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54話 死力を尽くして

ミツハの出陣から数刻後、1度引いていた『森の戦士』等も再び戦場へと舞い戻っていた。


「姫様に続けぇぇぇ!!!」


「「「おおおおおお!!!!」」」


虹の光を追って、戦士も続く。

そしてあまり必要な感じはしないものの、少しでも恩恵になれと骨の破壊へ勤しむのだ。


────終わりが近い。


皆がそれを確信していた。

始まりは想定外からだったとしても、対応は順調に、確実に事を済ませて行っているのだから。


「あはっ……あはっ!」


ミツハの笑い声が迷宮内で木霊する。

負けじと戦士達も雄叫びを上げた。


「うぉぉぉぉぉぉ!!!」


斬って、殴って、噛み砕いて、


なんでもいい。とにかく……破壊し尽くせ。


1人が動けば呼応するように、1人が叫べばまた1人と繋がるように。


『戦士』達は折れることのない闘志で前へ……


「姫様っ!?」


行かなかった。


最も先頭でミツハに続いていた『戦士』の声を皮切りに『流れ』は完全に殺された。



 * * *



「ぅー…狭い……」


ぎゅうぎゅうと、押し寄せてくる骨の壁を足で押し返しながらミツハは丸まった体勢に落ち着く。


時間にして十数分程だろうか。未だ解決の目処が経っていないことにいい加減焦りを感じる。


「ハクレン……どうする?」


『ぅぅ……?』


「そうだよね…」


仕方あるまい。これ以上の足止めは苦しくなるばかりだ。

それに、さっきから外側で人の声がしている。きっと『森の戦士』達がミツハに続いて来ているのだ。

尚更、心配かける訳にはいかない。


「何よりも────」


主に任されたのだから。


この程度で止まってちゃフィーナの顔に泥を塗る。

だから、だからだから……ミツハは全力を、出すのだ。


「『第六感(シックス・センス)……』」


血の拍動が、全身を駆け巡った────



 * * *



獣人における最大にして最高の奥義とも言えるその技術、『第六感』


ひとたび使えば五感が鋭くなり、血の巡りが早まることで筋力も普段の数十倍にも及ぶ。


この技術を元に人は『身体強化魔術』を編み出したとも言えるほどのそれである。


ミツハは今、それを使った。その発動事態には問題は無かった。いつも通り、使って……


ただ、問題があった。ここまで幾度の消耗そして『不死王の骨』の成長。


何よりも、ミツハが幼かったこと。


1度目の再封印は心を壊しかけた。それでも再び立ち上がった。


何度でも言おう。これは想定外の解放だったのだから。


心の損耗は治っていても、聖獣が生まれ変わっていても……


ミツハの『器』としての損耗は治りきっていなかったのだ。



 * * *



四方の骨の壁……その隙間から、虹の光が漏れ出した。


次の瞬きの間に壁が破られる。


「後……10秒……!」


ミツハだ。ミツハは純粋な筋力に加えた『色彩』の力を最大まで出力し壁を抜け出した。


そしてそのままの勢いで、『骨壷』へと直進する。


「負けない…!」


小さな身体がバネのように骨を踏み抜く。

それだけの動作でありえないほどの破壊を起こしながら……骨壷へと肉薄した。


「ハクレン!合わせて!」


目先に骨壷。もうこれ以降は代償を考えれば不可能に近しい。だからこの1回で、決め切る覚悟を持ってミツハは手のひらを前へと突き出した。


『ゥゥゥゥゥ!!!』


手の甲に、魔法陣が刻まれる。

ハクレンから経由して流れる魔力が次から次へと魔法陣へ流れていき……途中で、止まった。


「っっっっ……熱……!」


熱が、光が、ミツハを襲う。ミツハの『器』としての許容量を超えたのだ。


「止めるな!ハクレン!」


使命を果たせ。そのために、死力を尽くせ。

ハクレンは一瞬逡巡するも……指示に従った。


「はぁ……はぁ……こわ……れろっ!」


限界突破。既に『聖獣』の特性も、ミツハの獣人としての特性も何もかもを使い果たした。あるのは……負けないという意地ただそれだけ。


「主……お願いっ……最期に……力を……っ」


魔法陣への魔力が充填完了。魔術が、発動する。


「『依姫』ミツハ!」


『『聖獣』ハクレンっ……』


「2者の名のもとにっ…」


長ったらしい詠唱は必要ない。これは『模倣』。見たものをその場で『再現』する。


「砕け!『封印虹陣(アーク・イリス)』!!」


6色の魔力の塊が手のひらの前へ顕現。それを、ミツハの手が握り潰す。


ミツハはそのまま拳を握り固め……低く構える。


一瞬、視線を落として……後。


今は周囲の環境も、音も、何もかも……ミツハには入らない。ただ目の前の脅威を壊すためだけに……集中して……


拳を────振り抜いた。



 * * *



事態発生から1夜後。


核の破壊により『不死王の骨』は機能停止。

『依姫』ミツハ、『聖獣』ハクレンによって事態収集されたと考えられる。


同日数時間後

『不死王の骨』による『疑似迷宮』崩落。

『森の戦士』等を中心に『ヨウコク』復興が始まった。



 * * *



ミツハは力なくその場で倒れ込む。


「熱い……熱い……ぅ……」


ぁぁ……無茶をし過ぎたのだ。

この体は『器』としては過去類を見ないそれらしいのだが……


それ以上に相手が悪かった。それでも……やり切った。


「ぅぷっ……ぅ……」


口から血が溢れる。

ミツハはここで死ぬのかもしれない。それを薄々……感じ取ってしまった。


普通なら当分先であるはずの『死』。

それが目の前に迫ったことで……麻痺していた感覚が蘇った。


「……ゃだ……いやだ……!なんで……」


こうなったの?

せっかく主と再会できて……『依姫』としても1段階成長出来たのに……なんで。


堰を切ったようにミツハは泣き出した。

幸いにも今この場には誰もいない。ミツハが弱くなっているところを誰にも見られない。


だから、泣いた。ミツハは頬を伝う涙を拭う力すら残っていない。


「……せめて……主に……」


1目見たかった。

それだけじゃない。いつもはミツハからだが今度は主から抱きしめてもらって、ミツハも抱き返して……

その温もりを直で感じたい。


体温が下がっていくのを感じた。視界がぼやけ、指先から何もかもが零れるような、嫌な感じ。

もう起きていることも辛くなってきた。


「ごめん……なさい……ハクレン」


ミツハは抗いようのない脱力感に、瞼を降ろした。



 * * *



白虎は消えゆく身体でそれを聞いていた。

自分はまだ身体を保てている。ただそれはミツハが最後、ハクレンがその身を差し出すことを拒否したから。


────なんでそんなことを。


疑問、疑問、疑問。


自分は輪廻を司るから。何度だって生き返るのだ。ならば……自分に死なせてくれ。


『あぁ、愛しき子よ……その対価は私が背負いましょう』


ミツハの胸に、手を添え────



 * * *



被害報告

『依姫』ミツハ3日間意識不明の重体だったものの現在回復中。

『森の戦士』等半数が意識不明の重体。他数十人は軽傷。

住人500名死亡。重傷300名、生存軽傷多数。


『聖獣』ハクレン消失。力を使い果たしたため次の輪廻を巡り始めた。



これらの報告を受け王国、帝国から今一度会議の必要性があると判断し各所へ要請。

また、国家機密である現在生存中の『色彩の魔女』フィーナ・レインヴェルにも同様のものが成された。




追記:騒乱中、国主ムラシゲ・ヨウコクが死亡。原因は不明。

これによって『ヨウコク』国主を一時的に『依姫』ミツハとする。



 * * *



────復興中の出来事だ。


狐耳の男が……木を背のところまで追い詰められていた。


「や、やめよ!」


「残念だったな、爺さん……丁度いい機会だ。」


「来るなぁ!」


全く……そんなに怖がらなくたって……いや、そんなだからこんな惨事の最中でさえこいつら『有権者』共はひっそりと安全圏まで逃げていやがった。


それが国の主だと?そんなのでこれからまた同じようなことが起きたらどうなる?


「国の滅びよりもあんた1人の死が1番合理的……そうは思わねえか?」


「ふざけたことを!!」


「ギャーギャー喚くことしか出来ねえのか?最もらしい詭弁をいつもみたく並べてみろよ」


……いい加減こんなクソ野郎の声を聞くのに……()()()()も苛立ちを覚え始めた。


これ以上の会話は無意味だろう。


「ま、まて……こんなことをして……許されると……」


()()()()()……?なんの事だ?」


「は……?」


訳の分からないことをと、間抜けな顔で訴えかける。

……何も聞いていなかったのかこいつはと呆れそうになりつつも……ヴォルフは告げる。


「爺さん、なぜ俺がいい機会って言ったか……それすらも分からねえのか?」


「……っ、まさか……!」


「あぁ、ようやく分かったか」


ヴォルフは曲刀(タルワール)を振り上げながら……答え合わせを口にする。


「あんたは不運にもこの災害で()()()した……俺はその発見者だ」


「ふ、ふ……ふざけるなぁぁぁぁ!!!」


獰猛で狡猾な獣牙が、狐の首を掻っ切った。




…………



……………………



………………………………



「戦士長……何処へ行かれていたのですか?」


「あぁ……悪かったな。何……魔物が出ていたからな。その駆除だよ」


「っ……流石です!戦士長!我々は気付くことも出来ず…」


「……ははっ、そりゃしょうがねぇよ」


(狩ったのは魔物じゃなくて……鼠だからな)


「おら、もうひと踏ん張りすんぞ!お前ら!!」


「「はいっ!!」」




これはヴォルフの、誰一人として、フィーナにさえ見せちゃいない……姫を守るために育った『騎士』としての1面。




想定外の出来事だから多少早めに終わっても大丈夫……なはず。

ミツハの第六感はヴォルフに酷似したもの、ですが違う点があるとすればそれは『聖獣』との繋がりを強めるということでしょうか。

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