第二十話 幽霊娘と山デート その5
不思議な神社の拝殿でお詣りを終えた僕達は特にやることも無く、だからといってこんな場所で寝る事など出来る訳もなく、暇つぶしに境内を見て回ることにした。
ただ不思議な事に、千鶴さんが何処かへ姿を消すと、この神社も元の廃神社に戻ってしまう。
元の廃神社に戻った神社の中を、ミカちゃんの後を追いトボトボと歩いた。
「これは手水舎……だったものだね」
ミカちゃんが指し示した先には、苔むして水の枯れた石の器があった。
かつては清らかな水が湧いていたのだろうが、今はひび割れて草が生えていた。
「たぶん、そうだと思う」とミカちゃんに返事を返す。
「次は奥まで探索してみよう」
嬉しそうに言うミカちゃんに慌てて首を振る。
「いやいや、普通の廃神社でも怖いのに、こんな不思議な神社の探検なんて止めようよ!」
「何言ってんの? 不思議な神社だから探検するんじゃん!」
腰に手を当て頬を膨らませているミカちゃんを見て、お前こそ何を言ってんだと思った。すかざす反論する。
「触らぬ神に祟りなしって言うでしょ! ここで朝まで大人しくしてようよ!」
「はあ? さっきここの神様にお詣りしたじゃん! もう神様に触れたようなもんじゃん!」
確かにと思ってしまう。僕は既にここの神様に挨拶をし、さらに願い事までしてしまっていた。
返す言葉が出ない僕に向かって大きな声が飛んでくる。
「良し! 奥に行こう!」
元気よく叫ぶミカちゃんに渋々肯く。
だって、こんな不思議な廃神社に一人で居るよりは、見知った幽霊と一緒の方が幾分かは恐怖も和らぐ。
溜息をつきながらも、僕は後に着いて行くしかなかった。
先ほどの拝殿の横を抜け、腰のあたりまで雑草に覆われ既に道なのか分からなくなっている道を草をかき分け進む。
真っ暗な中、右手に持ったスマホの明かりを頼りに進むが、草をかき分けるのに片手しか使えないのは効率が悪すぎる。
ミカちゃんはフワフワと浮きながら移動しているので、こんな僕の苦労も分かってないのだろう。
20メートルくらい進むと暗闇の中、一段高い石垣の上にうっすらと建物らしきものが見えて来た。
石垣の前で、その建物を見上げながらミカちゃんが呟く。
「あれが本殿っぽいね」
「ミカちゃん……ここは一般の参拝者は立ち入り禁止じゃないの?」
「まぁ、そうなんだろうけど……。でも、どうしても確かめたい事があるんだ」
ミカちゃんが確かめたい事ってなんだろう、と少し悩んだが、拝殿の裏は神聖な区域、つまり聖域だと聞いていた。
そのような場所に入ってしまったら、さらに不可思議な事が起こるような気がしてミカちゃんを説得する。
「きっとこの先は一般の人は立ち入れない禁足地だよ! 早く戻ろうよ! 見つかったら絶対怒られるって!」
しかしミカちゃんは、きょとんとした顔をして僕に訊ねてくる。
「誰に怒られるの?」
「えっと……。神様とか千鶴さんとか?」
「そうだったとしたら大丈夫だよ」
そう言うとミカちゃんは、ふわりと石段の上へと進んでいく。
「待って」と声を掛けながら僕も後を追う。
ふたりで本殿の目の前に立つ。こちらも相当傷んでいた。
扉は片方が外れかけており、中を覗くと埃だらけの空間が広がっている。
「ひーさん! あれ見て!」
ミカちゃんが本殿の奥を差すので目を凝らして中を見ると、御神体を祀るはずの場所には何もなかった。
台座だけが残っており、そこにあるべきものは跡形もない。
「……空っぽだ。……御神体がない」
呆けている僕に向かってミカちゃんが小さく呟いた。
「ここの神様は、もういないのかもしれないね」
すると神社の景色がまた変わっていく……。
あれほど苦労してかき分けて来た雑草が消えていき、それどころか拝殿と本殿を繋ぐように屋根付きの渡り廊下が僕達の足元まで徐々に現れてくる。
そんな幻想的で不思議な光景に目を奪われながらも、僕は大事な事を思い出す。
ヤバい! これは千鶴さんが近くに来たという証拠だ!
怒られる。幽霊の千鶴さんに怒られる。怒った幽霊なんて絶対にヤバい!
そう思い体を縮めて怯えている僕に構うことなく、僕達の周りには不思議な現象が続いていく。
壊れた本殿の扉は直り、無かったはずの片方の扉も姿を現し本殿の中を隠していく。
見える範囲の景色が、良く手入れのされた真新しい姿に全て変わった。
その不思議な現象が終わると、静寂に包まれたこの場所に、微かな足音と衣擦れの音が聞こえてくる。
無意識に先ほど僕達の後ろに現れた渡り廊下に視線を向ける。
その渡り廊下の奥に千鶴さんがスーっと姿を現した。
千鶴さんが僕達の方へと渡り廊下を静かに歩いてくる。
無表情なのだが、千鶴さんのその目は確実に僕とミカちゃんを見据えていた。




