99 魔王親衛隊 D班 2
魔王城の最深部に、魔王親衛隊本部がある。
魔界に住む男子なら一度は憧れるという親衛隊の制服に身を包み、オースティンが城内の回廊を歩いている。
深い紅の上着の胸元には、親衛隊の紋章である金色の星が輝き、腰までの短いマントが、その足取りに合わせて静かに揺れる。
彼は、魔王親衛隊D班のリーダーである。班員名簿の上では精鋭揃い――の、はずなのだが、同僚たちからは「ダメダメD班」などと不名誉なあだ名で呼ばれることが多い。正直リーダーとしては、笑えない。
オースティンは副隊長室の前で軽く呼吸を整え、扉をノックした。
「副隊長。オースティンです」
呼びかけると、中から小さな声で返事が返ってきた。
どこかいつもと違う声音に「風邪か?」とオースティンは首をかしげながら、部屋の中へと足を踏み入れた。
「D班の活動報告書を提出しに参りました」
オースティンは、凛とした声で執務机に座る人物に声をかけた。
本人は窓の外を眺めているのか、椅子ごと背を向けたままで、顔が見えない。
「……副隊長?」
返事がないことにオースティンが訝しんだそのとき、椅子がくるりと回転し、座っている人物と目があった。
「残念だけど、副隊長ならもう帰っちまったぜ、リーダー」
「リック! お前、ここで何をしてるんだ」
オースティンと同じD班のリックが、でんと椅子に腰を下ろしていた。
「夕飯ご馳走してもらおうと思ってきたんだけどさ、用事があるからって断られたんだ」
「だからといって、そこは副隊長の席だ。軽々しく座っていい場所じゃない。副隊長が知れば、また雷が落ちるぞ」
オースティンの眉間に、自然としわが寄る。
「大丈夫だよ。おじさん、なんだかんだで俺には甘いから」
何度注意しても、リックに反省の色は見えない。毎回こんな調子なのだ。
しかもリックは、副隊長の正真正銘の親戚筋だ。
「それにしても、おじさん、すごく楽しそうだった。ひょっとしてデートなのかなあ?」
「デート?」
リックに聞かれて、ふと非モテを自認するクラウス副隊長の眉間に刻まれた深いしわが頭に浮かぶ。
オースティンの婚約者は「ああいう、他人を寄せつけないオーラを出していると、特に女性からは敬遠されるものよ」と話していた。
けれどオースティンにとっては、その近寄り難い雰囲気も含めて、副隊長らしい誠実さの表れにしか見えない。
多少興味はあるが、副隊長のプライベートを詮索するべきじゃない。
そう思い直し、オースティンは持っていた書類を机に置くと、
「知りたかったら直接、本人に聞くんだな。……それよりも、立て。帰るぞ」
渋るリックの腕をつかんで部屋の外へ引きずっていった。
「おじさん留守なんだからさ、引き出しとかあけて、彼女がいるかどうか、確かめようよ」
「いいから、来るんだ」
「ちょっと、オースティン!」
静かな回廊にリックの間の抜けた声が響いた。
こうして今日もまた、D班の評判を守るための小さな戦いが、一つ終わった。




