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幽霊女の奴隷になったひーさんの悲鳴が響く街  作者: もものけだま


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第十二話 ミカちゃんの未練 その4

 

 夜の病院は昼間とは違い、静寂に包まれていた。


 廊下には非常灯だけが点いており、自分の足音が響くのが妙に気になる。


 僕とミカちゃんは誰にも見つからないように、消灯時間になり静まり返った廊下をそっと歩いていた。

 

 あまりの静けさに恐怖し、何気なく病棟よりも明るい窓の外に目をやると、スッと何かが横切った気がした。

 

 思わず叫びそうになるのを必死で堪える。リナの病室に行くチャンスは今しかない。

 

 そう思って決行する時間まで、夜の病院で起きそうな事を想定しておいた。そのお陰でなんとか叫び声をあげずに堪える事が出来たとホッとする。



「ミカちゃん?」


「な~に?」


「さっき窓の外に誰か居たんですけど……」


「ここは病院だから、幽霊も多いんじゃね?」



 身を縮めて怖がっている僕に向かって、さも当たり前だとばかりに言ってくる。

 

 僕が話しかけている隣を歩くこいつも幽霊なのだが、見知った幽霊と見知らぬ幽霊とでは恐怖の度合いが全く違う。



「……やっぱり、帰りませんか?」


「はぁ? ここまで来て何を言ってんだよ。報酬を思い出せ。先払いで見せただろうが!」


「今は無理です。怖すぎて無理です」


「しょうがないな。成功したら追加報酬を考えてやるよ」


「本当ですか?」


「だから頑張って♡」


「頑張ります!」



 成功報酬って何が頂けるのだろう。そんな事を考えていたら恐怖も薄れて行く。

 

 二人で階段をあがり一つ上の階層に進む。

 

 運が良かったのか、頭を打った事で入院をする事になった僕は、リナの入院しているエリアの近くの病室があてがわられていた。



「あっ、この先だよ。リナの病室は、ここの通路の奥にあるんだ」



 ミカちゃんが指差した方向には、薄暗い廊下の先に一つの扉が見える。それは両開きになっている大きな扉で、一般の入院患者とはエリア分けをしている為の扉だった。

 

 一般病棟に見舞いに来た人達は、まず訪れる事はないであろうと思ってしまうほど、普通とは違う雰囲気を感じる。



「あそこが、リナの部屋がある場所に行く為の扉。病院の関係者じゃないひーさんは、あそこからしか行く事が出来ないようになってる」



 ミカちゃんの声が少し震え、真剣な顔で扉を見ている。僕が手を握ると少し安心した表情に戻る。



「大丈夫。僕がついてますから」


「追加報酬で完全に立ち直ったね。本当にひーさんは単純だよね」



 呆れ顔のミカちゃんが僕を見つめてくる。さっきまでの強張った顔よりはマシだと思い、目の前の問題の解決策を話し合う事にした。



「しかし、ナースセンターがありますね。どうします?」


「任せて!」



 ミカちゃんがナースセンターに近づいて行き、カウンター越しに中の様子を覗いている。


 まさか夜勤の人達も、自分達の仕事ぶりを幽霊に覗かれているとは思いもしないだろう。


 こういう場面に出くわすと、いつも視えないって羨ましいなと思ってしまう。



「ひーさん今だ! ゆっくり走れ!」



 ミカちゃんの掛け声を合図に、僕はゆっくりと一般病棟とは隔離されているエリアに入る。

 

 

 

 そこはとても静かで、左右に複数のスライド式のドアが並んでいる薄暗い場所だった。

 

 ミカちゃんが追いついてくると無言のまま少し進み、一つのドアの前で立ち止まる。ここがリナの病室なのだろう。

 

 

 二人同時に一呼吸を入れる。

 

 

「行きましょう!」


「うん!」



 僕はドアをゆっくりと開け中に入る。

 



 病室の中は薄暗く、ピッピッピッと、機械の音だけが静かに響いていた。


 カーテン越しに窓から差し込む街灯の光が、白いシーツの上にぼんやりとした影を落としている。


 そのベッドには一人の女性が横たわっていた。

 

 

「この人がリナちゃんなの?」


「……うん。あそこで寝ているのが本当のリナだ」



 ベッドに横たわる女性は、僕が以前会ったリナちゃんとは違っていた。


 髪は長く伸びており、顔は痩せ細り、頬がこけているのが分かる。


 長期入院の影響がその体に現れていた。



「……リナ……来たよ」



 ミカちゃんがゆっくりとベッドに近づいていく。



「今回はあたしの大事な人を連れて来たんだ。


 ひーさんって言うんだけど、ビビりだし、エッチだし、すぐ逃げるんだよ。


 でも、この人がリナを救ってくれる。

 

 あたしの代わりにリナを絶対に連れ戻してくれる。

 

 ……長い間、待たせちゃってごめんね」

 

 

 リナにそう告げると、ミカちゃんは僕の方に振りなおる。その小さな体を折り、深々と丁寧に頭を下げる。



「ひーさんお願いします。あたしの代わりに、あたしの声をリナに伝えて下さい」


「はい。分かりました」



 ミカちゃんの言葉に僕は頷く。


 そして僕の意識はそのままに、感情と想いはミカちゃんに貸す。


 目を閉じ意識を僕の中の端に押し込めて行くと、ミカちゃんが僕の体に入ってくるのを感じる。


 不思議な感覚だが、以前にも経験したことがあるのでさほど驚きはない。

 

 僕の想いとは違う感情が僕の中に広がっていくのを、うっすらと残った僕の意識で確認する。

 

 それはミカちゃんの不安や後悔の気持ちが多くを占めていた。

 

 そかしその中に、希望のような願望のような気持ちも感じ取る。

 

 面会を断られ、運よく入院出来、消灯時間にここまで来た。

 

 ミカちゃんの未練……。その原因となっているリナさんに声が届く距離まで辿り着けた。

 

 

 準備は整った。

 

 

 二人の感情が同じ想いで繋がると、自信に溢れたミカちゃんの想いが僕の中に広がっていく。

 

 あとは任せます。

 

 そう僕の中に感じるミカちゃんに呟き、この体の主導権を完全にミカちゃんに託した。

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