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64話 魔女の語り合い

「お姉様、これはどうしたら─────」


気付けば私の呼び方は「お姉ちゃん」から「お姉様」に変わっていた。アルベルトの教育の賜物だろう。



「お姉様はなぜお父様とお知り合いに?」


私には特段興味があったらしくよく魔術関係ない質問をされていた。魔術ばかりを極めていた私からしたら新鮮で、それでいて楽しい時間だった。



そして─────転換期は…ここだったと思う。


「お姉様はなぜ、死なないのですか?」


私は何も答えなかった。答えれなかった。この時、自身が無事であることには慣れてきたものの経緯や何やらを聞かれるのは嫌だったから。


だが、その態度が彼女の興味をもっと引いてしまった。


「私は羨ましいです。もっともっと、お姉様とずっと─────」


羨望の眼差し。それを見て見ぬふりしていた。


今でも後悔している。それが…過ちの始まりだったのだから。



 * * *



それは…アルベルトの功績が認められ、地位と家名を貰ったぐらいの頃だっただろうか。

アルベルトも既に40、ヴィレアは18歳ほどにもなった。そんな、時にだ。


「…嘘…嘘でしょ?もう1回…」


「─────ヴィレアが禁忌に触れたため追放されたと、魔術学院から連絡がありました」


「なんでっ…」


魔術界における3つの禁忌。


『精神干渉魔術』『空間転移魔術』…そして『生命魔術』


技術として存在はするものの使い手はほぼいないものである。その内の一つをヴィレアは…


ありえないと思った。だってあれはただの一学生に学び実現できるようなものじゃないから。


信じたくないと願った。あのヴィレアが…そんなことをするはずないと。


でも…アルベルトの次の言葉で、信じざる終えなかった。


「ヴィレアが犯したのは『生命』。…最も重いとされているものです」


あぁ…やっぱりそうなんだと、どこか納得してしまう。あの時の言葉が…最後のチャンスだったのだと今知った。


「更に言えば既に発見者である教師を殺害未遂…および逃亡中である…と」


「…そう」


そう言い述べたアルベルトの顔にも複雑な感情が露になっていた。拳を握りしめ…何かに耐えるように、ただそれもどこにぶつければいいのかといった様子で。


「私は本件の解決に動くつもりです…まだ、『生命魔術』を使いこなせていないうちに」


「………」


私はどうしたらいいんだろう。アルベルトは決して協力してほしいとは言わなかった。全ての責任は自分にあるのだと、その目が訴えている。


─────そうじゃなかっただろう。お前は…あの時の野望は、どうなる?


「アルベルト…」


「すみません師匠…リアレをよろしくお願いします。それでは…」


止めることも、何も出来なかった。ただ空虚に手を伸ばし引っ込め、そのまま俯くままで。



 * * *



これは後の記録だ。



アルベルトはヴィアレを見つけることも出来なかった。


誰も、目撃情報も何も無かった。しらみつぶしに探し回ったのに…忽然と。


最初に襲ったとされる教師もいつの間にか傷が治っていたそうでこれはヴィレアの行いだと思われる。


そのことからヴィアレが『生命魔術』を完全に扱えていると判断。重要参考人として『再命の魔女』という罪人の名を国内に流布した。


また、本件をもってヴィレアの師であるアルベルト・ヴィンセントも消息を絶っている。



 * * *


 * * *


 * * *



「私はあの後のアルベルトがどうなったか知っている」


「…へぇ」


「アルベルトは…自分が使い古した机につっ伏してそのまま命を絶ったの。この世界に、禁忌を犯した魔女を生み出してしまった責任を取るためにね」


遺言状もあった。私と…きっと見てもらえればという程度で書いただろうヴィレア宛ての。


「そこまで知ってたのに、お姉さまは私をどうこうしようと思わなかったの?」


「…それがアルベルトの望みじゃないのは知ってたからね」


今でも思う…この子は…この少女は、なぜあの後ずっと逃げ続けたのか。

誰かを害したわけじゃない。でも禁忌を犯した。悪いことをしたのは分かっているのだろう。


そして、私も。私はヴィレアという少女が分からなくなって逃げていたのだ。


でも今、話していて分かったことがある。ヴィレアも…もうどうすればいいのか分からないのだと。


「なんで『生命魔術』を研究したの?」


「それは、お姉さまならお分かりでしょう?」


分かっている。これは憧れという感情だ。私も知っている。だがその憧れのせいで誰かに…アルベルトに迷惑が掛かってしまうと思わなかったのか…


思いはしただろう。でも…止められなかったのだろう。私が見てきた魔術師で才能のあるやつはどこか枷が外れている奴が多かった。


「私はお姉さまも…お父様も大好きです」


「…そっか」


あぁ…話せば分かると思っていたが駄目なようだ。蚊帳の外になっていたルヴィアへと視線をやる。


「そっちの判断は任せるから…逃げて!」


これからどうするのか、私はもうこの子にはあまり干渉したくない。アルベルトの死に顔を思い出すから。

でも今は…会いに来てしまったのだから、その役目は果たそう。


「まずは邪魔者から…消しましょう」


ヴィレアの魔力が膨れ上がる。それが開戦の合図だった。



 * * *



『生命魔術』。端的に言えば生命そのものを自在に操る魔術。


言葉にしてみれば簡単だが実際にやるならまず思うのが…「どうやって?」だ。


「うふ…久しぶりですね…お姉さまと模擬戦をするのは」


「模擬戦の規模じゃないって…!」


ヴィレアの落とした「種」が芽を出しそのまま意志をもったように成長して私に襲い掛かった。


「『イフリート』」


命を得た木々を容赦なく燃やし尽くす。…対処は簡単だ。それぐらいヴィレアも分かっている。


「流石です…!お姉さま」


「思って無いでしょ」


ヴィレアもこれぐらいならきっと…いや、断言できる。やれるはずだと。300年以上研鑽を積んでいるのだから。


「全部全部…ぶつけて、それで諦めて…とは言わない。ただ…うぅん、私はヴィレアにどうしてほしいんだろうね」


─────死んでほしい?死んでほしくない。妹のような存在だった。罪人となっても変わらない。


─────捕まって何も出来なくなってほしい?それは違うだろう。彼女は誰も殺しちゃ…いや、一人…


「ふふ…私にもようやく転機が訪れたのです!あの日あの時…お父様が死んだ、あの日に止まった時が!動き出す時が!」


更に生命力が強く、強く、あふれ出す。今度は種を媒介しない。周囲のものに乱雑に生命力を与えヴィレアのものとして操る。


「うわっ…」


「まずは1つ…頂きます」


木でできた家の中だ。どこからでもヴィレアは何かを操り攻撃に変え─────


喉に連なった木の枝が突き刺さり、意識が落ちる。




「げほっ……いった…」


一瞬息が詰まるような感じがした。でももう…治っている。


「…あぁ…やはりお姉様には…劣るのですね」


「分かっていることでしょ…300年も生きて、調べなかったわけがないんだから…」


私の不死身の原理を…その経緯を。


私とヴィレアは似て非なるものだ。


「分からせてあげる…ヴィレアが、諦めるまで」


今は目の前に集中しろ。ただの…魔術戦として、格差を見せつけてしまえばいい。


「いいですね…お姉様は…やはり…最高です…『生命神秘(ライフ・リロール)』」


「『凍てつく吹雪(ブリザード)』『シルフ・ゼピュロス』」


私も、魔女なのだから。



 * * *



直撃─────刹那、元に戻っている。


殺意に当てられ真っ暗闇に。瞬きの間に蘇る。



いたちごっこ、されど活路は最初から見えている。


先程も述べたが私の『不死』とヴィレアの『不死』は全くの別物だ。


私は『呪い』であり際限がない。対しヴィレアは魔術。色々と節約する術はあるだろうが…いずれ魔力切れを起こすはずなのだ。



今度は粒子レベルで粉々になるように押し潰す。


…どこからか蘇っていた。声は背後から聞こえて…



私も頭を飛ばされた。めちゃくちゃだし…躊躇もない。これが本当に姉と呼ぶ相手に対する行動だろうか。



「寧ろ信用から来るって…?そうだとしても…おかしいよ、ヴィレア」


「あはっ…そうですね!…私ももう…よく分からないんです!教えてください!」


純粋な魔術の応戦。四方八方から放たれる生命力の塊を精霊達の魔術で抑え切る。


魔力探知を張り巡らせ攻撃の起こりを見ているものの反応するのは『生命魔術』を付与する一瞬のみ。その後は『生命力』によって操られているのだと…理解した。


何度も食らって。


「…ひとつ聞きたいことがあったんだよね」


ようやくこの駆け引きに慣れてきた頃合。私は呟く。


「何でしょう?」


ヴィレアも手は止めずに応える。


「…どうして、アルベルトに『生命魔術』を使わなかったの?」


「っ…!」


それを聞かれたヴィレアの顔は…焦りと困惑…そして慟哭が見えた。


「やっぱり…出来ない訳じゃないんだ?」


なんとなく…ヴィレアの内心が見えてきた。

〜キャラ設定紹介〜

ヴィレア・ヴィンセント(女 300↑)

『生命魔術』を会得し『魔女』になった少女。



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