69話 不死王朝
その男……名をレックス。そう呼ばれていた男は貧しい寒村に生を受けた。
毎年のように病が流行り、次から次へと人々が死にゆく村では…レックスのような病弱な男は邪魔な存在だった。
「今年も蓄えは残り僅か…」
ある時から両親のレックスを見る目が変わった。
年齢にして15歳。普通なら働き出す歳だが先も述べたように病弱で、とてもじゃないが働き手にはならない。
自身も日に日にやつれていく中よくこの歳まで生き延びたものだと思っていた。
が……それもその日まで。とうとう両親は堪えられなくなったらしい。
「出て行ってくれ。……いや、無理だな……悪いが……死んでくれないか」
最低最悪の頼みだろう。この村においては……珍しいことでもない。
使えぬ者には生きる価値も無かったのだから。
男は……泣いた。自身の無力さに。自分を産んだ両親にそんな選択をさせたことに。
そしてそのまま──────初めての『死』を体感した。
* * *
寒い……身体を起こせば異様な冷たさと胸元の違和感があった。
「……?」
自分は死んだはずだと、レックスはそう思った。
「っ……ゲホッ……ぅっ!?」
声を出そうとすると喉になにかが詰まったようで上手く言葉にならなかった。
自分は声を出すことすらまともに出来なくなったのかと……喉、そして違和感のあった胸元へ目をやり…
それを見た。
全くもって傷の無くなった剥き出しの肉体を。
「なんで?」
疑問、同時に納得。
なぜ生きているのか、なぜ死んでいないのか……分からなかった。
ただこの寒さは服も何もかもが無くなっており天候の具合が悪かったからだ。
男は雪の中、遺体として捨てられていたのだ。
「は……はは……」
これからどうすればいいんだろうか。何も分からない。
レックスは何もかもが分からぬまま、それでも本能の赴くままに歩き出した。
* * *
やがて時は巡り、レックスは自身の肉体が治り今なお鼓動を続けている原因は『魔術』であると、推測を立てた。
様々な地域を周り、様々な人と話し関わって出た結論がそれだった。
レックスが昔住んでいた村では到底学ぶこともできない、貴族たちの技術だ。
「これは……使える」
いつかきっと、村に戻ることがあれば……この力で皆を助けよう。
そのために独学で、学んだ。学び始めた。
外を知らなかったレックスはそれが罪に値するとも知らず。
* * *
「捕らえろ!」
レックスが魔術を学んでいたある日、国直属の兵士らしき者に捕まった。
その時にこの国では貴族以外が魔術を学ぶことが禁止されているのを初めて知った。
「ここで反省するんだな。最も……外に出られるかも分からんがな」
レックスはしばらくの間、冷たい牢獄の中で過ごすことになった。
あの寒村を思い出し……少し複雑な気分であった。
「俺は……こんなことをしている場合ではない」
何日時間が経ったのかは分からない。だが苛立ちを覚えるぐらいには経っているらしい。
レックスはどうにか外へ出る方法を考え出した。
「やはり、魔術か」
1番簡単であろうその方法。試す価値はある。
レックスは牢獄の中で、再び魔術の研鑽を始めた。
…………
……………………
………………………………
数度の死を迎える程の時間が経った頃。ようやくレックスは外へと出た。
「なっ……お前!なぜ生きてっ」
「うるせぇ…」
騒ごうとした兵士を一撃で屠る。試し打ちついでだ。
相手方もレックスを殺すつもりだったのなら……抵抗してもいいだろう。
「ギャンギャンギャンギャン……騒ぐんじゃねぇ……頭が、痛い」
声が耳に残る。過酷な環境にいた事のストレスが加速していく。
それはやがて─────関係の無いものにも向いていく。
* * *
○月✕日 ムルニカ法国中央都市ムルニカにて大量虐殺。犯人は未だ逃亡中。
○月△日 ムルニカ法国王族が何者かに惨殺。近衛兵、従者諸共無差別であると予想される。犯人は数日前の者と同一に思われる。
* * *
初めて─────人を殺した。
培った技術で、思うままに理想を現実に変えた。
これが魔術なのだと、ようやく本質を掴んだような気もした。
名前は知らなかったその魔術は『生命力』という生きる上でのエネルギーそのものを司る力だ。
そして……気付き始めたことがもう1つ。
この魔術で生き返ったのではなく生き返ったことでこの魔術を得たということ。
つまるところレックスが不死身になったのは魔術ではない『何か』のせいなのだと。
* * *
一国の王族を滅ぼした。
いつまで経っても狙われ続けるのが面倒だった。それに覚えた力を試したかったというのもある。
「ははっ!ははっ……!ははははは!!!」
その過程を経て……レックスは理解した。自身の力の絶対性を。
だって、死なないのだ。
おかしいじゃないか。そもそもとして土俵から違う。
その上で相手を貪る力……言うなればこれは『呪い』と言うべきじゃないだろうか。
レックスの意思関係なく力は働き続けている。その領域にまで至った。
「……あぁ……楽しいなぁ」
きっと魔術師になりうる者には本能的に備わっているその感覚。
─────もっと学びたい。
─────もっと欲しい。
もっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっと
─────もっと。
何も無かったレックスは今、全てを得る為の力を手にしたのだ。
ならば……求めよう。
「全部、貰う。全部だ……国も、天も地も。全部……」
今ここに─────絶対支配の王たらん。
* * *
世界は加速した。
たった一人の男に国が盗られたのだから当然とも言える。
その男は一国に止まることなく各国へと侵攻を始めた。
たったの3年。それだけの年月で世界中を震撼させるほどに、侵略を進めていき……レックスはやがて呟く。
「……飽きたな」
それもそのはず。誰しも勝ちの決まっている勝負を何度も続ければいずれはそれを『作業』としか思えなくなる。
魔術……というよりも、この『呪い』の力の扱いにも大分慣れたからだろう。
何度も何度も人を、同じ姿形をしているだけの『それ』等を殺してきたからだろう。
もう……飽きた。
だからってもうやめることはできない。行くところまで行かねばこれは終わらせることが出来ない。
だからレックスは……『天空』を目指した。
* * *
複数の文献でそれが実在することをレックスは確信していた。
そして数十年の時をかけようやく……『天空』へと、足を踏み入れた。
* * *
「へぇ……ここが……」
興味深い場所だった。
人の世界とはまた違うが似てもいる。最も違う点は……やはり、住まうもの達。
東には、龍人族が。西から中央に掛けて天神族と呼ばれるもの達が住まう世界。
「オマエ……ダレだ?」
龍のような角、尾、翼を携えた者。そいつがある時レックスに話し掛けた。
「あぁ……そうだな……俺は……『不死王』、そう呼ばれている」
この時既に『不死王』という名は人の世界では知れ渡っていた。だが天の世界までは……
だからだろう。急に敵意を見せつけてきたのは。
知らない言葉、知らない姿に警戒した龍人の1人がレックスへ襲いかかった。
…………
……………………
…………………………………………
圧倒的だった。それしか言い表しようのなかった。
1人目は手こずった。数度の死を経験した。
そもそもとして龍人というのが人の範疇で考えるのが違うのだとこの時に知った。
人を遥かに凌駕する身体能力。魔術に対する耐性をもつ肉体。どれを取っても普通の人間ならば相手にもならないだろう。
─────普通の人間ならば。
暴力的に、快楽のまま龍人族そのものを滅ぼす勢いで制圧した。
「は─────面白いな……次だ」
龍人は味わった。充分、満たされる甘美な果実達だった。
それでも止まらぬと決めたのだ。だから─────
* * *
天神族は手強かった。龍人共とはまた違っていて……それでいて、深い。
まず……これは人と同じ、統率の取れた『軍』があった。龍人はどちらかと言えば獣に近かったがその点天神族は知能が高い。
次に見知らぬ力。魔術でもない、人の理を外れた理不尽な力だ。
死んだ数は百はくだらないだろう。
それでも……例えどんな力があろうと、理不尽であろうと、関係の無い話だ。
理不尽にはもっと大きな理不尽を。
無限に続く命を持ってレックスは天神族さえも殲滅に至った。
ようやく全てが終わった『不死王』、その男は再度、人の世界を制圧した時のように呟いた。
「思ったより、つまらん」
そう、一言。あの時と同じように。
〜キャラ設定紹介〜
ペルペトゥス・レックス(男)
不死王。かつてはレックスのみの名だったが永遠の意味を込めてペルペトゥスという名を使うように。
最恐最悪の侵略者。




