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ひーさんの悲鳴が響く夜の街  作者: もものけだま


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第八話 狸の幽霊のポン子ちゃん その2


「ひぃぃぃぃぃぃ!」


 僕は、音もなく突然現れた女の子に驚き、大きな悲鳴をあげてしまう。

 

 

「何この人……。私を見るなり悲鳴をあげるなんて失礼ね」



 自分を見て悲鳴をあげられた女の子は、不満そうに僕を睨みつけている。確かに失礼な行動だったかもしれない。だがしかし、つい先ほどまで幽霊に囲まれて弄ばれていた僕の気持ちも察して欲しい。そんな状況の時に、深夜の歩道で背後に突然女の子が現れれば、誰だって悲鳴の一つもあげてしまうだろう。

 


「あっ!おね~ちゃん!」


 ポン子が嬉しそうに声をかけている。ポン子の知り合いなら、やはりこの子も幽霊なのだろう。

 


「あはははは! さすがひーさん! ビビり過ぎだって」



 ミカちゃんは楽しそうに笑っている。

 


「本日2回目ですね」



 マコさんもなんだか楽しそうだ。こいつらは僕が驚く姿を見るのが、そんなにも楽しいのだろうか。


 やかましい野次で僕は我に返り、目の前の女の子をよく見てみる。

 

 ……こいつも幽霊なのか?


 大きな切れ長の目。白のような銀のような綺麗な髪には、大きな獣のような耳がピンと立っている。


 僕の胸の辺りまでしかない身長で、痩せ型の体系には大きすぎるベージュのパーカーを着て、その腹部についているポケットに両手を入れている。そして、その子のお尻からは、ふわふわした大きな尻尾が生えていた。


 どう見ても人ではない。それなのに流暢に人語を使いこなしている。耳と尻尾を除けば、どうみても整った顔の女の子にしか見えない。

 

 その幽霊は目の前の僕を無視して、狸のポン子を見つめている。



「ポン子、そろそろ帰るよ」


「はいです!」



 ポン子ちゃんが僕の脇を通り、銀髪の少女のほうへ歩いていく。



「なんだ、お前は!」とミカちゃんが尋ねている横で、「可愛い狐さんですね」とマコさんはにっこりと微笑んでいる。



 ……僕は、寒い夜の町で考える。


 そうなのか、こいつは狐の幽霊なのか……。


 狸と狐の幽霊が普通に彷徨っているこの街は、一体どうなっているんだ?


 いや、それどころか、ギャルの幽霊と可愛い女性の元地縛霊まで普通に彷徨っている街。


 確かに、僕は昔からそういう者達の事は視えていた。


 追いかけられて神社やお寺に逃げ込むことも多々あった。


 しかし最近はどうもおかしい……。


 やたらと人間ぽい奴等が多すぎる。


 しかし、その代わりに自我の無いような者達は減っている気がする。

 


 僕が真剣に考え事をしていると、狐の幽霊が何やら話を始めた。



「そっか、私達がどういう者達なのか、説明が必要ね」



「はい。お願いできますか?」マコさんが丁寧に狐の子にお願いをする。



「あの子、ポン子は自分を幽霊だと思っているけど、本当は妖怪なんです」


「は? 未練のある狸の霊じゃないの? 未練があって成仏できずに彷徨ってるんじゃないの?」



 ミカちゃんも驚いたらしく、早口で聞き返している。

 


「その子は妖怪なので、成仏とかしませんよ?」


「人を驚かせたいって言ってたけど、どういう事なんですか?」


「それは、この子が自分を幽霊だと思い込んでる勘違い。それと、私達妖怪は普通の人には見えないから、あの子が人間を驚かすって事自体、無理があるんですけどね」


「そっか~。お前も大変なんだな」


「あなたは、ポン子ちゃんの事が大事なんですね」



 マコさんがそう訪ねると、狐の妖怪の顔が真っ赤に染まった。


「そ、そんなことないわよ! ほらポン子!さっさと帰るわよ!」



 クールな感じの妖怪だと思っていたが、意外と態度に出やすいタイプらしく、慌ててマコさんに反論をしていた。

 


「はいです! 皆さん、ありがとでした」



 ポン子が僕達に振り返って、もう一度深々とお辞儀をする。この狸の妖怪が何かをする度に、つい可愛いと思ってしまう。



「この子が、お世話になりました」



 狐の幽霊はクールにそう言うと、ポン子の手を取って帰って行った。


 仲良く手を繋ぎ、深夜の歩道を歩いて行く。そして二匹は夜の闇に消えていった。

 


 僕は逃げ出す事も出来ぬまま、その様子をただただ見ている事しかできなかった。


 

「やっぱり、ひーさんを選んで正解だったな! 妖怪の悩みすら解決するひーさんは流石だ!」



 なぜかミカちゃんは未だに喜んでいる。僕とマコさんの数メートル前で、消えていった妖怪達の方を見つめながら、手を振っている。



 その時、マコさんがそっと僕の袖を引くと、小声で話しかけてくる。



「ひーさん」


「はい?」


「ミカさんの事、よろしくお願いしますね」


「……え?」


「あんな見た目だけど、ミカさんって幽霊になってから長いんです」


「……そうなんですか?」


「いつも誰にも気づかれない幽霊が、悪い霊にならないようにと、彷徨う霊達の話し相手をやっているんです。


 私もひーさんに出会う前は、誰にも気づかれずに、ここに座っているだけでした。


 幽霊って結構孤独なんです。なのに時間は有り余ってるので、実はかなり辛いんです。


 私もミカさんに話しかけて貰えなかったら、きっと負の感情に負けていたと思います。


 私みたいに、ミカさんのお陰で悪い霊にならずに済んでいる幽霊達も多いと思いますよ。


 私はミカさんに話を聞いて貰っているうちに、不の感情が徐々に消えて、ひーさんに見つけて貰えました。


 お陰でひーさんに、私の未練を消して貰う事もできました。


 ひーさんには凄い感謝をしています。


 それと同じくらい、ミカさんにも感謝をしています。


 そんなミカさんの未練を解決してあげたい……。


 ちゃんと私が報酬をお支払い致しますので、どうかミカさんの事も、よろしくお願いします」



 マコさんの言葉に僕は驚いた。あの能天気っぽいミカちゃんが、孤独な幽霊達の話し相手をして周っていたなんて……。


 すると、僕の中に、ある疑問が湧き上がってくる。

 

 

 ん? ……いやいや、ちょっと待て!


 大事な事を忘れていないか?


 僕はマコさんとの会話を思い出す。



「私が報酬をお支払い致しますので」



 報酬をお支払い致します? 確かにマコさんはそう言っていた。


 報酬って、あれなのか? また、あれを見る事が出来るのか? そう言う事なら、返事は決まっている。



「わかりました! 僕に出来る事があるかは分かりませんが、できる限りやってみます」


「ありがとうございます!ひーさん♡」



 僕は深く考えず、マコさんとそんな約束をしてしまっていた。



「おーい!二人で何話してんの?」



 妖怪たちを見送っていたミカちゃんが近づいてくる。



「何でもありませんよ」



 マコさんはミカちゃんにニコリと笑ってそう言っていた。



「では、私はそろそろ帰りますね」


「おう!またな!」



 マコさんは丁寧にお辞儀をすると、夜の闇に消えていった。

 



 ガードレールの前には僕とミカちゃんだけが残された。



「さて、あたしも帰るかな」


「……ミカちゃん?」


「ん?」


「ミカちゃんって幽霊になって長いの?」


「正確な年数とかは分からないけど、まぁそれなりには長い事彷徨っているね」



 そこで僕の中の疑問が膨れ上がった。


 さっきマコさんから話を聞かされた時にも思ったが、ミカちゃんが亡くなってから長い年月が過ぎていると、つじつまが合わない事がある。


 ミカちゃんの親友のリナさん。


 僕が寮に尋ねて行った時、どうみても今のミカちゃんと同じくらいの年齢に見えた。


 この事を聞くべきかどうか悩む。


 しかし、ミカちゃんの未練を知る為には、聞いておかなければと思った。



「ミカちゃん?」


「ん?どした?」


「……変な事を聞いても良い?」


「まさか!」


「え?やっぱり聞かない方が良い?」


「……ひーさん?」


「なんですか?」


「今回のドッキリの報酬に、ポン子みたいな小さな子のまで見せろとか、さすがにひくわ……」


「そんな事、思ってないよ!」


「え? そなの? ひーさんが真剣な顔で聞いてくるから、絶対パンツを見せろって言ってくると思ったのに……」


「……ミカさんの中で、僕ってそうとう評価低そうですね」


「そんな事はないから安心して♡」


「……さいですか」


「うん! それで、聞きたい事って何?」



 本当はリナさんの事を聞こうと思っていた。しかし、なんだか、そんな雰囲気じゃない気がする。


 とりあえず、もう1つの疑問を聞いてみる事にした。


 ミカちゃんは毎回、この歩道で消えていく。でもミカちゃんに帰る場所なんてあるのだろうか。



「ミカちゃんは、いつもここで消えるけど、どこに帰ってるの?」


「……………………」



 ミカちゃんが少しだけ困ったような顔をした。



「……また今度教えてあげる! じゃ、ひーさん。またね」



 ミカちゃんはニカッと笑うと、いつものように夜の闘に消えていった。


 ……また今度か。


 僕は鼻をすすりながら、誰もいなくなったガードレールを背にし、ポケットに手を突っ込み歩き出す。


 ミカちゃんの『また今度』という言葉が、妙に胸に引っかかった帰りの夜道だった。


おしまい

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