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幽霊女の奴隷になったひーさんの悲鳴が響く街  作者: もものけだま


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第二十一話 幽霊娘と山デート その6

 

 千鶴さんがスーっと姿を現し、相変わらず機械的な声で案内を続ける。



「この本殿には、神様がお祀りされております。どうぞ、心を込めてお詣りくださいませ」



 その言葉が虚しく響いた。


 神様は、もうここにはいない。


 でも千鶴さんには、それが見えていないのだろうという事に気付いた。


 千鶴さんは帳面を本殿の中に丁寧に収め、そして箒を手に取り境内の掃除を始めた。


 その動きも機械的で、同じ場所を何度も何度も掃いている。

 

 僕達はそんな千鶴さんの不可思議な行動を、ただ見ている事しか出来なかった。


 僕とミカちゃんは千鶴さんから少し離れた場所に向い、ミカちゃんが小声で話しかけてくる。



「……ひーさん。あの人さ、自分が死んでるの気づいてないよね」


「うん……多分そうだと思う」


「しかも、なんか壊れてない?」


「そんな言い方は失礼だよ」


「だって、他に良い言い方が思いつかないんだもん」


 

 ミカちゃんは慌てて口を押え、失言してしまったと悔いている。


 壊れている。


 確かにその言葉が、僕の中でも一番しっくりきた


 千鶴さんは幽霊というより、まるで壊れた人形のようだ。


 同じ言葉を繰り返し、同じ動作を繰り返し、感情のかけらも見せない。


 今も千鶴さんは箒を持ちながらも微動だにせず、暗闇の中で白い装束だけがぼんやりと浮かんでいる。



「でもさ、このままにしとく訳にはいかないでしょ」



 鳥居の近くで境内を見つめているミカちゃんが呟く。

 

 なんでこの子はすぐに色々な事に首を突っ込みたがるのだろうか……。

 

 僕はとにかく無事に帰りたい。

 

 

「……このまま朝を待って静かに帰ろうよ」



 僕の声が聞こえていないのか、ミカちゃんは境内をずっと見つめている。



「ねぇ、ひーさん」



 ヤバい。こういう時のこの子は絶対に何かをやらかす。



「……何をする気?」と静かに聞いてみる。


「あたし、あの手帳の中見てくる」


「え、ダメだよ! 帳面は見せられないって言ってたじゃん。

罰が当たるかもよ?」


「大丈夫大丈夫、あたし幽霊だし」


「それ関係あるの?」


「わかんない! でも大丈夫な気がするんだ」



 ミカちゃんはそう言うと、フワッと浮かび上がって本殿の方へ飛んでいった。



「ちょっと! 怒られちゃうよ!」



 僕は慌てて千鶴さんの方を見たが、黙々と掃除を続けていて、ミカちゃんに気づく様子はない。


 僕にはドキドキしながら待つ事しか出来なかったが、本殿へ飛んで行くときに見てしまった、ミカちゃんのスカートの中の小さなお尻が脳裏に焼き付いていた。


 黒い短パンだった事が悔しいが、これもミカちゃんが僕に掛けた呪いのせいなら、そう思ってしまうのもしょうがない。




 しばらくして、ミカちゃんが戻ってきたが、その顔がいつになく真剣だった。


 どうだった? と聞いてみる。



「……ひーさん」


「何?」


「さっきひーさんは、無事に帰りたいって願った?」


「……うん」


「……ちゃんと、その願いが書きこまれてた」



 それは凄いとは思うんだけど、僕の願いを誰かに知られるのはちょっと恥ずかしい。


 変なお願いをしないで良かったと、心から神様に感謝した。



「でも、その前の……最後の参拝者の記録が、200年以上前だった」


「え?」


「あの人……200年以上、ずっと一人でここにいたんだよ」


「……嘘だろ」


「あたしが出会った幽霊達は、ほんの数年で孤独や負の感情に負けて悪いモノになりかけてた」



 ミカちゃんは境内にいる千鶴さんを見つめ、悲しそうな表情に変わった。

 

 

「200年以上もたった一人で居たら壊れるのも分かるけど、それでも、かろうじて自我を保ってるって凄いよ」



 その言葉に前に聞いた事を思い出す。

 

 幽霊はこの世に未練があるので、現世に留まっているらしい。

 

 だが、実際に幽霊になっても未練を晴らす事など出来なく、負の想いがどんどんと膨らんでいくのだそうな。

 

 やがては未練が恨みや妬みに変わり、自我を持たない悪霊に変わってしまうらしい。

 

 つまり千鶴さんは、200年以上も負の感情に屈せずに居たということになる。



「ねぇ、ひーさん……あたし達でなんとかしよう」


「なんとかって言われても……ミカちゃんはどうしたいの?」


「千鶴を助けてあげたい! このままじゃ、可哀そう過ぎるよ……」


「でも、どうすれば……」


「それは……今から考える……」



 僕達は言葉を失ったまま、千鶴さんの姿を見つめていた。


 一生懸命に、朽ち果てた廃神社の掃除をしている。


 きっと千鶴さんに見えているこの神社は、朽ちることなく綺麗なままなのだろう。


 神様も参拝者もいない神社を、ずっと守り続けてきた幽霊の千鶴さん。


 その時間は200年……


 その孤独を思うと胸が痛くなった。

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