表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/60

17 もう一人の招かれざる客

 少女を奪取した魔獣が、階段の踊り場にいる。その傍らには、フードを目深にかぶった何者かが立っていた。


「遅いよ。大変だったんだからね」少女がわめく。

「あー、めんご。帰ったら、ゆっくり聞くからさ」


 少女よりも年上らしい女の声がする。


「いつの間に……」


 ユリウスは、新たな侵入者にまったく気づかなかった。それどころか、ザックが抑え込んでいたはずの魔獣も自由になっている。

 ばっと、振り返ると、またもやザックが安眠していた。胸の上で両手を組んで。


「はいはい。今日のところは、これでお開きにしよう。夜も遅いしね」


 緊張感のない声で、女が提案してきた。ユリウスは、にこりともせず答える。


「逃がすと思うか?」

「うん♪」


 侵入者が右手に隠し持っていたスイッチを押す。

 ユリウスの背後で爆発音がした。玄関に飾られていた置物が吹き飛び、爆風の余波で、玄関のドアが外れる。


 侵入を防ぐ結界を破って家に入り込み、さらには爆発物が仕掛けられていた。ユリウスの短剣が、大振りの剣へと変化した。


「あー、悪かったよ。ちょこっと、驚かせようと思っただけだから、そんなに目くじら立てないで。こっちは、お兄さんみたいに、戦い慣れしてないんだ。無駄な争いは、なしにしよう。ね」


「駄目よ! あのイケメン気取りの性格悪男は、全魔界女性の敵よ。ここで一発かまし」


「はいはい。ちょっと、黙ろうか。ややこしくなるからさ」


「ううう……」


 少女は、口にガムテープを張られて、喋れなくなってしまった。


 全魔界女性の敵って……悪口がスケールアップしてないか?


 ユリウスは内心でつっこみを入れる。が、今は目の前の侵入者を捕えるのが先決。ユリウスの魔力を感知した剣が、淡く光り出した。それに気付いた、女が慌てて言う。


「おっと、それ以上動くと、あっちの部屋が吹き飛んじゃうかもよ。誰かさんには、贈り物を渡しておいたからさ」

「!」


 ユリウスが動揺した。

 女はその僅かな一瞬を見逃さなかった。侵入者達の足元から旋風が巻き起こる。そして、次の瞬間には、忽然と消えてしまった。


「くそ、やられた!」

 眠っているザックを残し、ユリウスは居間へと走った。


「拓海様!」

「ユリウスさん。無事で良かった」


 居間に入って来たユリウスに、拓海が駆け寄ってきた。


「私の事より、拓海様は大丈夫ですか? 怪我はしていませんか?」

「僕は大丈夫です。もう、背中も痛くないし……でも、さっき変な人がやって来て、うるさくしたお詫びにって、これをくれました」


 拓海が見せて来たのは、棒付きのキャンディーだった。


「ふざけた奴だ……拓海様、それは絶対、口にしないでください」

「そんなことより、ユリウスさん、手は、手は大丈夫ですか?」

「手ですか? ああ。大丈夫です」

「良かった……ってあれ?」


 拓海がユリウスの右手を見て、目を見開いた。ユリウスは治癒魔法が使えるはずなのに、まだ生々しい傷が手の甲にある。その視線に気づき、ユリウスが手を動かして見せる。


「この通り、止血は出来てます」

「……でも、それだと、怪我をした所は、痛いですよね?」

「大丈夫です。痛みには慣れています」

「慣れてるって……」


 心配そうな瞳で拓海が見てくるので、ユリウスは苦笑いをする。


「私の治癒魔法は、自己流のせいか、術者本人には、効果が半減してしまうんです。でも、すでに処置をしたので、拓海様が心配されるほどでは、ありません」


「ユリウスさん………………」


 拓海が黙ってしまったところで、ザックが頭を掻きながら居間に入って来た。


「すみません。ユリウス様。俺、また眠らされちゃって……」

「気が付いたか……おい、それどうした?」

「わ、ザックさん!」


 二人の視線がザックの鼻に集中した。


「開いてた玄関からぽん介が入ってきて、動かない俺を心配して、鼻をがぶっと、やったんです。おかげで、目が覚めました」


 ザックの鼻に、はっきりくっきり、見事な噛み痕がついている。


「随分と懐かれたんだな。今度から、年寄りと子供だけじゃなくて、動物にも好かれるって、言わないとな」


 笑いながら、ユリウスがザックの鼻に手をかざすと、傷がほとんどわからない程度になった。



「ありがとうございます。あ、そうだ。ユリウス様、お耳に入れたいことが」

「後で聞く。まずは、玄関の修理と結界の確認だ。拓海様は、もうしばらく、こちらでお待ちください」


 だが、拓海が手伝うと譲らず、玄関には三人で向かった。外れたドアを直し、散らばった置物の欠片を片付ける。

 壊れた置物を見た拓海が、こっそり笑っていたのを、ユリウスは見逃さなかった。


 居間を出てから、ずっと自分の後をついてくる拓海に、ユリウスが声をかけた。


「拓海様。今夜は危険な目に合わせてしまい、申し訳ありませんでした。私の不手際です」

「違います! 悪いのは僕です。僕が感情的になってひどい事を言ったから……だから僕のせいです」

「いいえ。最初に、拓海様を傷つけたのは私です。全ての責任は、私にあります」

「そんな、ユリウスさんのせいじゃないです。僕が」


 自分が悪いと主張する二人の不毛な会話に、ザックが終止符を打った。


「はい、ストップ! ちょっと落ち着いて下さい。拓海様もユリウス様も、肝心な事が抜けているから、こういう事になったんですよ」


「肝心なこと?」


「ザックさん。なんですか、それは?」


「お互いを知る事ですよ。何を考え、どうしたいとか。俺が思うに、二人は絶対的に会話が足りていません。だから、すれ違って悪い方向に進んでしまった……。なので、どうでしょう。今夜はお互いに自分の思っている事を話してみませんか? 晩飯を食いながらね」


 そう言ってザックが、にかっと笑った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ