第二十六話 幽霊のさっちゃん その3
目の前で顔を赤くし、モジモジしながらも、口元は少し嬉しそうに微笑んでいる地味な幽霊女に尋ねる。
「それで、デートってどこに行けばいいんですか? 僕はデートなんてした事ないので、さっぱりわからないのですが……」
すると、すかさずミカちゃんが僕の話に割って入ってくる。
「嘘つくな! この前あたしとデートしたじゃん!」
僕は、さっちゃんが、どこに行きたいのかを訊きたいだけなのに、この子は本当に煩い。しかも山で遭難して廃神社に泊った時の事を、デートと言い張るなんて……。
「ミカちゃん、煩いですって! しかも、あれはデートってより、山で遭難して怪奇現象にあっただけじゃないですか! あんなのはデートとは言いません」
「違うもん! あれだってデートだもん!」
そんな僕達に、さっちゃんが小さな声を漏らす。
「あ、あの~」
「ん? なんですか?」と、僕が返事をする。
少し考え込むような仕草をしていた、さっちゃんが、僕の方へ顔を向ける。
「あの……行きたい場所があるんです。好きだった人を見ていた場所に行きたいです」
「好きな人を見ていた場所ですか?」
さっちゃんは、コクッと頷くと、ぽつぽつと語り始めた。
「生きていた時に、いいなって思った人は居たんですけど、その人と話したことは一度もないんです。でも、その人をいつも見かける場所があったので、そこへ、ひーさんと行ってみたいです」
「その人に、声は一度も掛けなかったの?」
そう尋ねるミカちゃんに、さっちゃんは小さく頷く。
「一緒にお出かけ出来たら楽しいんだろうな、とは思っていたんですけど、いつもすれ違う時に見てる事しかできなくて……。結局、いつまでも声をかける勇気もなくて、一度も話せないまま私は……」
さっちゃんは顔を上げ、僕の顔をチラッと見てから、また地面に視線を戻す。
「だから、一度で良いから私もデートってのをしてみたいのです」
少しだけ大きくなった声で、そう告げるさっちゃんの声をかき消すように、またもや話に割って入ってくるミカちゃん。
「ダメじゃん! その好きな人とのデートじゃなきゃ未練は晴れないじゃん! だから、ひーさんとデートしても成仏できないかもしれないじゃん!」
僕は煩いミカちゃんを無視して、さっちゃんに尋ねる。
「えっと、僕が相手でも良いのですか? その人じゃなくても成仏できるのですか?」
「……はい。それは大丈夫だと思います。あなたとデートが出来れば、私はきっと満足できて成仏できると思います」
好きな人がいたのに、出会ったばかりの僕でも代役が務まるのかとは思うが、本人がそう言うなら大丈夫なのだろう。
「わかりました。その場所へ行きましょう。そこへ案内してください」
「……ありがとうございます。……嬉しいです」
さっちゃんの、その声は、今までで一番小さかった。
僕にデートのお誘いをして来た幽霊のさっちゃんは、好きな人に声すらかけられずに、そのまま亡くなってしまった事が未練だと言う。
僕なんかで変わりが務まるかは分からないが、出来れば思い残す事なく旅だって欲しい。
マコさんもミカちゃんも、実は幽霊は孤独でツラいのだと言っていた。
なので、人見知りのさっちゃんには、かなりツラいのではないかと思ってしまう。
……助けよう。……この子を助けよう。
僕にそれが出来るなら、助けてあげようと思った。
「あ、あたしも行く!」
突然、そう叫びだすミカちゃん。本当に今日は、いつにも増して騒がしいし煩い。
「デートに第三者が憑いて来るのはおかしいですって……」
僕は少し面倒そうに返す。
「気配は消すから大丈夫!」
と、腰に手を当て自信満々のミカちゃん。
「絶対、消せないでしょ! ミカちゃんに、そんな器用な事は出来ません!」
「消せるし!」
ミカちゃんが、むくれながら叫ぶと、今度は深刻な顔で呟き始めた。
「なんか、嫌な予感がするんだ」
「嫌な予感ですか?」
「うん。良くわからないけど、嫌な予感がする」
ミカちゃんの表情がいつもと少し違う。いつものふざけた感じじゃなくて、今回は真剣な顔で考え込んでいる。
「……それって、どんな感じなの?」
「わかんない。でも気になる」
「感ですか?」
「だから、わかんないって言ってんじゃん!」
ミカちゃんが良くわからない事を言って怒っているが、こいつの嫌な予感ってのが気になる。僕の護衛の意味も込めて、ミカちゃんを同行させようと思い、さっちゃんに訊いてみる。
「こいつが一緒でも、さっちゃんは大丈夫ですか?」
「……はい。大丈夫です」
意外とあっさりと了承を貰う事ができた。恥ずかしがり屋のさっちゃんも、僕と二人きりより同姓が一緒の方が良いのだろう。
「ほら、いいってさ! あたしも憑いていくから!」
「……はぁ。好きにしてください」
元気にそう叫ぶミカちゃんに、僕はそう返した。
さっちゃんは、、その様子を不思議そうに見ていたが、長い前髪から微かに見える口元が、にやりと薄く笑っているような気がした。




