62話 天賦の才
ドゴォ!!と、扉を蹴破って…薄オレンジ髪の少女は暗殺者─────ルヴィアの前へ、現れた。
「どうも、戻ってきました」
「…詠唱する間も無かったはずよ…」
「さて、なんででしょうね?」
にこりと微笑む少女からは暖かみも何も感じなかった。凍てつくような気配をずっと、張り続けている。
まるで凄腕の暗殺者に出会ったみたいだった。
「貴方、一般人?そうは見えないんだけど?」
「ただの冒険者ですよ」
「んなわけっ…あるか!」
言いながらルヴィアは仕掛ける。正直なところ、二手に別れるところまでは想定内だったものの先手を取られていたのが大きい。
あまりにも、ルヴィアの目には大きく見えてしまった。
ルヴィアの『透明な宝石魔術』が一斉に少女へと襲いかかる。全てに別の魔術を仕掛け、それが連鎖するように仕組んである。
これなら受けるも難しく回避なんて以ての外────
「…宝石魔術?いえ厳密に言えば…元素と硬質化の魔術でしょうか。それによる再現…」
「…は?」
見えている?冗談だろう。これにはかなりの隠蔽術式も、魔力抑制の術式も…
─────そもそもとして、どうしてルヴィア自身見つかっていた?
「私今…絶好調なんですよ」
魔術が着弾する寸前…全ての弾が、フッと力の抜けたように空中から落下した。
ルヴィアはそれを見て…感じて…やがて理解する。
「無理やり主導権を…」
「案外やってみるもんですよね。私も…これは初めてです」
「…バケモノ」
あぁ、分かってしまう。目の前の少女と自身の力量差を。
* * *
頭が軽かった。何をするにも今までにない速度で結論を出せている。
先程の落下もそうだったが…最近の自分は修羅場の経験でより一層研ぎ澄まされてきている。少なくとも一人で冒険者をしていた頃はそうもいかなかった。
やはり根本の理由は…
「師匠のお陰です」
「うぐっ」
不意打ちで背後へ仕掛けられた魔術をそのまま返す。更に繋がるように接近し、至近距離での魔術を叩き込みつつ本命である『精神干渉』を使い出す。
今回は少し趣向を変えてもいいかもしれない。じっくり、ゆっくり、いつの間にか…沈んでいるように。
「近接戦もイケるクチ…」
「別に、そうでも無いですよ。ただ護身術程度は扱えますが…ね!」
それに魔術を上乗せし使う。精霊、封印、精神。全てを織り交ぜ相手の抵抗は容赦なく奪い取る。
一方的な展開だった。
「でも貴方は…魔女じゃない。不死身じゃない…そうでしょう?」
「バレバレですよ」
「ちっ…」
女の仕掛けた魔術を見破り、正確に言えば思考を読み取り、だが細かいことはいい。その上で逆属性の精霊にて破壊する。
常軌を逸している。ありえない。きっと普段のエマもそう思っていた。
でも今は─────ひたすらに心地よかった。
「逃げたらどうです?」
「クソッ…!」
女はエマに背を向け逃げ出した。事実敵わないのだからこれしかやりようがないとも言える。
「まぁ…易々と逃がすわけがないんですがね」
精霊魔術による絨毯爆撃。さらには足元へと封印魔術を放つ。
女は逃げる。ただひたすらに…目の前の恐怖を遠ざける為に。
「……残念です。ここで…終わりみたいですね」
気付けば…エマの前に女は居た。その事実に、誘い込まれたのだとようやく気付くも…もう遅かった。
「『魂夢投影』」
最大限下地を作ったエマの最高峰の魔術。それらが女を完全に捕らえたのだった。
* * *
「あちゃー……やりすぎたかな」
私は現在進行形で燃えている男を退かして、身体を起こす。
うわっ…手首ちぎれかかってる…危なかった
「魔力を扱える人間なら死なない程度にはしたつもりだけど…うーん、しばらく起きないよね」
最悪宿に1人か2人ぐらい連れて行って…あ、ダメだルカの教育に悪いし…ならエマの魔術を使うかな。
そういえばエマは無事なのだろうか。
「一応探しに…お、魔術が…消えたね」
どうやらエマ達が無事やってのけたようだ。良かった良かった。これなら待っていればそのうちここへ戻ってくるはずだ。
「お待たせしました…師匠」
「あ、エマ…おかえ……どうしたの?」
「…?何か顔に付いてますか?」
「いやそうじゃなくて…」
予想通り戻ってきたエマだったが…なんというかいつもよりも雰囲気というか…何が違うんだろ、これ…
「それより師匠、1人連れて来たんですけど…その、道すがら精神干渉魔術で頭を覗いたんです」
「さすがエマ、仕事が早いね」
「はい、ただ…この者らはどうやら『命再の魔女』なる人物を探していたみたいなんですが、心当たりあります?」
・・・
「えっ」
素っ頓狂な声が漏れた。それも仕方あるまい。だって…
予想のひとつであった『勘違い』が起きてしまったようなのだから。
「心当たり、あるんですね?」
「うーん…と、まぁ、うん、どうしよっかな」
思う存分暴れちゃったし…頭が痛くなってきた。
* * *
ひとまずはエマの連れてきた女…名前をルヴィアというらしい。そのルヴィアを起こし事情を話すことに。
「ルヴィアさん、ルヴィアさん…起きてくださーい…」
宿だし深夜なので静かめに、ペチペチと頬を叩く。
何度か繰り返していると…パッと目を覚ましそのまま後ずさった。
「ひぃっ!?」
「あーごめんごめん…何もしないから、うん」
手を挙げ抵抗の意志を見せない。しばらく睨まれたものの私の方へと寄ってきた。
「そ、そいつ!そいつはちょっと…近付けないで、ください」
「…え?」
なんかめっちゃエマビビられてる?何やらかしたんだこの子は…
目線をやっても無言の笑みしか返ってこない。私まで怖くなってきた。
「仕方ありませんね…我が師匠に失礼なきよう…破ればどうなるか、分かりますね?」
必死の形相で人形のように頷く。うーん…襲ってきた人とはいえ…ちょっと可哀想。
「ま、同情はしてあげるけど…許しはしないよ。なんで私を狙ってきたか…喋る気はある?」
「…それは、言えない…」
ふむ…やはり暗殺者ということだ。仕事柄信頼が命なのだ。だから言えないということ。
「そっか…ところでさ、私…フィーナ・レインヴェルって言うんだけど…聞いたことある?」
「……へ?」
つい先刻の私のような間抜けな声が、ルヴィアから発せられた。
「冗談ならやめた方がいい…ですよ?」
「残念。冗談じゃないんだよねぇ…」
なにか証明出来るものもある訳じゃないが…いや、あるにはあるけど街中で大規模魔術は使えないからやっぱなし。
「…こんなのが…?嘘でしょ?じゃあ死んだって…あれ?なんで…?」
「困惑してるところ悪いんだけどね、私が言いたいのは多分君たち勘違いしてるってこと」
「…そう、なんですかね…いや、そうですよね…」
気持ちはわかる。何せ不死身なことには代わりないのだから。
「…どうしよう…レグナ様に…」
「その人が依頼主?」
「あっ…いえ組織のボスです…」
なるほどね…通りであんな大勢…
「また一から探さないと…うぅ…3ヶ月も追いかけてたのに…」
3ヶ月と言うと丁度私が魔族領へ行った頃だろうか。随分前から偵察されていたらしい。
「…ま、信じるか信じないかは…結局君ら次第なのがね…」
そうだ、結局このまま私が本物だと証明できなきゃまた狙われるのかも…そう考えたら厄介だな。今のうちに何とかしたい。
と言ってもなにか手立てが………いや、あるな。1個だけ。
「あのさ、今から君らのターゲットである『命再の魔女』に会わせれるって言ったらどうする?」
「え…?」
その顔はまるで…神の救いを前にした教徒のようだった。
この時のエマはフィーナと同等レベル、どころか大技の質的に勝てる可能性もあるかと思われます。
ブローチ外す演出忘れてたので階段駆け上がってる時に外したんだなって思っといてください汗




