61話 狡猾な暗殺者
─────痛い。頭を撃たれた。銃だろうか。珍しいな……
─────苦しい……首を絞められた。一瞬で仕留める技量、手練だな。
─────魔術?初見だ。透明の魔術に腹を裂かれた。この術式……近代魔術かな、興味深い。
─────純粋な近接戦。ナイフで突き刺してきたり殴打で畳み掛けてくる。1番こういうのが苦手なんだよね……人を殺しておいて化け物を見る目で見ないでくれないかな?
というか急に人が増えたと思ったら…こいつら全員敵ってこと?どんだけ数揃えてきてんのさ…厄介な
* * *
「まずは削る、削って、削って…その先に勝ちの目がある」
男は名をカイゼル。魔女暗殺のために暗躍していた女とは同僚の殺し屋だ。
今回、二度とかかわりたくないとまで言ったあいつに代わっての任務なわけだが…
「ただ…妙だな、仕掛けたやつ全員…殺されてねぇ」
魔女は人とは少し離れてしまった存在であり…今回のは禁忌を侵すような倫理感のおかしなやつが相手だ。そんなやつがこちらの損害を…それどころか民間人に考慮している?
「少し想像とは違ったが…まぁいい。存外簡単に殺せるみたいだしな」
このまま続ければいずれは魔術を扱う魔力が底を尽きるはずだ。その時が…あの女の最期。
「それにしたって…気持ちわりぃ…頭が爆発しても蘇るのか…どういう原理だ?」
それを知ろうにも禁忌だから簡単には知れなかった。ただ魔術であり普通のものと同様魔力を消費して使うということだけは間違いない。
「俺は遠距離から支援…あ?」
なんだ…?今、目が合って…あいつ、笑ってたか?
「『光の鎖界』」
瞬間、それは発動した。明確に、敵意を持った封印魔術だ。生命魔術以外も使えるのかと感心しつつ…迎撃態勢を取る。
「なるほど、手加減してたってことかぁ…?」
次々と近くにいたカイゼルの仲間は光の鎖に縛られ、気絶していく。その様相はまさしく魔女。先ほどまでの少女のような顔はどこかへ消え去ったらしい。
「おっかねぇ…」
「『そうだよね?』」
「っ」
一瞬背後に立たれたのかと思ったが違った。鎖だ。鎖から声を伝播させたのだ。
それが意味することすなわち…
「さすがは魔女…ってわけだな。俺の存在がバレた」
統率をあえて取らなかったり方法を変えていたのだが……そうか、指示を出す際の魔道具の魔力反応か。
「……ならここからは小細工無しだ。正面から…ぶっ殺してやる」
と言いつつ…襲い掛かってきた鎖を逆に捕まえる。そして…口づけを一つ。
「へぇ…いい匂いの味だねぇ…」
なぜか鎖が小刻みに震えたが…どうしてだろうな?
* * *
「キモイキモイキモイ……」
耳元で耳をなめられたような感覚。身震いが止まらなかった。
「……粗方片付いたかな………いった……まだ銃持ちが生きてるのか…」
しれっと死んで生き返る。それをもう10回以上は繰り返しただろうか。
何度やっても無駄だというのに…相手方の狙いが見えない。
「あんな感じのやつだし…情報収集?じゃあ、その先にある目的は?」
考えれば考えるだけよく分からなくなってくる。まさかこの混乱が狙い?そんなわけないか…
「まぁいいや。直接聞きだしちゃえばいいわけだし」
正直あんなことをする輩に会いたくはないがそうしなければ何も始まらないのも事実。
街全体に魔力探知を張り巡らせる。先ほど魔力性質は覚えた。後を追うのは容易で…
「って、なるよな?」
「っ!」
早かった。近接戦に慣れていない私から出た感想はそれだけで
スパン、と首を掻っ切られ血がだらだらと垂れていく。
声が出ず、息を吸おうとしてもハスハスと情けない音が漏れるのみ。
「見つかったならわざわざ隠れる必要もない」
闇へ落ち…
戻るまでおよそ10秒
「…待っててくれたんだね。今のうちに拘束でもなんでもすればいいのに」
「…気味わりぃ…殺しても死なない奴が実在するなんてな」
「あんたが殺しててよく言うよ」
失礼だな。人を化け物扱いして…誰のせいだと思って…
「ま、今のは小手調べだわな。」
「ここからは本気って感じ?」
「あぁ、そうだ…永遠に抜け出せない死のサプライズだよ。永遠を望むあんたにゃ最高だろ?」
誰が好き好んでこの体質になってると……ん?待ってよ…うーん……ありえない訳じゃないけど流石に…
「…まさかね」
相手は人を殺し慣れている。所謂殺し屋というやつだ。そんなのが…間抜けなミスしてないよね?
「なんで私を狙うか知らないけど…とっちめて吐かせてあげる」
「おお、怖い怖い。じゃあま、精々頑張らせて…もらおうか!」
男が何か地に叩きつけ…瞬間、視界が白煙で包まれる。
「煙幕っ」
「ルールはねぇからな!」
胸部一突き…
「あぁもう…ちょこまかと…」
「それが取り柄なもんでね」
背中を深々と切り裂かれ、その勢いで─────
「周囲に意識削ぎすぎだな」
「うぐっ!?」
腹部を蹴られ、体制を崩す。そのままめった刺し。
「こういうのもあるからな。気をつけろよ」
バンバンバン。頭かち割れるかと思った…
「そろそろ限界が近いんじゃねぇか?」
「…そうなるならそれも…悪くはないのかもね」
…限界?あるわけがない。これは魔力や体力じゃない。呪いなのだから。
目の前の少女の魔力が随分減ったようにカイゼルの目には映った。
ようやくチャンス到来…最後にするべくある魔術を仕込んだ一撃を仕掛ける。
足払いで体制を崩し腹部に蹴り。そのままの勢いで乗っかるようにして…ナイフを振り下ろした。
「…あぶな…」
「なっ…」
「『魔力阻害』ね…珍しい。今使える人あんまりいないと思うんだけど」
が、しかし…魔女は寸でのところで顔をずらし、躱していた。と同時、カイゼルの腹部に猛烈な『熱』を感じた。
「残念。ここはすでに小さな結界の中。逃げることもできない。詰みだよ」
逃げるために身を引こうにも何かに押さえつけられる。それが事実だと証明している。即ち…
「お前さんは生き残れる自爆特攻ってか?」
「今なら頭下げて目的を吐くなら許してあげるよ」
「あー………そうだなぁ…やだね」
悪いがこちらは依頼だ。潔く受け入れては信頼に傷がつく。だから
「発動前に切り刻んでやらぁ!」
カイゼルが息巻いて自らの死を覚悟した攻めを始める。しかし現実は非情で…
「頑張って生き延びてよ?出来れば殺したくないし」
カイゼルは全身で爆発を浴び、そのまま力無く倒れた。
* * *
「行きますよっ!ルカさん!ミツハ!」
「はいぃぃ!!」
「んぅぅ…揺れすぎ…何ごと?」
エマは建物を飛び越えながら魔力探知に従って進んでいた。
「ミツハ起きました?今ちょっと急いでるので自分で歩けますか?」
「ほんとに何…?いいけど…」
気怠そうに、エマへと着いていくミツハ。
「どうやら…敵襲、と言うべきでしょうか。恐らくヨウコクで狙ってきていたもの達と思います」
「…あぁ…そういうこと…」
「今、この街の一帯に結界魔術が使われているみたいなのでそれを壊しに行きます。動けますか?」
ミツハはフルフルと首を振る。
「この規模の魔術を使える相手だったら…ちょっと厳しい」
今のミツハは魔術すら使えない、強いて言うなら多少身体能力が高いだけの可愛い存在だ。それ故の判断だろう。
「っ…そうですか、ならルカさんを連れて隠れて貰えますか」
「分かった。行くよ」
「うわぁぁぁぁぁ早いですぅぅぅ!」
エマはミツハなら大丈夫だろうと判断し…先程から感じていた魔力反応へ向けて、乱雑に攻撃魔術を放った。
「様子を伺っていましたね?」
「…最悪っ」
つまるところ…ミツハにビビっていたのだと思う。あれが恐らくは前回…獣人族領に居たと聞いた暗殺者だろうか。
それはつまり…1度敬愛なる師匠を狙ったということで…
「容赦しません」
「可愛い顔が台無しよ?お嬢さんっ…」
女が手のひらを突き出す。すぐさま魔力反応を感じ取り魔術だと判断したエマは防御魔術を構える。
「『爆裂せよ』!」
瞬間、何も無いはずの空中で爆発が起きて─────
「しまっ」
エマはぐらりと体制を崩し、エマの身体は重力に従って落下を始めた。
窮地─────それを前にしてエマの頭はおかしく感じるほどに冷え切っていた。
* * *
本来ならばもっと先…フィーナもここまでたどり着くのに10数年も掛かっている。
ある種のゾーンというべきか。窮地を前にした人が取る選択肢は大体2つ。
逃げる(死ぬ)か殻を破る。大抵はそのどちらかだ。
エマは今…初めて本当の意味で命の危機を感じ取った。
思っているよりも高くないものの今の体制のまま落下すれば死が確実。
「…着地まで3秒…」
それすらも目測で実際はもっと早かったのかもしれない。
エマは1点集中、自身をふわりと包むような感覚をイメージし…魔力を行使した。
…背中に壁を感じる住んでのところで…エマの身体はふわりと、少しだけ浮かび停滞。
使ったのは詠唱破棄。それも…上位の風精霊のもの。
今までは何か…頭が制限を掛けていたようでようやく初めて成功した。ぶっつけ本番にて。
「ふー……理屈では分かっていたものの…消費も抑えられて良いですね、これ」
1度息を整えてからエマは…建物の中へ入り、階段を駆け出した。
「あはっ…これが…師匠が見ている景色…」
楽しくなってきた。これだから魔術は…最高なのだ。
エマの才能の目覚め、なんですけどももう少し追い詰められてから…の方が展開的にはいいのかなと思ったのですがエマ強過ぎて追い詰められないという重要な問題があったので今回みたくなりました。
師匠を狙ったことに対する怒りがいちばんの鍵だったとでも思っといてください




