第二十二話 幽霊娘と山デート その7
何かを考えていたのか、しばらく黙っていたミカちゃんが、突然スカートの裾を持ち上げてパタパタとさせ始めた。
チラチラと、スカートの中の黒い短パンが見え隠れしている。
「……何やってるの? はしたないよ?」
黒い短パンを凝視し、ミカちゃんの顔を見ずに訊ねる。
「見たよね?」とミカちゃんがニヤっと笑う。
「え?」
「今スカートの中が見えたでしょ?」
「見えましたけど……勝手に見せて来たんだから、怒られても困るよ?」
「今回の報酬って事で♡」
そう言う事なのかと理解した。
スカートの中を見せたのだから何かを……千鶴さんを助けるのを手伝えって事なのだろう……。
「そう言う事ですか……」
「そう言う事♡」
「……わかりました。僕達で千鶴さんを助けましょう!」
「よし!決まり!」
ミカちゃんはニコニコしながらスカートを直している。
そんなミカちゃんを見ながら、もう可愛いお尻の報酬は貰ってるのにとは言い出せずにいる弱い僕。
しかし千鶴さんを助ける事には賛成だし、たとえ無報酬でも手伝ったと思う……たぶん。
だが、その助ける方法が思いつかない。
今までは、生きている人に幽霊の未練を僕が代わりに伝えて来ただけだ。
しかし、普通の会話が出来ない千鶴の未練を誰に伝えるのか、そもそも未練が何なのかも分からない……。
「でもどうやって助けるの?」
そう訊ねると、ミカちゃんは腰に手を当て得意気に叫んだ。
「神様に願う!」
「……え?」
「さっきの手帳の事、覚えてる?」
「願い事が記録されるってやつ?」
「そう! あの手帳にこの神社の真実を記録する!」
わからない。ミカちゃんが言ってる事が理解できない。
「……真実?」
「うん。この神社が今どうなってるかを、私たちが願いとして声に出して言うのだ!」
「ここは、もう誰も来ない廃神社ですって、お願いするって変じゃない?」
「違~~~~う!」
ミカちゃんの大きな声が夜の廃神社に響く。
しかし千鶴は箒を持ちながら空を見つめているだけで、ミカちゃんの声には何の反応もしてなかった。
「僕達が何をするのかを、ちゃんと教えて下さい」
するとミカは両手を大きく上げ、僕に向かって叫んだ。
「この神社がこうなってて悲しいです! どうにかしてってお願いするの!」
「それで?」
「そしたら、この神社が今どうなっているか手帳に記録されるでしょ?」
「そっか……。千鶴さんがそれを読めば……」
「現実に気づくはず!」
なるほどと思いながらも、僕は躊躇した。
「でもいきなり、この神社は廃墟で、もう誰もここには来ない。しかも神様ももう居ないなんて知ったら、千鶴さんがショックを受けるんじゃ……」
「あの人はずっと参拝者を待ってた。ずっと神様が戻ってくるのを待ってた」
ミカちゃんは、暗い廃神社の中で夜空を見つめている千鶴の方を見ながら、そっと小さく呟いた。
「……このままの方が、ずっと可哀そうだよ」
ミカちゃんの作戦は理解できた。
千鶴は今でも来る事のない参拝者為に、この神社を守っているのだろう。
この神社の実態を知ったら、千鶴はきっと悲しむだろう。
しかし、機械のようになってしまった千鶴を見ていると、それも悲しい事に思えた。
「うん……そうだね。あのままだと、千鶴さんが可愛そうだと僕も思うよ」
「手伝ってくれる?」
「もちろん!」と僕も大きな声で答える。
あとは、ミカちゃんの考えた作戦を実行するだけだ。
なんだか気合の入って来た僕も大きな声をあげる。
「良し! 行こう!」
「おう! 待ってろよ千鶴! あたし達が救ってやる!」
「200歳の千鶴さんを呼び捨ては、失礼すぎると思うよ?」
「見た目はあたしと変わらないから良いの!」
ミカちゃんはそう叫ぶと、僕の顔を憐れんだように見つめてくる。
「それに、女性に200歳とか言ったらダメだよ? もっと女心を知ろうね。ひーさん」
「……はい」
たとえ200歳以上の幽霊になっても、女性の年齢に触れてはいけないのかと一つ学んだ。
まぁ、そんな知識が役に立つ事なんて無い方が良いのだが……。
「んじゃ、行きますか……」
「おう!」
気合を入れなおし、僕達は千鶴さんの元へ向かうべく、再び綺麗に様変わりした不思議な廃神社の前に立った。




