表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/59

15 仮面の少女は意地悪

「あ、逃げた!」

「へえ、エイドスが付いてるの。そんなの小さな子を心配する過保護な親がやることなのに。皇子様ったら、まだまだ、おこちゃま、なんでちゅねえ」


 少女の煽りに、拓海の頬が赤くなる。


「ち、違うから。僕だって、こんなの知らなかったんだ。ユリウスさんが勝手に」

「ふーん。それって、ご自慢の家庭教師のこと? で、その家庭教師はどこにいるの?」


 少女がわざとらしく、辺りを見渡す。


「ああ、愛想つかされて帰っちゃったのか。うんうん。皇子様は、人望ないものね」

「……あなた、さっきから何なんですか? 僕のこと馬鹿にしたいみたいだけど、気が済んだのなら、帰ってもらえますか?」


「えー、帰ってあげてもいいけど、最後にひとつ訊こうかな……ねえ、今のあなたはどっち? 昔の恐ろしい皇子様? それとも普通の人間?」


「はあー。何度も言うけど、僕は、皇子なんかじゃないから!」

「そうやって、むきになるのって怪しい。本当は思い出したんじゃないの? 皇子だった頃のこと」

「もう、いい加減に」


 拓海がうんざりした顔で言い返そうとした時、少女がぐっと顔を近づけて来た。


「最近、経験しなかった? 初めて会ったはずなのに、すごく懐かしくて、前から知っていたような感覚」

「!」

「やっぱりね……きっと、前世の関係者に会って、記憶の蓋が開いたのよ。でも、今のあなたは前世を思い出すのを拒む。思い出せば、自分の罪と向き合うことになるものね……怖いよね。大勢の人生をめちゃくちゃにして、不幸にしたなんて」


「や、止めて! 皇子とか前世とか、僕は知らないし、関係ない! 僕は、ただの人間なんだ!」


 拓海は、何故かこれ以上聞きたくなくて、思わず少女を突き飛ばした。


「きゃっ」


 バランスを崩した少女がよろける。


「あ、ごめんなさ」


 天地がひっくり返った。

 魔獣に押し倒されたのだ。魔獣は、主を傷つけようとした拓海に、怒りの咆哮をあげる。至近距離で迫る鋭い牙に、拓海は顔面蒼白になった。


「落ち着いて、エリン。こっちに来て」


 少女が声をかけると、魔獣は少女の元へ駆け寄り、甘えるように体を擦り付ける。


 拓海は、息も絶え絶えになりながら、なんとか立ち上がった。


「い、一体、どうしたいの? ここに来た目的は何?」

「目的?」


少女の瞳がきらりと光る。まるで何かのスイッチが入ったように、体が震えだした。


「そんなの、決まっているでしょ。悪い皇子様に、お仕置きをする為よ!」


 少女はそう叫ぶと、拓海目掛けて鞭を放つ。

 叩かれる! 

 拓海は、とっさに目を閉じた。でも、一向に衝撃がこない。

 そっと、目を開けると、目の前にユリウスが立っていた。その右腕には、鞭が絡みついている。衝撃で皮膚が裂けたのか、手から血が流れていた。


「ユリウスさん!!!」

「拓海様、お怪我はありませんか?」


 ユリウスの声を聞いた途端、拓海の目頭が熱くなった。


「だ、大丈夫です。階段から落ちた時に、背中を打ったけど、動けます」

「では、他に異常がないか、後で診せてください」

「ぼ、僕……ひどいことを言ったのに、出て行けって、顔も見たくないって……それなのに助けに、来て、くれるなんて……うっうっ」

「来ますよ。まだ私は、あなたの家庭教師ですから」

「ユリウスさん……」


 ユリウスの登場で拓海は喜びの涙を流す。そんな拓海の前で、仮面の少女は唇をぎゅっと噛んだ。


 会いたくなかったのに、失敗した。


「拓海様は居間へ行って下さい」

「え、ユリウスさんは?」

「この者と話があります。大丈夫です。すぐに私も参ります。それまで、居間でお待ち下さい」


 拓海は逡巡するが、ユリウスの力強い瞳を見ると、小さく頷いて走り出した。


「あっ、こら、待ちなさいよ。逃げるなんて、卑怯よ!」

「君の相手は、俺だ」


 いつの間にか鞭をほどいて自由になったユリウスが、腕を摩りながら言う。


「どうしてよ。あなただって、あいつに色々やられたんじゃないの? それなのに庇うの?」

「どうして? 拓海様に危害を加えようとする者は排除する――それが、俺の役目だ」

「……そう。あいつを庇うんだ……王家に長く仕えたせいで、他の人達の苦しみも悲しみも、どうでもよくなっちゃったんだね」


 ユリウスの言葉は、ひどく少女を傷つけたようで、声に失望が滲んでいる。


「あの方に、恨みがあるのかもしれないが、止めておけ。君程度では、何も出来ない」

「そんなこと!」


 かっとなって言い返そうとしたが、気づけば、自分の鞭で縛られて動けなくなっていた。


「何よこれー!!」


 少女が大声で叫んだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ