104 ジュリアの妄想
キッチン・マウロの明かりが落とされ、ジュリアは自分の部屋に戻り、机に向かっていた。
机の棚には、小さなぬいぐるみや髪どめが勉強道具にまじって並んでいる。
ようやく学校の課題を終え、教科書とノートを閉じた。うーんと大きく伸びをする。
「さあて、続きを読まないとね」
一冊の本を手に取り、ベッドに寝転がる。友達から借りた恋愛小説だった。
ページを開こうとして、ふいに兄のエヴァンに言われたことを思い出した。
「なあ、ジュリア。お前、ユリウスのこと、どう思う?」
閉店作業を終え、二階の自分の部屋に入ろうとしたとき、そんなことを聞かれたのだ。
「どうって、いい人だと思うよ。飲んでも他のお客さんに絡んだりしないし。ねえ、そんなことより、すごくお酒臭い」
ジュリアは思わず顔をしかめる。
「そうかあ」
エヴァンが自分の腕をくんくんと嗅ぐが、
「変わらないぞ。それよりも、ユリウスのことなんだが」
「ああ、もう。さっさと寝なさい。明日も仕事でしょ」
そう言ってジュリアは大きな背中をぐいぐい押して、兄を自室へ追いやった。
エヴァンが酔ったのは、店の売り上げに協力したせい。
そう思うと、ちょっと冷たくしすぎたかなという気もした。
でも、酒は飲んでも飲まれるなとも言う。
ジュリアはそれ以上気にするのをやめて、本へ視線を移したが、ふと天井を見上げた。
ユリウスさんかあ……。
たしかに、かっこいいから、好きになる女の子は多そう。
だけど、穏やかで優しそうに見えて、実は近寄りがたいのよね。
そう、例えるなら、心のドアに「勝手に入るな!」って、大きな張り紙が貼ってある感じ。
そんな光景が頭に浮かんで、ジュリアはくすっと笑った。
でも、ああいう壁を作る人って、一度その垣根を越えてきた相手のことを、すごく大切にするんだよね。前に読んだ小説にそう書いてあった。
そう思ったところで、ジュリアは本を開いた。けれど、すぐに手が止まる。
待って。
もし、その垣根をユリウスさん自身が壊すことがあったとしたら?
ずっと閉ざされていた扉をこじ開けてしまうほどの情熱を抱く相手。
それって、運命の恋っていうやつじゃない?
うん。きっと、そうよ。
妄想が膨らみ、ジュリアは小説を抱きしめたまま、ベッドの上で悶えた。




