74話 無限の生と死
レックスは一瞬の迷いなく離脱を選んだ。
背に矢を、刃を受けながらも大事に抱える少女だけは傷つかせまいと手に力が籠る。
「…邪魔だ。道を開けろ」
正面と左右に対しては容赦なく、追いかけ襲い来るものはその前に呪いで。迎撃のみに集中し殺しはしない。
殺さず負傷兵を増やした方が戦いやすいのはそうだが…何よりも殺してはならないと、何かが訴え続けているのだ。
それが何かなど言わずとも分かる。だから…この少女を死なせない。
「鬱陶しいな本当に。何人連れてやがんだ」
もう数百は落としたと思うが未だ勢いに衰えはない。それどころかこちらが撤退を始めたからか勢いは増しているようにも見えた。
全員殺すことは…不可能じゃないだろう。だがもしまた、あのように切っ先をフィーナに向けられることがあるなら…?
腸が煮え返りそうだった。
いざというときは恐らくこの訴え続けている意志を無視して…
「いや…それだけは…」
「隙ありだ!不死なる王よ!」
しくじった。そう理解する間には…背中から大きく斬られていた。
だがおかしい…呪いは止めちゃいないし警戒もしていた。まるでそれらを無視したように……剣はレックスの皮膚を裂いた。
この異様な強さと呪いを突破されたことから……レックスは1つ、推測を口にした。
「強いな、お前。『役割』持ちか?」
尋ねられたことに、歓喜したようでニッと笑みを浮かべてから……男の形をした天神は、口を開く。
「あぁそうとも!俺は『断絶』のゼル=ラグナディオである!」
はきはきと喋る…陽気な野郎だな…なんて思った矢先。
空間が歪んだ。
「…は?」
「対象の隔離に成功」
フィーナが、手元から消えていた。
その状況に遅れて理解が追いつく。
1度呼吸が止まるほどの衝撃であり、胸の奥で何かが軋む。
……『怒り』だ。それも、1000年ぶりの。
衝動に任せ、フィーナを取り返すべく動こうとした─────直後、背後で気配がして…
「よくやった!」
ゼルの軽快な声。またも意味の分からない現象だ。
「何が起きてっ……」
「案ずるな。一撃よ」
不意を突いたというのに大胆に構えるゼル。当然受けようと構えるため動こうとした…のに、体が言うことを聞かなかった。
それが意味することは……
「…何人来てんだ?」
「気にすることはないっ!今!死ぬのだからな!!」
…あぁ、そういうことか…最初に受けた傷の癒え方が随分ゆっくりだと思っていたが…『断罪の剣』を媒体に強化してるのか?
などと考えているうちに……ゼルの間合いまで詰め寄られていた。
「はっ!!!」
「ぐうぅぅぅぅぅぅぅ!!??」
初手から全力、槍による刺突でレックスは死んだ。
* * *
が…当然のごとく、蘇った。
「あー…いってぇなぁ…」
「やはり不死王!その名に違わんな!」
「うるせぇ」
身体に違和感…ないな。いつも通りだ。
「形式上は一対一…だが外野にもう二人か三人か?」
「ほう…よく分かったな」
「お前が頭使えそうなタイプに見えなかったもんでな」
こいつの補助をしている一人とフィーナを攫った一人がいるのは分かった。
分かったからどうにかなるというわけでもないのだが。
「御託はよかろう!次は正々堂々とやろう!」
「信じられるかよ」
「ぬ…ならば…カイラ!リュシ!色彩の魔女を連れて先に撤退せよ!」
…気配が二つ、外から消えたな。その上で…今気づいたがゼルと共に結界のようなもので隔離されているな?
「お前を倒せば出してくれんのか?」
「あぁ!よかろう!俺は所詮時間稼ぎなのでな!」
ゼルが槍を再び構える。どうやらこれらを突破するまでは…フィーナの元へ行けないらしい。
レックスも、構える。特殊な…脱力しきった構えだった。
「すぐに終わらせてやる」
「ははっ!大言壮語はやめておくといい」
両者睨みあい…同時に、動き始めた。
* * *
ゼルは自身のことを時間稼ぎと言った。それは間違いではない。目的は。
ただ…その時間稼ぎに使う駒にしては…贅沢な強さを持っていた。
* * *
「…12回目」
粉砕された頭を治しながら、ゆるりと立ち上がる。
「ふむ、奇妙なものだな」
「生き返りたては声が響く。静かにしてくれ」
「はっはー!面白いな!その言葉は!」
「黙れっつってんだろ…」
髪を搔きむしる。
大体、力の性質は理解してきた。
天神族…引いては『役割持ち』との戦いはまず、相手の持つ『異能』と呼ばれる力への理解が必要となる。
異能に関しては人で言う得意魔術のようなものだ。それがさらに独創的になったと考えればいい。
そして今目の前にいるゼルという男。こいつは『断絶』を名乗った。そして体感した限りだと…
ありとあらゆるものを断つ力…というべきだろうか?
「ふんっ!」
拳の連撃が振るわれる。右腕、左腕、また戻してアッパー。
それら全てを躱して全力の一撃を叩き込もうとした…が、見えない壁により防がれる。
この現象だ。これは恐らく「レックスの攻撃」を断絶している。
「ならこいつはどうだぁ!」
今度は槍を投擲と同時に攻められる。槍だけは受けるわけにもいかず躱してその隙を容赦のない一撃が襲う。
そもそもとしてフィジカルが強すぎる、天神族として…こんなに筋肉質なことがあるか?
* * *
「20回目」
何かの制限があるのは違いない。そうでなければおかしいのだ。力にはそれ相応の対価が必要となるのが世の理であり、天神族は理に重きを置く。
だからこそ隙のないこいつに違和感を覚えている。だからその中で一番の違和感を探し…レックスは口にした。
「…なぁ、もしかして…この槍、普段は使ってないんだろ」
「!」
当たり。ようやく近付いた。
とすれば、初めの一撃には意味があった。
レックスの中の何かをこいつは現在進行形で『断絶』し続けている。尚且つ初めの印象でレックスは呪いを出すことを一時止めていた。
意味のないことにリソースを割かないようにするという思考が仇となっていたわけだ。
「…もう全部分かった。ブラフにここまで時間掛かるとは思わなかったが…な」
「…ほう」
やはり断たれていたのは呪いを自由に扱うための接続権というべきか。理解すれば切れているのは明らかだった。
それを無理やり繋げて…呪いの出力を最大まで引き上げる。
「む…!!く…!!」
完全に主導権は奪った。やはりこいつの対価は単純な能力的体力リソース。
レックスが気付くまでは呪いに対応する必要が無かったため優勢だったのが…一気に劣勢へと転じる。
「絶対に…!負けん!!」
「押し合いで勝てると思ってんのか?」
出力最大……ちなみに上限値は無い。幾らでも上書き出来るからだ。
「うおおおおおおお!!!」
「……あー……うるせぇ」
「っ……かっ……ぁぁぁ!……ぁぁぁぁぁ!!!」
呪いが『断絶』の壁を破壊しゼルの体を蝕む。しばらくそのまま耐えたものの……数分もしないうちにゼルは意識を失った。
「……次だ」
* * *
レックスは壊れゆく結界の外側からの静かなる殺気をひしひしと感じ取った。
仲間を穢された恨みだろう。せっかく距離を取ったのに気取られているぞと…言いたくなったがもしやこれは…
「あんただな、さっきから動きを止めようとしているのは」
「…なぜ効かない…!」
「リュシとカイラ、どっちだ?まぁどっちだって構わんが」
まただ、また背後を取られた。となるとこの状況を作り出していること自体…最後の一人の力だろうか。
どうでもいい。結局のところ三人全員を落とさなければこの争いに終わりは無いだろうから。
「私はリュシ=エリュシオン。『静止』の役割を持っている」
「…わざわざどうも」
先のゼルに比べれば…明らかに差を感じる。もしかしなくても奴が最大戦力であった可能性も…なくはないだろう。
「一応聞いておくが…引くなら汚れなくて済むぜ?」
「要らぬ心配だ!」
相性が不利。そうだと分かっていても…リュシは止まらなかった。
〜キャラ設定紹介〜
ゼル=ラグナディア(天神族)
『断絶』の役割を持つ橙髪金眼の筋骨隆々天神。天神族最高硬度の肉体を持つ。
不死王との相性は5分。




