71話 気が合いそうだ
私たちは…天の世界へと足を踏み入れた。
「ここが…」
人の世の街並みとあまり変わらないもののどこかおかしい。そんな感想を抱いた。
「主、油断なさらぬよう…私が斥候を務めます」
「うん、お願い」
ガルヴァンが先を駆け出す。いつものように。
そうして不死王の居場所を探しながら街を巡って数時間。
上空。少しおかしくなるから上から…そいつは降ってきた。
「っ!姉御!あぶねぇ!」
「…こういう時は…よく来たな、か?」
不敵に笑う…どこからどう見ても普通の男だった。
* * *
「…貴方が…不死王ということでいいのかな?」
「人間か…そうだな。お前らはそう呼んでいる」
「じゃあなんで私たちがここに来たか分かるでしょ」
「…俺を、殺しに、だろう?」
御託はいい。さっさと掛かってこい。と…不死王はクイクイと指を動かし挑発する。
私は一度ベルゼと顔を見合わせた後…決断する。
「じゃあ遠慮なく!」
魔術発動。六大元素精霊複合の現段階で出来る最大の魔術を初手からかましてやる。
「姉御、続けてください!」
言葉通り魔術を練る。そしてその魔術をベルぜが操り放つ。魔力操作が得意な魔族だからこその芸当。
数発…数十発…百。
百にも及ぶ連撃、その中から一つでも有効打があれば…
「もう終わりか?」
「え…」
「っ野郎!」
気づいた時には私の背後に不死王は立っていた。急ぎ振り向いて対応するもこの距離では間に合わな…
「ぐっ……おらぁ!!」
寸でのところでベルゼが割って入り魔力障壁をぶつける。
「姉御には手ぇ出すなや…」
「はっ…面白くもないな」
不死王が、一歩足を踏み出した。瞬間、魔力障壁が粉々に砕け散る。
気づけば不死王は異様な程に邪悪な何かを身に纏っていた。それできっと…壊したのだろう。
「なっ」
「姉御…がそこのガキか。いいぜ…なら…お前からだ」
グイっと腕を引き拳を固めて…
刹那、伸ばした関節を切り刻まれる。
「すまない!遅れた!」
「おせぇよ!何してんだ!」
「…獣人か」
ガルヴァンが、刀を持って構える。対する不死王は腕を再生させながら…余裕綽々の笑みを浮かべた。
「…そうだな、こいつは無しでいいか」
邪悪な何かを止め、不死王は真っ向からガルヴァンと打ち合った。
「っ早いな!」
「どうした!お前の得意だろう?」
魔術を介さない…正確に言えば獣人は無意識で魔術を使っている。が不死王は先の邪悪な何かも使わず、魔術を使っている様子もない。
「…嘘…」
ありえない。脳が理解を拒む。だが目の前の現実は非情で…
『押されている…!』
ガルヴァンは防戦一方で押され続けていた。
「姉御ぉ!!援護を頼む!」
現実逃避したくなる思考を一度打ち切り。ベルゼの声に応えて私も混ざる。
今度は封印魔術だ。これが通用しなければ私ではどうしようも…考えるな。
「『虹の封鎖』」
精霊の補助付きでの封印魔術が不死王へ襲い掛かる。
ガルヴァンとベルゼ、両者の相手をしている中躱すことは困難であり…虹の煌めきを放つ鎖が、不死王を捕えた。
「器用だな!小娘!」
「どうも!!」
あっけなく捕らえられた不死王は抵抗する間もなく…ガルヴァンの牙が、心臓を抉った。
* * *
「……くく…いい、面白いな…今のは…なんだ」
抉られた心臓が埋まりながら、不死王は立ちあがり笑い出す。
「ちっ、やっぱり噂に違えぬ…」
「さっさとやれ!」
ガルヴァンに合わせてベルゼが動いた。
「…お前らにはもう飽きた。俺は今…あの女に興味がある」
「っ待て!」
「二人とも止まって!」
『主!下がるのです!』
「クソ…しくじった…」
不死王が器用にガルヴァンの刀の柄を掴み反対の手でベルゼに触れた。
途端にガルヴァンは吹き飛ばされどこかの壁まで転がり激突。ベルゼの方は…どうしてか力無く、膝から崩れ落ちた。
「何をしたの…今…」
私の目には同じように例の力を放ったように見えた。他に何かするような素振りは見えなかったが…
「そんなことありえるの?」
「考え事なんて…余裕だな」
気付けばすぐ近くまで接近されておりなにこれ気持ち悪い吐き気が…
『主!一旦引きますぞ!』
「まっ」
ハクレイが私のローブを咥え駆け出す。
待ってと言いそうになったが…今そんな余裕はない。だから大人しく私も運ばれることに専念した。
私たちは一瞬にして壊滅に追い込まれたのだ。
* * *
「…はぁ…はぁ…まずい…ね」
『主、お怪我はございませんか』
「なんとか…ただ魔力消費が危ういかも…」
追撃から逃れる際に防御に消費しすぎた。得体の知れない攻撃だったから純粋な魔力をぶつけることで凌いでいたからだろう。
もう少し時間があれば解析なりなんなりやりようはあるのだが…
「かくれんぼか…悪くないな」
すぐ近くまで、不死王は迫ってきている。
証拠に動悸が激しくなり呼吸もしづらいし気分が悪く…
『主!主!しっかりなさって…』
「ここだな?魔力が駄々漏れだ」
『!』
まずい…気付かれた。でも体が思うように動かな…い
『主には触れさせん!!』
ハクレイが咆哮を上げる。瞬間私が使ったものと同じ虹の封鎖が現れ不死王へ…
行かなかった。
不死王のすぐ近くまで行った途端、それらは力なく地に落ちた。
『なにっ』
「へぇ…お前も面白いな。殺さないでおいてやるよ」
次の抵抗は許されることなかった。鋭い貫手がハクレイを襲う。先に私が居るため躱すことのできなかったようだ。
「あな…た…ぜったい…」
「少し話そうか」
不死王は…心底楽しそうに、私へと話しかけてくるのだった。
* * *
「案ずるな…お前と…あの獣は生かしている」
「ふざけるな……」
どうにかなると思っていた。だって天才、秀才と呼ばれていて自分的にも自信があったから。
でも実際は目の前の理不尽にあっけなく蹂躙されるだけだった。培った絆も、技術も何もかも関係なく。
全て、弄ぶように。
「…あの紫肌の男はお前を姉御と呼んでいたな。どうだった?」
「…何、急に…っ」
「苦しいか?悪いな。一度受けたものは使っていなくても近づくだけでそうなるらしい」
思わず嗚咽を漏らしそうになったが堪える。この男の前で弱みを見せたくないというせめてもの抵抗だった。
「質問を変えようか…あいつだけじゃないな。あの獣共はお前を主と呼ぶが…どうだ、どこか壁を感じなかったか?」
「そんなの…」
無い、とは言い切れなかった。きっと出会い方が原因なのだろうが日に日に私への扱いがなんだか堅苦しくなっていたのは実感していた。
大事にされているというのは嬉しいものだが壁を感じるのは確かだ。
「はは…そうかそうか…やはりお前は…俺に似ている」
「はぁ!?」
弱っていたはずの身体がそれだけは許さんと機能し声を上げた。
「そう焦るなよ。悪い悪い」
「…何が言いたいの」
「お前とは気が合いそうだからな。お前が死ぬまでの間…少し暇つぶしの相手になってもらおうと思ってな」
あまりにもおかしな言葉に私は歯ぎしりをして…それ以上何も言えなかった。
「今すぐ死んでやってもいいけど?」
「強がるなよ。まずは…そうだ、名乗りだな」
不死王は自身の服を少しちぎると魔術で文字を書き、私へ見せつけた。
「俺はレックス…そうだな、不死王にちなんでペルペトゥス・レックスだ」
そう名乗る男はどこか…何かを求めているような、満たされていない顔だった。
だからだろうか、私の口は…自分の名をぼそっと、呟く。
「フィーナ」
端的に、それだけを。
ただ充分だったようで……不死王、レックスはニヤリと笑みを浮かべたのだった。




