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ひーさんの悲鳴が響く夜の街  作者: もものけだま


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第十一話 ミカちゃんの未練 その3


 数日後。僕は週末の休みの日に、ミカちゃんと一緒に病院へと向かっていた。



「あれがその病院?」


「……うん。リナはあの中にいる」



 大きな総合病院が目の前にそびえ立っており、老若男女がおのおののペースで歩いていて、それなりに人の出入りが多い。


 いざ、病院を目の前にすると、ミカちゃんの声には少し震えが混じり緊張している。


 きっとこの作戦が最後の希望なんだろう。


 これが上手くいかなかったらと、不安になっている事が僕にも伝わってくる。



「大丈夫!必ずリナちゃんを助けるから!」


「……うん……ありがとう」



 いつもと違う大人しいミカちゃんも新鮮で可愛いのだが、それはそれで何かいつもとはペースが狂い歯車が噛み合わない。

 

 いつもなら嫌がる僕を笑顔でぐいぐいと引っ張っていく。そうして解決策を思いつき、片っ端から試していく。たとえ失敗しても笑顔で次の作戦に繋げ、その結果、未練に悩む幽霊達を良い方向へと導てしまうのがミカちゃんの凄い所だ。

 

 しかし今回は違う。誰かを助けたいと強く思っているのは同じなのだが何かが違う。


 このままの雰囲気だとダメな気がした。



「ミカちゃん?」


「はい?」


「病院の前で言う事じゃないけど、元気に行きましょう!」


「は?」


「病は気からって言うじゃないですか!」


「私はもう死んじゃってるんだけど……」


「だからこそです!」


「全然意味がわからないんすけど」


「いつもの元気なミカちゃんは、周りを明るくして皆も元気になるんです。


 だからいつものように行きましょう!

 

 今回が上手くいかなくても、僕は何度でもミカちゃんとここに来ます。だからいつものミカちゃんで居て下さい。きっとその方が全てが良い方に動きます!」



 僕が病院の駐車場の隅で柄にもない事を言うと、ミカちゃんはしばらく考え込んでいた。


 そして幽霊なのに、ミカちゃんの目に生気が戻るのが分かる。



「そうだよな! あたしもそう思う! やっぱひーさんは凄いよな」



 さっきまで僕の隣をトボトボと歩いていたのに、フワフワと浮きあがるといつものように胡坐をかく。



「ひーさん。ありがとう!」


「良し! 行きましょう」


「おう! リナ待ってろよ! あたし達が助けてやるからな!」



 ここは病院の前なのだから、行きかう人々はどこか元気が無い人ばかりだ。

 

 そんな病院の前で誰よりも元気な声で叫んでいる幽霊のミカちゃんを見て、僕はどこか安心し気合も入る。

 

 

 

 僕達は意気揚々と病院の入り口に向かい、鼻息を荒げながら自動ドアをくぐる。


 中は暖房が効いており、外の寒さとは対照的に温かい。


 まっすぐ受付に向かうと、白衣を着た女性が笑顔で対応してくれた。



「本日はどのようなご用件でしょうか?」


 面会に来ましたと、僕が告げる。

 


「リナを助けに来た!」



 周りには聞こえないが、ミカちゃんも声を荒げて気合はじゅうぶんだ。



「どちらの方のご面会でしょうか?」


「道安リナさんという患者さんに会いたいんです」



 僕の言葉に受付の女性は端末を操作しながら答える。



「道安リナ様ですね……少々お待ちください」



 しばらくして受付の女性が顔を上げた。



「確かに道安リナ様は現在入院中ですが、リナ様とはどのようなご関係でしょうか?」


「リナさんの親友の助っ人の者です」


「……はい?」


 気合が入り過ぎているのか、思わず本当の事を言ってしまうと、目の前の受付の女性の目が厳しくなる。

 


「ひーさん!そこは友人で良いよ!」


「あっ!そっか……つい……」


「あの~、どなたとお話をしているのですか?」



 ミカちゃんのツッコミについ返事をしてしまい、さらに受付の女性の目が細くなって僕を見ている。

 


「いや、あの~……」と、何も思い浮かばずにいると、受付の女性がトドメを刺してきた。



「申し訳ございません。登録されている方以外の面会はお断りしておりますので……」


「でも……」


「病院の規則ですので……。どうしてもと仰るなら、ご家族の方に連絡を取っていただけますか?」


「ミカちゃん?リナさんの家族とは連絡取れる?」


「リナには家族はいない。あたしもリナも孤児院育ちなんだ」



 その言葉を聞いて、僕は胸が締め付けられるような思いがした。


 ミカちゃんもリナちゃんも家族がいない二人だったのか……。


 だからこそ、二人の絆は家族以上に強かったんだろう。


 僕は受付の前で泣きそうになっていた。



「……お客様?」


「あ、すみません……分かりました……グスっ」



 結局、何も言えずに僕達は受付を後にした。

 

 


 病院の外に出ると冷たい風が頬を撫でていく。


 僕達は病院の敷地内にあるベンチに座り、これからどうするか考えていた。



「……どうしよう……ぐすっ」


「何で泣いてるの? 失敗しても何度もリベンジするんでしょ!」


「……だって……二人が孤児だったなんて……」


「そんな事で泣いてたのかよ! 別に私とリナは気にしてないよ?」


「……ぐすっ」


「ビビりの次は泣き虫ひーさんになっちゃったな」



 僕が感傷に浸りながら泣いていると、何かを決意したような声が聞こえてくる。



「……これしかないか」


「何か思いついたんですか?」



 ミカちゃんが真剣な顔で僕を見つめてくる。



「ひーさん。ちょっとここで怪我してくんない?」


「はい?」


「怪我をして入院すれば中に入れるでしょ? そしたらリナの病室に行ける! 完璧じゃん!」


「無理ですよ! わざと怪我をするなんて怖すぎますって! それに痛いじゃないですか!」


「大丈夫大丈夫♪ あたしが手加減してあげる♡」



 ミカちゃんはニコニコしながら立ち上がり、拳を握り締める。


 ……そうだった。この子はこんな見た目だが、振り降ろされてくる日本刀をたやすく蹴り飛ばす女だ。



「じゃぁ、いくよ?」


「ひぃぃぃ! 待って待って!」


「全治一ヶ月くらいで済ませるから安心して♡」


「全治一ヶ月! 全然安心できませんよ!」



「ふぅーーーー」



 僕の目の前で、何やら格好良い感じに呼吸を整えだすミカちゃん。


 静かに顔をあげながら僕を見つめてくるミカちゃん。


 病院内の憩いの場であるはずのそこには、獣のような眼をしたギャル風の幽霊が居た。



「ひぃぃぃぃぃぃぃ!」



 僕は慌ててベンチから立ち上がり全力で逃げた。



「あっ!逃げるな!」



 しかしミカちゃんはニコニコ笑顔のまま追いかけてくる。


 周りの人達にはミカちゃんは視えていない。


 病院の敷地内を一人で爆走する僕は完全に不審者だった。


 通りかかる人達が怪訝な顔でこちらを見ているが、今はそれどころじゃない。



「待ってください! 話し合いましょう!」


「話し合いは終わったでしょ♡」


「まだ始まってもいませんよ!」


「細かいことはいいの!」



 僕は必死で逃げる。

 


 しかし宙を浮いて移動する幽霊相手に逃げ切れるわけがなく、気づけば病院の入り口まで追い詰められていた。



「ま、待って!」


「うひゃひゃひゃひゃ……もう逃げられないぞ~」



 ミカちゃんは右手を強く握りしめ、その拳を自分の左の手のひらでポンポンと叩きながらゆっくりと近づいてくる。

 

 顔は幼いがその目は獣のように鋭く、口元は何故か嬉しそうに少し笑っている。

 

 その姿は悪霊と言うよりも、悪魔のようにさえ思えた。



「ひぃぃぃぃぃぃぃ」



 本日何度目かの悲鳴をあげながら後ろに下がろうとすると、足が段差に引っかかった。



「うわっ!」



 体が後ろに倒れ、僕は病院の入り口の階段で頭を打った。



「ぐはっ!」



 鈍い音が響き、視界がぐらりと揺れる。



「あ……死んだ?」



 ミカちゃんの声が遠くに聞こえる。



「……大丈夫?」



 僕を見下ろすミカちゃんの顔が、だんだんと遠くなっていく。


 そして僕の意識は暗闇の中に落ちていった。






 目を覚ますと、そこは病院のベッドの上だった。



「……ここはどこだ?」



 後頭部が少しズキズキと痛む。


 横を見るとミカちゃんが心配そうな顔で座って……いや、胡坐をかいて浮いていた。



「ごめん。大丈夫?」


「……頭が痛い」


「ごめんね。本当はこんなつもりじゃなかったんだけど」


「いえ、僕が勝手に転んだだけですから」


「でも、これで入院できたね」



 ミカちゃんの言葉に僕は苦笑いする。



「ははは。そうですね」


「ひーさんの言った通り、笑ってると良い方向に物事が進むんだね。さすがひーさん♡」



 笑ってると良い方向に物事が進むとミカちゃんは言っていたが、笑っていたのはミカちゃんだけで、僕は決して笑ってなどいなかったと思う。

 

 先ほど僕に恐怖を与えながら追い詰めて来た悪魔は、ベッドの脇でフワフワ浮きながら天使のような笑顔で笑っていた。

 

 その嬉しそうな顔を見ていると僕も物事が良い方向に進んでいるのだと思ってしまう。やっぱりこの子の笑顔は凄い。

 


「それで、僕の容態はどんな感じか分かりますか?」


「あの後、病院のスタッフが気絶してるひーさんに気づいて救急搬送してくれたんだよ。あたしが盗み聞きした感じだと、検査の結果は軽い脳震盪だってさ。起きないから入院させたけど、明日の朝には退院できるって」


「……そうですか……軽傷でよかった」


「あたしだったら、もっとうまく殴ってやったのに!」


「ミカちゃんの場合だと全治一ヶ月って言ってたじゃないですか!」


「でも、チャンスは一日もないね」


「あっ、そうだね」



 つまり今夜中に僕はリナちゃんに会わなければならない。

 

 身内しか面会が許されていない人物に会う為には、院内に忍び込んだりするより、同じ病院に入院している時の方が簡単だろう。

 

 見周りやその他の事は、この病院に毎晩来ていたミカちゃんなら把握しているはずだ。

 

 監視カメラに写ってしまっても、トイレに行ったら迷ったとか言い訳をすればよい。幸いにも僕は頭を打って入院している。多少の変な言動は多めに見てくれる気がする。

 

 僕の声が届く距離まで近づければ良い。そうしてミカちゃんの想いを僕が伝えればよい。

 

 

 僕は深呼吸をして覚悟を決めた。



「大丈夫。任せて! きっちりミカさんの想いを僕がリナさんに伝える!」


「うん! あたしはひーさんを信じてる!」


「ミカちゃん。今夜、絶対に成功させますよ!」


「おう!」



 僕達は夜になるのを待って、リナちゃんの病室へと向かうことにした。

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