73話 呪いという願い/名前負けポンコツ龍娘
ちょっと詰め込んだのでタイトル2つです!
「どういう状況だ…?俺は…フィーナに封印されたと思うんだがな」
「よくも…同胞を!」
レックスは、目の前で怒り狂う天神族をいなしながら思考を回す。
自身の記憶はフィーナに封印されたところで止まっている、だが…知らない、カーバンクルとしての記憶が次から次に流れてきていた。
そこから今の状況を理解する。あぁそういうことかと。フィーナが死んだことにより色彩の封印が解け魂から再生してしまったのだと。
自分で考えてみてもおかしくて笑えて来る。が…ひとまずはやることがあるだろう。
「てめぇ」
「なっ」
突き出された剣を躱し、手首を捻じることで手放された剣を奪い取る。
「フィーナは言ったはずだぞ。1000年前の惨劇を繰り返すつもりかってな」
「クソっ、先に殺すべきは使い魔の方だったか…」
「そうだが結局フィーナが生きている限りは俺の呪いがあるからな。どこからでも蘇る」
体制を崩し、倒れて露わになった腹へ剣をお返ししてやる。天神族は苦悶の表情を浮かべる。
「まぁあの器で制限が掛かっていたらしいな。記憶も、力もこの体とは比べ物にならん」
「…やられていればベラベラと…いい気になるなよ」
天神族は青筋の浮き出た顔で…命令を発した。
「全員かかれっ!」
「お…?」
審判の間、その外で構えていたらしい兵士服の天神族がわらわらと中へ入ってくる。
「敵はかつての邪悪『不死王』だ!同胞の恨みを」
「うるせぇ」
ゴキリと首をあらぬ方向へ捻じ曲げて黙らせる、ついでに翼を毟り取ってやった。
天神族において翼というのは多くの機能を持つ重要な機関。それこそ人の心臓に近しいものだ。それを大勢の仲間の前で…ましてや天神族長のものが毟り取られたならば。
全員の怒りを買うのは必然だった。
「あー…まぁ、久々だ。少しは…楽しめるか?」
そんな状況で、呑気にグッと伸びをしながらレックスは呟いた。
* * *
多対1。最も不死王が得意とする構図だ。
なぜならば自分以外は邪魔でしかなく全員が標的と分かっている方がやりやすい。
「よくも族長を!」
「弱い。次」
正面から掛かってきた阿保を散らす。
「我々を舐めているのか!」
「…弱いのに粋がるのが悪いだろ?」
5人ほどまとめて掛かってくるも呪いに阻まれたようで苦しそう悶えて気絶した。
「死ねぃ!!」
「死なん」
強そうな老獪も、技を受けたと同時にカウンターを放って動けなくしておく。
…………
久々の争いだからだろうか…血が騒いでいる。
珍しく高揚感とやらを覚えていた。
1000年前ではありえなかったことだ。たった一人の少女を除いて不死王を満たせたものは存在しない。
「時間を置くというのは大事なんだな。教訓になった」
喋る余裕すらある自分に負ける道理など無い。そう、思っていたし、実際そうだった。今までは。
「動くなぁ!」
「…あ?」
人数が最初の半分ぐらいに減った頃…もう飽き飽きしていたセリフの中で初めて聞いた言葉があった。
当然聞くわけもなく動いて声の方へ振り向くと…
フィーナの身体に剣の切っ先を突きつける奴が居た。
一瞬思考がフリーズした。どうして狙う。そいつはもう死んでいるだろう。なら…
様々な考えが浮かぶ。そんな中でもただ一つだけは消えず訴え続けている。
『お前は死なせたくない』
次の瞬間には地を蹴っていた。
フィーナの身体を弄ぶ卑怯者へ向けて制裁の一撃を与え力無く崩れるフィーナを支える。
「あぁ…そうか。俺は俺として生きていると思っていたんだがな」
フィーナの身体に触れ、ようやく実感した。だから少し感性も違ってきていたんだろう。
「お前だけは、死なせない」
とっくに心臓を突き刺され動かぬ骸になったはず。それでも死なせたくないと、そう思った。
想いは、呪いにもなる。不死王はそれを一度実現させた。だから…今度はもっと、その手に触れながら願うのだ。
『死ぬな』
と…その呪いを。
* * *
* * *
* * *
時と場所が変わり、フィーナが連れられたばかりの帝国会議場。
1人の少女が舞い降りた。
「ママ!大丈夫!」
ダイナミックに天井を破壊して円卓に降りた少女…見るからに魔族でも、獣人でもない。だが特徴的な翼と尾、それに角が生えている。見たこともない種族に皆警戒を露わにした。
「…あれ?ママは…」
キョロキョロと何かを探す少女。その様子を見て…リリエラが一言。
「迷子でしょうか」
「リリエラ様それは無いかと…」
じゃあなんだろうかと思うものの分からないものには手が出しづらいというわけで…
アルセリアが腰に手を当て自慢げに言う。
「ふん、お主らビビっておるのか?ここは我が…」
「声震えてるよ?」
「ビビっとらん!武者震いじゃ!」
ミツハの鋭いツッコミにアルセリアが反論し…その声で、少女はこの空間にいる別の存在達に気が付いたようだった。
「…あの…」
ペタペタと、裸足で会議場を歩き、リリエラ等の方へ。
やがて一番目立つからだろうか、リリエラの前に止まって一言。
「ママ、どこ?」
「…やっぱり迷子じゃないですか?」
誰も何も言わなかった。…正しくは、言い出せなかった。
* * *
この少女─────名をリリア・ドラグニス=ヴァルドリヒという。
そして、龍人であり……フィーナの、初めての弟子……正確にいえば家族に近かったが、1番弟子である。
彼女は天空がフィーナの魔術で瓦解した際、共にフィーナと地上へ降りたのだ。
…………
……………………
この時リリアはまだ5歳の子龍で、『不死王』によって両親を亡くした上見知らぬ土地に放られるという中々に厳しい境遇にあった。
「……?……?……ぅぅ」
当然幼き者にどうにかできる訳もなくただ泣いていた。泣くことしか出来なかった。
「ぅーん……いてて……」
「!」
瓦礫の中から声がした。もしかしたら知っている人かもしれない─────そう思って、リリアは瓦礫の山をどかした。
小さくても龍人だ。ものの数分で全てを退かし終え……その少女と出会う。
「ん……あれ……?私……」
それこそ初めての死から生き返ったばかりのフィーナだった。
リリアの期待通りの人物ではない。されど人と会えた安心感からか、リリアは思わず泣き出していた。
「うー!うー……!」
「えっ」
フィーナにぎゅぅっとしがみついて、泣いた。
フィーナは当然ながら困惑した。それでも、そんなリリアが不憫に思えたからか、頭を優しく撫でてくれた。
その温もりは、家族を失ったリリアにとって唯一の拠り所となる。
これがフィーナと、世界にただ一人生き残った龍人の出会いだった。
* * *
それから500年程、同じ時を過ごした。フィーナは不死になっていて、龍人の寿命は優に1000年を超える。だから必然と言えばそうだった。
だがそんなある日のこと、リリアの嗅覚が『それ』を明確に捉えた。
─────不自然なほど、小さくもあり大きなフィーナに対する殺意。
それを遥か上空、到底飛んではいけないぐらいに高い場所から感じ取った。
「……?」
恨まれるようなことがあるのだろうか。出来ることなら不安要素は消しておきたい。そう思ってリリアは行動に出た。
ほんの書き置きを残して。
『ちょっと行ってきます。いつか帰ります』
リリアはそれから原因と対策を探して世界中を巡ることになった。
図らずとも、フィーナよりも先に旅を始めていたということだ。
……ちなみに、書き置きを見たフィーナが叫びしばらく立ち直れない程に憔悴したことをリリアは知る由もない。
* * *
リリエラ等一行は1度エマ達が居るはずの宿へ、合流するべく訪れていた。
「……要約したら、家出していた師匠の1番弟子さん……ってことですよね?」
「家出じゃない!必要だった!」
「でも間に合わなかったんですよね?」
「……う……お前キライ」
エマの鋭い言葉に反論できず項垂れるリリア。
そんなリリアをリリエラが優しく慰める。その光景にエマは……既視感を覚えた。
「師匠のお弟子さん……というより娘さんの方が正しそうですね。認識を改めました」
「ちょっとエマさん……言い過ぎよ。まだ子供」
「子供、じゃないっ!1005年生きてる!」
それはなんとなく分かっている……が、言動と態度があまりに幼く説得力が弱い。
「…まぁ、この話はこれぐらいにして……わざわざ私達の方へ来たのは何か理由が?」
「……ママを探すの。手伝わせてあげる」
「アテがあるんですか?」
「場所は知ってる」
エマは暫し考える。会話の流れや面子的にもこちら側の主導はエマのようで、皆エマが決断を下すのを待った。
「……では、1000年前の師匠にまつわるエピソードを1つお願いします。目的は同じですし後は貴方が信用出来るかどうか、ですから……」
「エマ、顔が緩んでる」
「……別に私欲ではありませんよ?」
「分かった、それでいいなら─────」
…………
……………………
「これ、我等が聞いてよかったんかのぉ」
「こういうのは心に閉まっておくべきですよ」
「聞かなかったことにしよう……」
弟子ではない3人は、それぞれ想像の範囲の反応だったが当の弟子達は─────
「では師匠はその時なんと?」
「魔術も、見栄は大事、って……それで見てくれだけの魔術を暫く作ってた」
「っ……その時代に生まれたかった……!チクショウ!」
「お姉様もそんな時が…」
「魔女さま可愛いです!」
「……師匠、変わりませんね、今と」
「うん、主は可愛いし……強い」
もはや信望者の集まりと化していた。
〜キャラ設定紹介〜
リリア・ドラグニス=ヴァルドリヒ(1005歳 龍人族 雌)
ママ大好き龍人ちゃん。フィーナの1番弟子ではあるものの魔術に関してはほぼ何も教えて貰っていない。家族に近しい関係。
500年前に天神族の観測に気付いて活路を探してたが天神族の関与の際に間に合わず無事ポンコツ呼ばわり。




