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幽霊女の奴隷になったひーさんの悲鳴が響く街  作者: もものけだま


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第十九話 幽霊娘と山デート その4

 幽霊のミカちゃんと山で迷子になり、その時に見つけた廃神社だったはずなのだが。

 

 鳥居を潜り境内に足を踏み入れると、そこは綺麗な神社に変わり、しかも巫女っぽい幽霊まで現れた。


 即座に逃げようとしたのだが、一人で暗い夜の森を歩いて帰れる度胸が僕にある訳もなく、渋々この恐ろしい神社に一泊する事になった。

 


 僕達が境内に入ると、白い装束の女性がゆっくりと近づいて来る。


 その動きは滑らかで、まるで地面に足がついていないかのようだった。

 

 

「ひぃぃぃぃ。こっちに来ますよ!」



 僕は叫び声をあげながら後ずさりをしようとしたが、ミカちゃんが僕の腕を掴み小声で囁く。



「大丈夫。あいつは良い奴だと思う」



 僕は固まったまま、女性が静に近づいてくるのを見てるしかなかった。

 

 怖がりの僕でも、怖い話を映像化して流す番組や映画のCM等は嫌でも目にする事は何回もある。

 

 その中には幽霊が段々と近づいて来るのに、逃げないでその場で固まっているシーンをよく見かけていた。

 

 いつも、なんで早く逃げないんだよと思っていたのだが、実は今の僕のように幽霊に腕を掴まれ逃げられないだけだったのかもしれない。

 

 こちらへと静に近づいてくる女性に恐怖していたが、その女性は僕の目の前で立ち止まり深々とお辞儀をした。



「ようこそ、お越しくださいました」



 その声は驚くほど穏やかだった。


 でもどこか機械的で感情が込められていないように聞こえる。

 

 呆気にとられながら女性を見ていると、またゆっくりと口を開く。



「お詣りは、こちらでございます」



 そう言いながら白い装束の女性は社の方へと手を向け僕達を案内する。


 どういう事なのかと戸惑ってしまい、どう返事をして良いのか分からない。



「どうぞ、神様にお詣りを……」



 機械的に同じ言葉を繰り返す白い装束の女性にミカちゃんが訊ねる。



「ここは何処なの?」



 しかし女性は表情を全く変える事もなく、僕達に向かって説明のような言葉を続けるだけだった。



「お詣りが終わりましたら、神様へお願い事をお伝えください。


 神様へお願い事は、心の中で唱えても声に出されてもどちらでも構いません。

 

 私がその願いを神様にお伝えいたします」



 話が通じないなと僕が困っていると、ミカちゃんが前に出てきた。


 ミカちゃんが白い装束の女性の前に立ち、じっとその顔を見つめながら何かを諭すかのように優しく尋ねる。



「あんた、名前はあるの?」


「千鶴と申します。では、こちらへどうぞ」



 相変わらず機械的な話し方だったが、名前は千鶴という事は知る事はできた。


 しかし千鶴と名乗った白い装束の女性はそれ以上は語らず、機械的な動きで僕達を社の前へと案内するばかりだ。

 

 

「ミカちゃん。どうするの? この人に着いて行くの?」


「行くしかないっしょ」


「やめた方が良いって。きっと奥に行ったら僕達は神様の捧げものとかにされちゃうんだって」


 

 ミカちゃんを説得するが、全く効果はないようで行く気満々で僕に手を差し伸べてくる。

 

 

「大丈夫。あいつは悪い奴じゃないよ。さぁ行こう」


「何か起きそうになったら、僕はすぐに逃げますからね」



 いつでも逃げる準備をしつつ、僕は千鶴と名乗る女性の後をついて神社の奥へを足を進める事にした。

 

 神社の参道を奥へ少し進むと小さな社が見えてくる。

 

 しかし誰も来ないようなこんな山奥なのに、その社は隅々まで掃除がされていて、とても綺麗な状態を保っていた。

 

 千鶴さんは社の前で立ち止まり、こちらへ振りかえると僕達に向かって深々とお辞儀をする。



「こちらでお詣りくださいませ。神様への願い事は心の中で唱えても声に出されてもどちらでも構いません」



 千鶴さんは、先ほども聞いたような言葉を僕達に説明すると、社の正面からすっと脇に移動し僕達の事を見つめている。

 

 いや、見つめていると言うより、僕達がお詣りを終えるのを待っているだけなのかもしれない。

 

 無表情のまま何も語らず、だがとても綺麗な立ち姿で社の脇に立っている。


 困った僕は小声でミカちゃんに相談した。

 

 

「どうするの? こんな所まで来ちゃったけど、これって僕達がお詣りを終えないと、ずっとこのままなんじゃない?」


「せっかくだし、ひーさんがお詣りしなよ」


「え? 僕が?」


「だってあたしは幽霊だし、願いと言うか未練になっちゃうからね」


「それもそうか……」



 このままでは埒があかないと思った僕は、恐る恐る社の前に立ち手を合わせた。


 しかし何を願えば良いのだろうか……。悩んだ挙句、とりあえず一番切実な願いを心の中で唱える。



「(ここから無事に帰れますように……)」



 その瞬間、千鶴さんが持っている帳面がぼんやりと光るのが見え、思わず振り返ってしまう。


 驚いて目を向けると、千鶴さんは何事もなかったかのように帳面を開いて中を確認している。


 その動作もやはり機械的で、感情のかけらも感じられなかった。



「ねぇ、それって何? 今光ったよね?」



 さすがミカちゃん。この場の空気というか雰囲気を全くよまずに、ぐいぐいと気になった事を聞いている。

 

 ミカちゃんが千鶴さんの前に回り込み帳面を覗き込もうとすると、千鶴さんは帳面を胸に抱くように隠しながら答えた。



「中は見せられませんが……。神様にお届けするため参拝者様のお願い事を記しております」



「へぇ……。それに願い事が自動で記録されるんだ」



 ミカちゃんが感心したように呟く。


 しかし僕はちょっとした事に気付いた。


 千鶴さんは帳面の話をする時だけ、ほんの少しだけ表情が現れた。


 帳面を開いて何かを確認した時、ちょっとだけだけど笑みがこぼれた気がする。


 ミカちゃんが覗こうとした時も、少し慌てたような顔をしたように思う。

 

 

「ちょっとだけ。ちょっとだけで良いから見せてよ」


「中をお見せする事はできません」


 

 しつこいミカちゃんを目で制しながら千鶴さんが大事そうに帳面を抱きしめて守っている。

 

 もしかして千鶴さんにも、ちゃんと感情があるのかもしれない。

 

 幽霊の二人が楽しくじゃれているように思えなくもない光景を見て、少しだけ怖さが和らいだ気がした。

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