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幽霊女の奴隷になったひーさんの悲鳴が響く街  作者: もものけだま


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第十六話 幽霊娘と山デート その1


「うぅ~。寒い」


 冬の山の中は、街とは違った寒さがある。


 風は吹いてはいないが、体の芯から冷えてくるような寒さだ。


 僕は今、山の中で幽霊と共に野宿の準備をしている。


 理由は簡単。迷子になったからだ。


 数時間前の自分を。いや、隣にいるこの幽霊を信じた事を後悔しながら、暗い山の中で恐怖と寒さに震えている。



———数時間前———



 休日の昼下がりというのは、何もしないで過ごすには最高の時間だ。


 僕は自分の部屋でゴロゴロと寝転がりながら、スマホを眺めていた。


 ミカちゃんが僕の家に住み着いてから数日が経ち、生活は少しずつ変化していたが、それでも休日くらいは自分の部屋でのんびりしたい。


 ミカちゃんは女子高生で、黒いトップスに赤黒のチェック柄のミニスカート。とても小柄で顔も幼い。整った顔をしているので、性格を知らなければ可愛いと思うだろう。

 

 現在、僕と同棲をしている女の子なのだが、彼女でもなんでもない。


 だってミカちゃんは幽霊で、僕に憑りついているだけなんだもの……。


 未練を果たして成仏するまでの間、この家に住み着く事にしたのだそうな。


 しかし同棲をする時に確約させた、僕の寝室には入らないというルールがある!

 

 なので、この部屋に居れば、自分だけの時間を満喫できるのだ!


「……はぁ。平和だ」


 そう呟いた瞬間だった。



「ひーさん! デートしようぜ!」



「……はい?」



 突然部屋の壁を突き抜けてミカちゃんが現れ、僕の目の前に顔を近づけてくる。



「うわっ! 寝室は立ち入り禁止って言ったでしょ!」



 驚いて体を起こすと、ミカちゃんはニコニコしながら僕を見つめていた。



「デートしようぜ!」



「な、なに? デート?」



「そう! デート♡」



「なんで急に……」



「いいじゃん! 外出ようよ!」



「外ってどこに?」



「山!」



「は? 山に行くの?」



 思わず聞き返すと、ミカちゃんは笑顔のまま答える。



「山に行こう! 自然。エコ。お金かかんないし最高!」



「なんで山なの? それに誤解されるのでデートって言わないでください」



「細かいこと気にしすぎ〜」



 僕の抗議を軽く流しながら、ミカちゃんは僕の腕を掴んで引っ張り始める。



「は~や~く~」



 ミカちゃんが僕の腕にしがみ付いて、引っ張っている。


 完全に当たっている筈なのに、僕の腕にはびっくりするくらい胸の感触が感じられない事に驚きつつ答える。



「ちょっと待って、まだ準備が……」



「準備なんていらないって! レッツゴー!」



「いや、せめて着替えくらい。絶対寒いって……」



「大丈夫大丈夫! その格好で十分だって!」



「冬ですよ? 山ですよ? 絶対寒いですって!」



「幽霊のあたしは、もうその感覚なんて忘れちゃったからな~。んじゃ、待ってやるから40秒で支度しな!」



「はぁ、今日も元気ですね」



「おう。元気いっぱいだぜ! あたしはもう死んでるけどな!」



 見た目に反し、下品な笑い声をあげながら、エコを理由に山に連れ込む幽霊のミカちゃん。


 完全に僕の意思を無視している幽霊のミカちゃん。

 


「……嫌な予感しかしない」



「何か言った?」



「はぁ……。暇だし散歩がてら行きますか……」



「やったー! 行こう行こう♪」



 結局僕は渋々ミカちゃんについていくことにした。


 とくにやる事も無かったので、休日の散歩がてらと言うのも本当だが他にも理由はある。


 逆らったら僕はこの幽霊に呪われる。


 ミカちゃんの呪いは恐ろしいのだ。


 ミカちゃんが命名した『可愛いパンツの呪い』。


 それを求め、追い続けてしまう恐ろしい呪い。


 どうやら僕は、そんな呪いに掛かっているらしい。


 ミカちゃんが生前持っていたらしい『可愛いパンツ』。


 それに匹敵するレベルか、それ以上の可愛さのモノを履いていないとミカちゃんは成仏したくないらしく、これも未練の一つだと言うのだ。


 そしてそれを履いたミカちゃんに報酬を貰わないと、僕の呪いが発症するらしい。


 呪いが発症してしまうと、僕はパンツを求めて彷徨う悪霊になる。


 男なんて全員その呪いに掛かってるのではないのか、と思いながらも解呪方法は解らないままだ。


 なのでミカちゃんの未練探しと、僕の呪いの解呪の為、出来るだけやりたいと言い出した事にには付き合う事にしている。



———1時間後———



 気づけば僕は、山道を歩いていた。


 昼下がりの陽射しが木々の隙間から差し込み、爽やかな風が頬を撫でていく。


 確かに景色は綺麗だし、空気も澄んでいるのだが、運動不足の体には結構堪える。

 


「はぁ……はぁ……」



 僕は既に息を切らしながら歩いていた。



「あー! マジで空気うまい!」



 その横でミカちゃんは元気いっぱいに宙を飛び回っており、木々の間をすり抜けながら笑顔で叫んでいる。

 

 幽霊なのに空気が美味いとは何事か。勝手なイメージではあるが、幽霊はジメジメとした場所、むしろ空気が淀んでいる方が好みじゃないのか?



「自然サイコー!」



 全身を大きく伸ばし、両手を大きく天に広げ、山の中を大声で叫び燥いでいる。幽霊だから疲れないんだろうな。羨ましい……。


 

「ちょっと待ってよ! ミカちゃん!」



「ひーさん、遅い〜」



 ミカちゃんは僕の言葉を聞かず、さらに先へと飛んでいく。



「ひーさん見て見て! あそこに可愛い鳥がいるよ!」



 ……僕には何も見えない。だって僕は地上にいるんだもの。頭上高くにある枝にとまり、羽を休めている鳥なんて見える訳がない。



「わーー! 綺麗だな~」



 僕は木の幹に手をついて休憩しながら、飛び回るミカちゃんを見ていた。


 こんなにも元気に動き回るミカちゃんを見るのは初めてかもしれない。


 ずっと昏睡状態だった親友が目覚め、やっと幽霊ライフを満喫できるのだろう。


 幽霊生活なんかを満喫してないで、さっさと成仏すれば良いのにと思うが、未練の心当たりがあり過ぎて成仏の仕方が分からないとの事。


 もしかしたらこの山の散歩も、ミカちゃんが生前にやり残した未練の一つなのかもしれない。

 

 そう思いながら、運動不足で重くなった体で後を追う。



「ねぇ、ひーさん。こっち来て! すっごい綺麗な花が咲いてる!」



「……今、行きますよ」



「は~や~く~」



 重い足を引きずりながら、僕はミカちゃんの方へ向かう。


 やっと追いついた場所には、確かに可愛らしい色とりどりの小さな花がたくさん咲いており、ミカちゃんは嬉しそうにそれを見つめていた。



「ね? 綺麗でしょ?」



「うん……。以外だ」



「でしょー。こんな季節なのに、綺麗な花が咲いてるんだね」



「いや、そうじゃなくて、花を見て喜んでるミカちゃんの事が以外だなと思って……」



「あ? どういう意味?」



「あはははは、いつものミカちゃんに戻ったね」



 ミカちゃんは頬を少し膨らませ、口を尖らせて僕を睨んでいる。



「ふん。でも、久々に綺麗な物を見た気がするな~」



 満足そうに笑うミカちゃんを見ていると、少しだけ疲れが和らいだ気がした。


 こうしてミカちゃんが楽しそうにしているのを見ているのも、案外悪くないかもしれない。


 そんなミカちゃんの笑顔を見ていると、不思議と僕も笑顔になる。

 

 本当に不思議な子だなと思い返す。


 今日はとことん付き合ってやるかと思い、僕は腰を下ろし休憩しながらミカちゃんを見ていた。



———数時間後———



 僕はふと空を見上げた。


 最初は明るかった空が、いつの間にか茜色に染まり始めていた。



「ねぇ、そろそろ帰らない? 暗くなってきたよ」



 飽きもせずに、何時間も山の中を元気に飛び回っているミカちゃんに声をかける。



「えー! もうちょっと!」



「でも、暗い山は危ないって……」



「大丈夫大丈夫! あたし幽霊だし!」



「僕は人間なんですけど……」



 僕の抗議もむなしく、ミカちゃんはさらに奥へと進んでいく。


 木々の影が長く伸び、辺りは徐々に薄暗くなっていく。



「ミカちゃん、本当にそろそろ……」



「ほら! もうちょっと行けば何かありそうだよ!」



 楽しそうなミカちゃんを止めることができず、僕は渋々ついていくしかなかった。

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