70話 旅の記憶
1度、映像がプツリと真っ暗に切り替わる。
「さてどうかな?」
「どうって言われても……何が聞きたいの?」
「……わざとか知らずかは置いておこう。さっさと進めようじゃないか」
ギクリ。正直この状況にイライラしてたからちょっと回答遅れさせようとしたらこれだよ。手枷が反応しなくて良かったぁ…
「俺が問うのはこれだけの罪を犯したその男を、魂とは言えど生かし続けていることについてだ」
「……」
「何か申し開きはあるか?」
フィーナは問いに対し今一度レックスの過去を噛みしめる。
そうして想起するのは自身の見てきたレックスという男とのほんの僅かな時間での関わり。
目を瞑り、それを反芻した。
* * *
* * *
* * *
始まりは、今なお続くアウレリア帝国だった。この時私は齢15。
多少、ほんの少し皆よりも才があってか王国出身でありながら帝国中に名前の知れた一人であった。
「だーかーら!全部私に任せろって言ってんの!」
「しかし…」
「あのね!今は不死王がどういう理屈か侵攻を止めてる!今のうちにこっちから戦力を整えて攻めた方がいいでしょう?」
「だが…」
「しかしとかだがじゃない!今更躊躇ってどうするの?言っとくけど不死王がまた動き出して危ないのはこの帝国、もっと言えば貴方でしょ!死にたいの?」
「…分かった、路銀を出す。それと…もう其方の好きにしてくれ」
「やった!ありがとね、帝王様!」
ぶっちゃけたことを言うと不死王を討ちたいという純粋な理由だけでなく研究費が欲しかったという不純極まりない理由もあったが、私は不死王討伐に名乗りを上げ、仲間を集める旅へと出た。
* * *
「誰に口きいてんだぁ?小娘」
「わぁ、実力主義だとこうも舐められるんだね。私」
魔族の王、魔王に会うまではよかったもののこの時の魔族は全く統率が取れていない、ただただ一番強いやつが魔王と呼ばれていた。
「…じゃあ私もここの流儀に則って……ひれ伏し力を寄こしなさい。愚図」
最後だけ、ここいらの地域に合わせた方言というやつで述べてやると……あら不思議青筋が浮かび上がってる。
「ぶち殺すぞクソガキィ!!」
「ふふ、その威勢…いいね」
ふっと笑みを浮かべて私は容赦なく返り討ちにしてやった。
* * *
「聖獣様の御前だぞ。図が高い」
「はいはい…なにこれ」
「姉御、聖獣様は獣人族にとっての魔王のような存在です。仕方ありません」
純白の毛並みをした虎へと頭を下げる。どうしてこうなったかは知らないが魔族ほど話が通じないわけじゃなさそう…
「膝まづけぃ!!!」
「…え?」
いや頭下げたじゃん。よく見たらベルゼリウスはしれっと膝まづくまでしてるし…
「不敬だ!今すぐ出ていけ!!」
「そうは…行かないんだよねー」
どうして毎回こうなるのか不思議でならなかったが…最も得意とする分野だ。
複数の獣人に囲まれながらも笑みを絶やさず…杖を握りしめる。
「これは少し、ヒリつくかも…」
危ない所だった。魔族とは違い正々堂々ではなく数の暴力で、しかも統率が取れていて魔術よりも身体能力で押してくる。
でもまぁ…頭を使った戦法に手も足も出なかったようでギリギリで勝ち切ることが出来た。
その上何故か聖獣様に気に入ってもらったらしく旅のお供に…ほんとに、なんで?
* * *
仲間と共に私は『不死王』が居座っているとされる『天空』を目指した。
『不死王』の濃い魔力の残滓を追うことが出来てそこまではわかったものの道のりは過酷だった。
それもそのはず。不死王は文字通り『不死』なのだ。多少無茶な環境でも進むことが出来る。死を前提として。
でも人族も、魔族も、獣人族もそうはいけない。だから慎重に、策を練りつつ旅路を歩んだ。
…………
ある時は嵐の止まぬ山岳地帯を駆け回った。
「やばいやばいやばいやばい!!髪が!」
「姉御!飛ばされないようしがみついててくだせぇ!」
「こう!?これでいい!?」
「……姉御の柔肌が」
「殴られたい!?」
「二人とも何をしておる!急ぐぞ!」
『吾輩に掴まれ!主!』
皆でびしょ濡れになった。でも…温もるために焚火を囲うのは悪くなかった。
…………
ある時は不安で眠れなくなった。
「…ベルゼ、いるよね」
「はい、ここに」
「ガルとハクレイは…?」
「見張りを。皆居なくなりませんから、どうぞお休みください」
「うん…」
そんなくだりを数時間。ベルぜは呆れもせず付き合ってくれてようやく眠ることができた。
…………
ある時は吹雪荒れる氷道を滑り歩いた。
「さっむい…死ぬ…」
「俺も寒いのは…苦手…です」
「二人ともしっかり!眠れば死ぬぞ!」
『主…寒いなら吾輩に』
「失礼!」
ハクレイはとっても暖かかった。ついでに抱きしめたガルも。
獣人族を一瞬ペットにしたくなったが怒られそうだったので口にはしなかった。
…………
ある時は…ガルヴァンが発情期で危うかった。
「に、逃げてください…!主…」
「そんなに息荒くしながら掴まれると逃げれないけど!?」
「姉御あぶねぇ!お前!何してんだ!」
「クソっこの阿保理性がああああああ!!!!」
『…この馬鹿の頭を冷やしてくる…申し訳ない』
「わ…ありがとー…」
パーティ崩壊をハクレイのおかげで免れた。感謝してもしきれない。
というかこの時に発情期体感してたんじゃん…なんでヴォルフで二の舞食らってんの私…
…………
ある時は灼熱を帯びた岩石を噴出する地下洞窟を。
「ひぃ!今プシャって!姉御!」
「出来るだけ端っこ歩きなよ…あつ」
「姉御、薄着でそれはあんまり…」
「…仕方ないでしょ。あんま見るな」
「二人とも…俺のことはいい。聖獣様だけは…」
『…吾輩が背負う。構わず進んでくれ』
獣人族は暑さに弱いらしく中々足止めを食らった。
薄着でいると目線を感じてしょうがなかったからいつの間にかローブを着て魔術で涼しくするようになってた。
今にして思えば多分無防備さに心配されてたんだと思う。
…………
そしてある時は…酒場で、私の誕生日を祝ってもらった。
「姉御!」
「主!」
『主よ』
「「『誕生日おめでとう!』」」
「わ、ありがとう!」
「姉御の誕生日にこうして祝うのも何回目だ?」
「まだ二回目だよ…やっと成人したばっかり」
「人族の命は短いですからな。一年を大切に」
「分かってるよ…皆といるのは楽しいから、余計にだね」
『先を思うと寂しいものです…』
「今を見てよ今を。どう?私随分と成長したでしょう?」
『人の子は成長が早いですね』
「ふふん」
この時人生で初めてお酒飲んで…ちょっと一悶着あったらしい。よく覚えてないけど。
* * *
何度命の危険があったか分からない。それでも辛いだけじゃない、楽しくもある旅路だった。
この時の私は不死王はバカだと思っていた。こんな旅路をたった一人で進んだんだと思うと…私なら寂しくて死にたくなる。
いや…違う。不死王は…死にたくても死を選べないのかも?
まだ、楽しそうな感じですね。まだ。
過去族長ズはめんどいんで紹介無しです(あっ)




