57話 過去の自分にマジ感謝
「師匠……マジで姫様のこと頼みますね」
「そんな大袈裟じゃなくても…」
「本当に!お願いしますよ!」
ヴォルフに眼前まで迫られ流石の私も頷く。
そんなに心配しなくても……ミツハいい子なんだし、大丈夫だと思うけどなぁ…
「そんなに言うならヴォルフも付いてくればいいのに」
「そうも行かないんですよ…街が復興中の今、手薄にしたくないんです」
「何にそんなにビビってるのさ」
ヴォルフは自らで行かないと宣言した。
私も行くと知ったからだろうが……今そんなに心配することあったっけな。
「師匠、忘れたわけじゃありませんよね?あの時……死んだ時のことを」
「え……?」
「避難民の誘導中です。不意打ちとは言え師匠を殺せる人間などそうそう居ません。」
確かにそっか……でもあの時、明らかに動揺しちゃってたし……無理もないというか、隙だらけではあったと思うんだよね。
それより、殺されたことよりも、その後の対処が私的には気になるし…
「何よりも、これは自分の不甲斐なさ故ですが逃げられています。またいつどこから仕掛けられてもおかしくないのですから…くれぐれもご注意を」
「はいはい……分かったよ」
ヴォルフでさえも捕らえられなかった相手…ね。
「じゃあ……安全に移動した方がいいかな」
警戒するに越したことは無いし…何よりも緊急の呼び出しだ。
久々にあれを使ってみようかなぁ
* * *
ヨウコク、不死王の骨の封印されている更に奥地…その祠。
「師匠…ここは?」
「随分と昔…不死王を討つための協定を結んだときに私が設置したの」
階段を下って…またまた上って、下って。それを何回か繰り返した後またぐねぐねした道を通る。
やがて、広間へ出た。
「……この魔法陣は…」
「『転移魔術』だよ」
エマが隣で息を呑む。まぁそれもそのはずだ。
「…禁術ですよね?一応」
「まぁね、まだ使えそうで良かった」
人の国…およびこの世界の共通の禁術扱いされている魔術。
『生命魔術』、『転移魔術』、『精神干渉魔術』。そのうちの一つが目の前にある。
まぁ正確に言えば『精神干渉』はグレーゾーンというか完全に禁止はされていないから準禁術って感じかな。
「使うんですか?」
「緊急時だからね」
急ぎの移動が必要なんだし仕方ないって。そんなに心配そうにしなくても…!
「一応ちゃんと目的地に着けるか…私が試してくるよ。ちょっと待ってて」
魔法陣の上に立ち、目を瞑って一言、詠唱を口にする。
「『空間転移』」
………
………………
一瞬、景色がぐるりと回るような感覚……眼を開けば周りに皆は居ないものの似たような魔法陣のある広間へ立っていた。
転移は上手く行けたようだが……
「うえっ…埃っぽい…」
今にも咽そうになるほどだ。ちょっと魔術で掃除しておこ…
「外はどうかなぁ…」
階段を昇り、先刻と似たような道を辿って…って、長いなどんだけ作りこんでんの……
「おっ、出口…」
思えばもっと簡単な道があった気もしないが、とにかく出ることは出来たし……周囲の環境も変わってないね。
「どれどれ……うん、あっちが帝国だからあっちの方に進めばいいよね」
飛行魔術で道等に問題ないかも確認。
「さて、戻ろうかな………ん?」
なんか首筋がぞわつくというか……なんだろ、これ。
「……警戒、しとけば大丈夫でしょ」
最悪、狙いは自分なのだから。今は他に優先すべきことがある。
私はまた来た道を戻り、再び皆のいる空間へと戻った。
* * *
「主、主、ここどこ?」
「帝国の近くだよ。ミツハは初めて?」
「うん」
「私も……ここまでは来たことが無いですね」
「僕もです!」
実際王国と帝国の間に縁があったとしても行来はそこまで盛んじゃないのだ。何か理由がなければまず訪れない場所だしね。
「なら予定よりも早く着くし、少し観光しよっか。私も行きたいところあるし〜」
「どこ?」
「うーんとね……まぁ行けば嫌でも目に入るから。とりあえず入国手続きしに行こうか」
少し歩けば目先に入国用の門が見えた。
ここに建ててくれた過去の私……ありがとう、何日も馬車やら飛行魔術やらで移動する羽目にならなくて良かった……
「…主、これ、並ぶの?」
「ぅえ?」
…わぁ、遠目から見ても…すんごい長蛇の列が……
憂鬱だなぁ…
…………
……………………
「……えーっと、フィーナ・レインヴェルさんにエマさん。それと……ミツハ・ヨウコク…………ミツハ様!?」
門衛がミツハの名を知ると慌ただしく部屋の奥へと向かっていく。手にしていた書類等を投げてしまうほどに。
青ざめた顔で、1人の少女を連れて戻ってきた。
「えっと、ヨウコク代表のミツハ様ですね?」
「うん、そうだよ」
「…事前に連絡くださいよぉ……」
小声で、胃のあたりを抑えながら門衛が呟く。聞かなかったことにしておくとして…
「そちらは?」
「あ、はい。こちら観光大使の方です。何か不便があれば彼女へお願いしますね」
「…よろしく」
「よろしくお願いします。ミツハ様」
軽く会釈を交わした後、ようやく私達は帝国へと入国したのだった。
* * *
しばらくして、私達は一先ず宿の一室へ案内された。
「改めまして…私、フレアと申します!よろしくお願いします!ミツハ様!皆さん」
ぴょこぴょこ、ぴょこぴょこ
「…よろしく、フレア」
きゅるん…じーっ……
「えっと、私はフィーナ。適当に呼んでくれたらいいよ」
「エマです」
「ルカです!」
クンクン…クンクン…
「覚えました!よろしくお願いします!!」
…うん、分かる、分かるよエマ。言わんとしてることはとっても分かる。
はぁ…仕方ない、ここは私が…
「えっと、フレアは獣人族、だよね?」
「はいっ!」
元気な返事とともに犬っぽい耳がぴょこぴょこと揺れる。
背が低いからか異様に目に入る。それと、キラキラした目で見あげてくるから……めっちゃ撫でたくなる!
ダメダメ!流石に初対面だし…
「へぇー…普段からここで暮らしてるの?」
「そうですね…2年ほど前にヨウコクから離れ現在修行中の身ですっ!」
「修行中…?」
「はいっ!こんな感じで…」
シュバシュバッと、体捌きをその場で見せつけるフレア。
凄いキレっぷりに思わず見入ってしまった。
「どうですか?どうですか?」
「うん、凄いね…?」
「そうでしょう!!」
パァァァ…っと目の輝きが増し近くで見上げられる。
…もうこれ私悪くないよね?
気付けば手がワシャワシャとフレアの頭を撫でくりましていた。
「ぴゃ!……えへ……えへへ………フィーナさんお上手…」
「うわぁ…凄く」
「…っ!ダメなんです!」
ハッとしたように私の手を退け、距離を取る。そして頭を抑えながらこちらを見つめる。
「……ダメなの?」
「ダメじゃない……じゃない!えっと、申し訳ありません…これも、修行なのです…ですから、ダメ、なんですぅぅぅ」
物欲しそうに見ながら言うフレア。なんの修行かはよく分かんないけどとにかくダメなようだ。
「そっか…毛並みが整えられてて撫で心地良かったんだけど…仕方ないか…」
「へぅっ!………ぐ、ぅぬぬぬぬぬ…」
「え?」
思わず感想が口から零れていた。それを聞いてかフレアが物凄く、それはもう凄く悩ましそうに唸り出す。
「…そこまで言われて断っては獣が廃ります!さぁ!どうぞ!」
「えぇ!?」
「さぁ!」
よく分かんないけど…いいなら…
さっと、手を伸ばそうとして…その手を、横から引っ張られる。
そしてまた別の…フサフサに着地した。
「…主、フレアばっかりずるい」
「あー……」
それはミツハの尻尾。暖か……うん、ごめん、ごめんって。なんでそんな睨むの…
はーいミツハちゃんもなでなでしましょうねぇー…
「くぅぅぅぅん…」
期待を裏切られたからか残念そうにこちらを見つめるフレア。
しかし賓客であるミツハの間に入る訳にも行かず悔しそうな、そんな感じの表情で項垂れてる。
「…なんかごめんね?」
「っ、いえ!これも、修行なので!」
そんな目で見られて言われても…説得力ないよ?
もう片方の手で、ポンと手を置くと…スイッチが入ってしまったらしい。フレアの方から擦り寄ってくるように。
ナデナデワシャワシャナデナデ…
「へへ…えへへ…」
「ありゃりゃ…」
「主、罪な女」
両手に獣。両手に花。うーん、悪くない!寧ろ最高!!
…………
……………………
「ちなみになんの修行をしてるの?」
「欲求を抑える修行です!」
「…まぁ、納得だよね」
修行が足りないんじゃないかな。寧ろ。
獣人族は書いてて楽しい…特に女の子だとより筆が進みますねぇ




