。部活の皆は、全員仲が良いんです。だから、その、別に、杉咲先輩と会う機会が減るのが嫌とか……そういうのじゃ、ありませんから」
「その先輩って、拓海様に差し入れしてくれた女の子でしょ? どういう子なんですか?」
「杉咲先輩は、明るくて、優しい……です」
「可愛いんですか?」ザックがストレートに質問した。
「え? か、可愛い?」
「あれ、違うんですか?」
「違いません!! 先輩は、その、可愛いです……すごく」
ユリウスは、耳まで赤くする拓海を見て、微笑ましいと思う。拓海の様子からして、初恋なのだろう。だが、拓海のプライベートに立ち入るのはよくない。なので、それ以上その話題に触れるなと、ザックに鋭い視線を送る。
「あー。……ところで拓海様。部活動って何をするんです?」
ユリウスの牽制を受け、ザックは話題を変える。
「えっと、スポーツとか音楽とか、部によって活動内容は違います。因みに、僕はボランティア部に所属しています」
「ボランティア?」
聞き慣れない言葉に、ザックが首をひねる。
「ボランティア部はですね、校内の花壇の植え替えしたり、季節事に校内のイベントを企画したりします。他には、駅前で募金活動もします。あ、先週は、幼稚園で紙芝居を」
「ちょっとお待ちください!」
ユリウスが拓海を止めた。
「拓海様が入っている部活動は、他者に対する奉仕活動のことなんですか?」
「そうです。地域や社会に貢献する、とっても意義のある部活動なんですよ」
誇らしげに胸を張る拓海に、ユリウスは絶句した。
皇子が、魔王の一人息子が人間のために、自分の時間を割いて奉仕する? その理解しがたい行動に、ユリウスは、唖然としてしまうのだった。




