63話 ヴィレア・ヴィンセント
ルヴィアを連れて私はある郊外にそびえたつ一軒家にやってきた。
今回はエマもミツハもお留守番だ。…正直、安全を保証出来ないからね。
「ここは…?」
「私の弟子…の家だったところ」
「今は違うってことね。差し当たりこんな辺境の地に建っているのだし買い手が付かなかったってところ?」
正解。ただ堂々と言うのはやめてほしいなぁ…あいつ、頑張って貯金して建てたんだからさ。
「アルベルト・ヴィンセントの家だよ」
「…はい?」
信じられない、とでも言いたげな様子だ。何せ彼は住所登録を研究施設にして自分の身内に影響がないようにしてたからね。
世には知れ渡っていない情報なのだ。
「つまりあなたの弟子の一人が…」
「そういうこと。ここまで話が分かるなら…アルベルトが死んだ理由も覚えてるよね?」
「まさか…」
「うん、きっとね」
居るのだ。ずっと…ここに、彼女は。
「じゃ、そういうことだから先に行って」
「なっ」
「拒否権は無いよ。早く」
前と後ろ、両方からの圧。意を決したようにルヴィアは一歩前に出て…その戸をノックした。
コンコン…
木の扉をたたく音が響く。緊張が走る中…しばらく待っていると…
キィィィ…と、錆びた鉄金具の音を鳴らしながら扉が開いた。
「…え?」
ルヴィアは素っ頓狂な声を上げる。それもそのはず…扉の先に、誰も居なかったのだから。
「入っていいって。行こうか」
「ちょっと…」
背中をグイグイと押すと観念したようで先へ進みだす。
「…普通ね」
「そりゃあね」
家の中は思っていたよりも整備が行き届いていた。それと…誰かが住んでいる痕跡らしきものも、見つかった。それ以外はただの民家と何ら変わりない。
「確かあの子の部屋は…二階の、一番奥だったかな」
そう言うとルヴィアは階段に足を踏み入れ…止まった。そして違和感を訴えるような顔で振り返る。
「この階段…魔術で作り変えてる?」
私も見てみる。
…確かに、微弱だけど魔力反応があるね。
「当然っちゃ当然か…もう300年以上は経っているわけだし」
「300…」
途方もないと感じる年月、私からしても長い。そんな時の中…彼女は…
「どうしていたんだろう…」
あの日あの時から、私は彼女を遠ざけることにした。それが彼女にとっても私にとっても最善だと思っていたから。
「ここよね?」
二階、一番奥。先の宣言通りの部屋。
「…開けるわ」
「あ…ノックした方が…」
「えっ」
まずった…彼女はそういう細かいところを気にする。
ルヴィアでは反応は間に合わなかっただろう。扉を貫通した『成長した木の枝』を私は咄嗟に防御魔術で防いだ。
「あらあらあら……誰かと思えば……」
今度こそは部屋の奥から声が聞こえ、人影が現れた。
「お姉さま…じゃないですかぁ」
「はぁ……思ってたよりは元気そうだね」
薄緑の長い髪…私によく似た魔女帽とローブを上品に羽織った少女。
「あれが…」
「大人しくしといたほうが身のためだよ」
彼女こそ、『命再の魔女』にして私の孫弟子にあたる…
ヴィレア・ヴィンセントという魔女だ。
* * *
* * *
* * *
ヴィレア・ヴィンセント。初めて会った時はただヴィレアで…アルベルトの弟子であり娘だった。
「…内戦で私の弟が亡くなり追うように妻も……そのため、私達で引き取ることになったのです」
「そうなんだ。…君、名前は?」
「お姉ちゃん、誰?」
…初めて言われた言葉はこれだしなんならめちゃくちゃ警戒されてた。
ジトリとアルベルトの足にしがみつき隠れて睨まれたもんで未だ記憶に残っている。
「…私はフィーナ」
「ふぃーな?」
「うん。呼びにくかったらお姉ちゃんでいいから…これからちょくちょく顔を合わせることになるだろうし」
視線を合わせて名前を言えばようやく話を聞いてくれた。
今思えば警戒されたのも無理はなかったのだと思う。だってヴィレアはまだ10にも満たない子供で、その上周りの信頼出来る人が急に居なくなったのだから。
「…お姉ちゃん」
「何?」
「ばぁっ」
「へっ」
顔面に思い切り火属性の魔術を貰った。
…しばらく理由を考えるもわけが分からずそのまま再生が終わる。
「…ダメだろう、ヴィレア。それは安易に人に向けちゃいけないんだ」
「あんい?」
「…簡単ににという意味だ」
フリーズした私を尻目にアルベルトが優しく注意する。…子供に対しての注意にしては厳しいのかもしれないが、それはさておき…なんで?
「魔術、使えるの?」
急に炙られた事はこの際許そう。それよりもそこが気になる。
「…はい。日中何もせず過ごしてしまっているようでして…リアレも最近は忙しいですから。ですので私が相手がてら…教えてみたのですが…」
「ほう…アルベルトがね…」
「…ご不満でしたか?」
いや…寧ろいいね。何せこの歳から研鑽を積んでいけばアルベルトを超えるのだって夢じゃない。
何よりも子供の時からやらせたほうが飲み込みが早いというのはどの分野においてもそうなのだ。
「私も偶に見てあげる…というか日中の面倒は見ておくよ…アルベルトも、まだ夢の途中でしょ?」
私の言葉にアルベルトは目を見張り…やがて深々と頭を下げた。
「ありがとうございます…!師匠…」
「いいっていいって…代わりにこの子の魔術教育を手伝わせて欲しいな。」
魔力量が成長に関係あるのかとか調べたいし…
純粋な興味からだから私もそこまで負担じゃない。
「この子…えーっと、名前なんて言うんだっけ」
「ヴぃれあ」
「ヴィレア、です師匠」
「…ヴィレアね…ヴィレア…うん、覚えた」
いつも通りの日常に加わった変化。その時はまだそれぐらいの認識で、まさかアルベルトを超え、私にすら及ぶ存在になるとは思ってもいなかった。
* * *
それから2週間。ほぼ毎日のように私はアルベルト宅を訪れ、ヴィレアの相手をしていた。
「じゃーん」
「じゃーん?」
私の差し出した本に、ヴィレアは首を傾げた。
これはとっておきだ。ふふふ…きっと喜ぶ…よね?
「こっちが魔力回路理論の話で、こっちが精霊理論の話。どっちがいい?」
「…?」
「師匠、それはまだ早いと思います…」
本を選ばせていると研究がひと段落着いたらしいアルベルトが口を挟んできた。
「えー……じゃあ…」
残念だがアルベルトの言葉と反応的に駄目なようだ。
それならばと適当に買ってきた初心者向けの魔導書を取り出す。
「これ?」
「あー…私が書いたやつですか」
「えっ」
初耳である。何せ今さっき買いたてほやほやなのだから。確かに最後のページに「アルベルト」って書いてるじゃん!
「いつの間にこんなの出てたの?言ってくれれば買ったのに」
「…初作で売れ行きが良くなかったのです…寧ろどこで買ってきたんですか…」
言いづらそうに目を逸らして言うアルベルト。
「…そっか、なんかごめん」
「私の力不足故ですから」
「んー…そんなに悪くなさそうだけどねぇ…」
パラパラとページを繰る。ざっと見悪くない、どころか素人向けにしてはいいと思うのだが…
「貴族達は魔術は人の、もっと言えば自分たちのものであるという考えがあるようです」
「あー…ね。なるほど」
そういう風潮と言うべきか。魔術を尊ぶあまりそういう考えが浸透してしまっているのは事実だ。
「えぇ、…なので次は…そちらの方から浸透させようかと画策しています。丁度貴族院の教師から推薦を貰い特別講師にならないかという話が来てるので…」
「へぇ、いいじゃん」
「本当ですか…?師匠はてっきり反対するかと…」
「思想の違いは弊害になりがち。1回現場を経験してみるのは大事なんだよ」
魔術以外にも言えることだ。分からないから知るというのは何事においても通ずるものである。
「あ…それ、ちゃんとリアレに相談した?」
「っ……えー…と…」
「してないんだ?」
「…はい」
全く…出会った頃はまだマシだったのだが私の弟子になってからはこういう普段の生活を若干捨てつつありしょっちゅうリアレに怒られている。
飛び火しないうちに逃げようかなぁ…
「アルベルト、私少しヴィレア連れて散歩してくるね!」
「え…?師匠?」
嫌な寒気がしたためヴィレアと手を繋いで部屋を出る。
「あっ…お邪魔してまーす…」
「フィーナさん、今の話…本当ですか?」
「…らしいよ。詳しくは本人にね!」
あーあ、あれじゃ2日は口聞いてくれないぞ…
「ヴィレアはちゃんと報連相出来るようにね」
「ほうれんそう?」
報告・連絡・相談!大事!
〜キャラ設定紹介〜
ルヴィア(女 詳細不明)
暗殺組織『サイレント・エッジ』の暗殺者。『命再の魔女』とフィーナを間違えた張本人。
ヴィレア(女 7歳)
内戦により親を亡くした為アルベルトが引き取ることになった。




