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16 ユリウスの尋問

 縛られた少女は、逃げようともがくが、巻き付いた鞭はびくともしない。少女は目を吊り上げ、ユリウスに食って掛かった。


「ちょっと、レディに何するのよ!」

「君には、訊くことがある。誰の命令だ?」

「はあ? 命令? くっだらない……エリン。こいつどかして」


 魔獣に向かって言うが、少女の目に映ったのは、大男と睨み合い、低い唸り声をあげる魔獣の姿だった。


「ユリウス様。遅れてすみません」

「動けるようになったか、ザック」

「まだ、少し薬が残っていますが、こいつを捕まえるくらいには回復しました」


 ユリウスは拓海に家を追い出された後、庭に漂う香りを辿り、木立の中で眠るザックを発見したのだ。


 この匂い、狼族の神経系統に作用する、ジャバンの根を焚いたものだ!


 ユリウスは、ザックの額に手をかざして覚醒を促す。すぐに瞼は開いたが、瞳に力はなく目の焦点が合わない。ユリウスは朦朧とするザックに、「意識がはっきりしたら、家に戻れ」と言い残し、急ぎ拓海の元へ向かったのだ。


「ったく。俺を眠らせるだなんて、ずいぶん舐めたマネしてくれたな。ユリウス様、こいつは俺が捕まえますから、そっちお願いします」


 ユリウスに次いで、突然現れたザックに、少女は目を剥いた。


「なによ、あれだけの量を使ったのに、どうして目を覚ますのよ」

「そんなの、ユリウス様が治癒魔法を使ったからに決まってる!」


 どや顔で言うザックに、少女が驚いたように息を呑む。そして、何事かぼそっとつぶやいた。


「魔獣の助力はない。痛い思いをしたくなかったら、素直に話す事だ」

「へえー。痛いって何が? 拷問でもするのかしら?」


 挑発するように、少女は、つんと顎をあげてみせる。その反抗的な瞳の端が、ユリスが手にする短剣を捉えた。


「拷問など時間の無駄。口を割らないのであれば、これを使うだけだ」

「まさかと思うけど……刺したり……しないよね?」

「ああ。刺すことはない」

「ほっ」

「刺すんじゃなくて、切るんだ。君の頸動脈をね」


 ユリウスがにっこり笑って言う。そして、すっと剣を少女に向ける。その姿に、少女が、わなわなと震えだした。


「――――から……」

「うん? 何か言ったか?」

「お父様に言うから!!! あたしを脅したって!! 絶対、お父様が黙ってないから。お父様は凄いのよ。あなたなんて魔界から永久追放なんだからね!」


 意外な返しに、ユリウスは一瞬、目が点になる。

 こういう時、女の犯罪者は――。


 A 色仕掛け 「うふん。あたしの事、好きにしていいのよ」

 B 身の上話 「親の借金が……」「兄弟が不治の病で、ううう」


 そして、A・Bとも最後は「すかしてんじゃねえぞ、この野郎! ぶっ殺してやる!」と襲い掛かってくるのがお決まりのパターンだった。


 それなのに、まさかお父様とは……。思わず、口元が緩みそうになるが、なんとか堪え、厳しい表情を作る。


「君の父親が何者か知らないが、自分の娘が皇子に危害を加えたと知れば、速攻で役所に突き出すだろう」

「馬鹿言わないで! お父様はそんな事しないもん」

「どんな権力者だって、自分の身は可愛いものだ」

「……あなたもなの?」

「?」


「あなたも自分の身が可愛いから、皇子に従うの?」

「……そうかも、な…………さて、お喋りはここまでだ。こちらも暇じゃないんだ。君は、皇子暗殺未遂の重罪によりここで処刑する。言い残す事はあるか?」

「え、ちょっと待って、尋問は? もう終わりなの? そんな短すぎ、きゃあーーー」


 ユリウスが腕を振り上げた。天上の明りで光る短剣に、少女が絶叫する。


 信じられない。自分の人生が、こんな急に終わるなんて。そんな。そんなの。


「デートもまだしたことないのに、こんなところで死ぬなんて、絶対、絶対いやーーー!」


 つい心の声が漏れた。


 無表情を貫いていたユリウスが、ぷっと噴出した。我慢出来なかった。

 はなから少女の命を奪おうとは、考えていない。拓海へ向けるのは、怒りの感情であって、殺意はない。

 しかし、極秘情報である拓海の存在を知っていたのは看過できない。入手経路を明らかにする為、威圧的な態度で大いに怖がらせ、自白させるつもりだった。なのに、うっかり笑ってしまった。


「ひどい! 殺す気なんてないのに、わざと短剣を突き付けて、怖がらせたのね」


 ユリウスの真意に気づき、少女の顔が真っ赤に染まる。


「そんな性格がひねくれた男はね、ぜー―――ったい結婚出来ないから。それで最後には、孤独死して、お墓参りだって誰も来てくれないんだから!!」

「そ、そうか」

「そうよ! それに何? その長く伸ばした髪。僕の髪はサラサラですよって、自慢したいわけ? ふん。そんなに髪の毛が大事なら、これからどんどん抜けて薄くなるよう、毎晩、魔王様にお祈りするから。それでそのうち罰が当たって、ハゲ頭になって、婚活地獄へ落ちるのよ! いい気味だわ!!!」


 一気に喋ったせいで呼吸が乱れる。けれど、思いつく限り罵ってやったという達成感でユリウスを見る。が、当の本人は、横を向いて肩を震わせている。


「な、なによ、なんで笑うのよ!」


 ムキになって身を乗り出した勢いで、短剣が少女の肌を傷つけた。白い肌に赤い血が滲む。


「痛い!」

「急に、動くからだ。今、診てやる」


 ユリウスは傷を治そうと、少女の喉へ手を伸ばす。その瞬間、少女の姿が、ふっと消えた。



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