72話 死にたくない
初めはレックスの生い立ちを聞かされた。途中までは同情の余地があったけど疑問しかなかった。
「えぇ…なんで侵略者になってんの」
「…そうすれば満たされると思ったんだよ」
やっぱり理解出来なかった。
…………
私も話すように言われたため適当に、なんとなく話した。
「ほう、やはりそれらは努力して得たものなのだな。天才どものそれとはまた質が違った」
「まあね」
気取っていたが内心は嬉しかった。彼も、自身の力を研鑽し続けているらしい。もう十分だと思うが。
…………
悩みを聞いてもらった。あの質問にも付随する内容だ。
「…あの、さ…昔からなんだけど…やっぱり才能がある分周りには期待されるし…怖がられるし…」
「あぁ…凡夫には分からんだろうよ。フィーナの悩みはな。気にすることは無い」
少しだけ、嬉しく感じてしまってその夜は眠れなかった。
…………
逆にどうして似ていると思ったのかを聞いた。この時にはもう私も彼に興味を持っていた。持ってしまった。
「俺も…長いこと一人だからな」
「そっか」
なんとなく察した。それが永遠に終わらないものということも。
* * *
あっという間にタイムリミットはやってくる。レックスの呪いは私の身体を蝕み、傍にいる限り死の運命は逃れられない。
だからといって逃がすことは無いだろう。これはあくまで暇つぶし…そうだと、レックスも分かっている。
「私…死ぬんだ」
急に実感が湧いて…言い表しようのない喪失感と悲壮感が同時にやってきた。
旅を始める前は当然死ぬことなんて眼中に無かった。
旅の途中は何度も死ぬかと思ったけど皆が居れば大丈夫だった。
それで、今。レックスの話が本当ならベルゼもガルヴァンももう死んだ。
そうして私も…死の淵に立っている。
「死にたく、ないなぁ…」
ここに足を踏み入れた時から覚悟はしていた。でも、それでも…私は…死にたくなんてない。
もっとやりたいこともあった。するべきことも果たせてない。
そんな後悔の中…死ぬ。死ぬのだ。それ以外の道は残されていない。
「フィーナ、泣いているのか?」
「誰のせいだと思ってるの?」
「それを言われると…何も言えん」
この数日、彼の人となりを理解した。そんなに悪いやつじゃないのかもしれない…でも、過去は過去で今で塗りつぶすことはできない。
「……」
「……」
しばらく黙って、隣り合った。
段々と指先から力が抜け体温が下がっていく。
死ぬ。あぁ…死んでしまう。
このまま…
「いやだ」
まだ死ねない。やりたいことがあるから?そっちはいい。ただ…果たすべきことも果たせず死ぬのは違う。
だから、最の力を振り絞って…魔力を、行使した。
虹の瞬きが辺りを照らした。
「…フィーナ」
「レックス、騙されたね」
虹の封鎖。それをこの呪いに合わせて改良した大規模魔術。
人生で最高の傑作。それを最期の瞬間に披露する。
「あぁそうみたいだな…やはりお前は賢い」
「あは…あはは…ふふ。そりゃあ…秀才魔女様だから…ね」
六つの虹の光が、楔としてレックスへと纏わりつく。
「あ…」
光はやがて楔に。楔は鎖として。肉体も、呪いもすべてを封じる。
「…フィーナ、お前と話せてよかった」
「わた…わたし…も…」
嗚咽を漏らしながらも、詠唱は止まらない。そうして描かれた魔法陣が最後にレックスへ刻まれることで完成する。
「…悪かったな……それと、ありがとう。終わりを……くれて」
不死王が礼を述べたと同時、最後に魔術の名を…告げる。
「開け、『封印虹陣』」
大地をも揺らすほどの大量の鎖。二度と現世へ戻れないようにするためのそれらがレックスを縛り…ついぞ姿さえも見えなくなる。
「…皆…私…」
魔術が発動したことに安堵し力が抜けた。今度こそ本当にもう…何もない。
私は落ちる瞼に合わせて意識を手放した。
* * *
最期、本来ならば最期だった最初の死。その意識が飛ぶ寸前に私は聞いた。
「あぁ…ダメだな。どうやら俺も、お前に死んでほしくない、みたいだ」
呪いを司りし王の言葉。それすらも呪いとなる。
だから……フィーナへ、不死の呪いが刻まれた。
……それは『呪い』と言うべきなのか、はたまた……別の、知らなかったものなのだろうか?
* * *
* * *
* * *
申し開き……ね。考えてみたものの……それらしい理由は1つしか無いだろう。
「強いて言うなら、私と……彼は……似たもの同士、だったんだよ。きっと世界に一人と居ない、ね」
「……よく分からんな」
「分からなくていいよ」
分かって欲しくもない。知られたくないし。
私の答えに納得いってないようでヴァルネシアは問を続ける。
「ならば─────もし仮に、俺が此奴の魂を消すと言えばお前は」
「1000年前の惨劇を繰り返したいのかなぁ?」
穏便な物言いであるものの……内心ブチ切れそうになった。
危ない危ない。でも……言うところは言ってかなきゃ……何もかもを取られるなんてごめんだから。
「……っは、はは!そうかそうか!……分かった!良いだろう…」
「何急に笑って……気持ち悪い」
「なんと言われようが意見は曲げぬのだな?」
「……そうだね。これだけは……絶対」
「そうか、ならば……現時点を持って、判決を出そう」
その宣言と共に、私の居た台座がゴゴゴと上へ上がり、ヴァルネシアと視線が合う。
「フィーナ・レインヴェルは世界を脅かす存在として現時刻を持って─────排除する」
「へぇ……?」
手枷が外され代わりに身体の自由が失われた。
「『断罪の剣』」
ヴァルネシアが、何やらオーラそのもので出来た剣を手にした。
あ……やばい、これ……死ぬ?
ゾッとするほどの威圧感を肌で感じ取った。
「この舞台そのものがお前らの言う魔道具であり、ここでの言動によって……お前の罪は確定し罰を与える」
「一応聞くけど……判決は?」
「言ってなかったな……当然、死罪だろう」
「あは……まじかー……」
笑えない。動けないしなにこれなにこれ……
「フィーナ・レインヴェル。英雄としてのそなたは忘れることは無いだろう」
「やばっ─────」
剣が、心臓を貫いた。
* * *
「この断罪の剣は特殊な素材を使っていてな」
口から血が、あふれる。呼吸も…段々しずらくなっていく。死が近づいている。
「我らが同胞の魂…そう呼べばいいんだろうか」
嫌な予感が強まっていく。続きの言葉を聞かずとも、刺された瞬間から聞こえ出した声がそれを示す。
『よくも』
『死ね』
『悪しき王め』
憎悪に満ちた声がずっと頭の中で反響している。
「俺たちが数百年もの間こうして直接動かなかったのは準備をしていたからだ。不死という、理外のものに二度と負けぬために…な」
「かっ…あっ」
「悪いな、魔女。恨んでくれて構わない。お前は…罪人であると同時に英雄であるのだからな」
剣が胸から引き抜かれる。
息苦しさが激しくなり視界が黒に染まっていく。死ぬのだ。これはいつものとは違う、明確に私を…呪いを殺そうとしている。
ダメだ。意識を手放したら……手を伸ばす。何にも触れずただ、空ぶった。
* * *
最期に聞いたのは…バリンと、何かが割れる音だった。
* * *
ついに色彩の魔女を殺した。ヴァルネシアはそれを死んでから数分経っても蘇らないフィーナを見てようやく実感しだした。
500年だ。500年の月日をかけてこの日を待ちわびた。己も、同胞達も…不死王を滅ぼすために果ての国から舞い戻ってきたのだから。
「不死王を滅ぼすためにはフィーナ・レインヴェルか使い魔…どちらかの死が必要だった。だから…仕方のないこと…だ」
歓喜、同時に後悔もある。惜しいことをしたとも思う。彼女は天神族からしても貴重な人材であることに違い無かった。
「…お前はどうなるのだ?」
気付けばカーバンクルから言葉が発せられていない。審判中は余計なことを言わせないために制限していたが今は何もしていない。
何か…おかしい。
契約者であるフィーナが死んだのだから何も不思議なことではない、はずだが…言い表しようのない、直感に等しい違和感を感じ取っていた。
「まぁいいだろう。詳しく調べさせて…」
そう言って踵を返した、その直後のこと。
バリン。と、何かが割れる音が響いた。
「む…なんだ…」
バキリ。バキ、メリ…
それはまるで、器を壊すように。
「なっ…」
ヴァルネシアは目を見張った。
カーバンクルに刻まれていたであろう魔法陣。それが壊れていた。先の音はそれであり…
その魔法陣から、何かが生まれようとしていた。
「させるか!」
何か、と言ったがあのカーバンクルの依り代があれである以上なんとなく察しがついた。だから『断罪の剣』をもってヴァルネシアは斬りかかった。
「あ…誰だ?お前」
「っ…」
素手で、その剣はいとも容易く受け止められる。
違和感は正しかった。1000年前の最悪が今、再現されようとしていた。
─────不死王が、復活した。
封印と復活を同じ話に出来てなんかよき…!




