55話 また会えたから
真っ暗な世界だった。
何も無くて、何も感じなくて、誰もいない。
「……私……」
どうなったのだろう。辺りを見渡しても何も見当たらない。
「……ここが、黄泉の国なのかな」
所謂死後の世界というもの。ミツハはそこに来てしまったのだろうか。
案外平気なものなのだなと、呑気に考えながら……宛もなくミツハは歩き出した。
「……」
一人で、暗闇を歩く。
歩いて、歩いて、歩いて……
「……?あれ?」
涙が、零れていた。
同時にとてつもない孤独感。それだけではなく……言い表しがたい、喪失感だろうか。何か大事なものが……無くなっていくような……
「…もう、いやだ……」
行きたくない。動きたくない。そう願っているはずなのに……その足は止まらなかった。
進めば進むほど、喪失感は肥大化していく。
拒絶すればするだけ……その先にあるものは笑いかけた。
嫌、嫌、嫌……!嫌だ!絶対……まだ……
ついぞ踏み入れそうになったその時……
ミツハの肩を誰かが抑えた。
「……え」
振り向くまもなくその誰かはミツハを押しのけて先へと行って……
ミツハの意識は再び落ちるのだった。
* * *
「………………」
重い瞼を開くと、古ぼけた木の天井が目に入った。
「あれ……?私……」
辺りは暗い。今は夜中……なのだろうか。
ミツハは辺りを見渡す中で、人の気配をすぐ側に感じた。
「…うーん……エマ、それは売らないで……お願い……貴重なの……むにゃ……」
「……主?」
ミツハの寝床にもたれながら眠るフィーナ。
ミツハはこれが夢か現実か……考えることもなく、そのフィーナへと手を伸ばした。
「ぁ……」
手が、髪に触れる。触れた。触れた。
じわじわと……その場にいるフィーナが本物であると、ミツハは実感し……
満たされた想いはついぞ溢れた。
「主っ!」
抱き着く。寝起きとは思えない俊敏さと力強さで、目いっぱい抱きついた。
「うぇあ!?何!?」
「主っ!主!あるじ!あるじ!あるじぃ!」
確かな温もり。大好きな甘い花の匂い。
ミツハは五感全てでフィーナに対して愛を求めた。
「ミツハ!?起きてたのっ…て重い重い!」
フィーナの体が傾き、仰向けに倒れる。抱きついていたミツハも合わせてフィーナの上に。
腕の中だけでなく、全身に温もりを感じた。
それがスイッチとなって、より一層ミツハの想いは強くなった。
「主…!主っ…わた……わたし、私……あるじぃ……う、うぅぅぅぅ…」
感情がごちゃごちゃで、もう訳が分からない。でも、この幸せだけはきっと勘違いでもなんでもない。
「……もうっ……どうしたの?」
「…………怖い夢見た」
「そっか」
フィーナはそれ以上は何も言わず、ミツハの頭に優しく手を置いた。
あれは……夢だったのだろうか。……そうでない気がする。でも今は……夢ということにしておこう。
じゃないと、こうやって撫でて貰えないかもしれないから。
* * *
「…何があったんすか……」
「こっちが聞きたいよ…」
「主〜っ」
気付けば日の昇る時間。未だミツハに乗りかかられ胸に頭をスリスリと押し付けられている。
確かに怖い夢見たって言ってたけど……こうもなるものなの?
「はぁ……姫様、朝ですよ」
「……ヴォルフ?」
「えぇ、俺です……ってなっ!?」
ヴォルフの声がしたと同時、ミツハは私から離れ次はヴォルフへとしがみついた。
ヴォルフは体格が良いため押し倒されることはなかったものの、その表情には困惑の色が浮かんでいる。
「ヴォルフ!ヴォルフ!……ヴォルフ……っ!」
「姫様……?どうなされたのですか……」
「ぅ〜〜〜っ!!」
ヴォルフにも、同じように頭を擦り付ける。
お、やっと離れたし私も起きて…………身体が痺れて動かないんだけど?
どうやらえげつない力で締め付けられてたらしい。跡が残ってるや。
「師匠…助けてください…」
「私には無理だよ〜……動けないし」
「そうですか」
ヴォルフは引き剥がすことを諦めそのまま暫くミツハの好きにやらせていた。
* * *
ミツハが起きたことで色々事が進もうとしていた。
「〜♪」
「あの〜……ミツハ?そろそろ離れてくれない?」
「やだ」
「そっかぁ……嫌か……」
嬉しいよ?嬉しいんだけどもね?流石に……周囲の視線が痛いと言いますか……
「依姫様……その、そちらの方は…」
「賓客、丁重に扱うから……君達は私に構わないで、手伝いに行って」
「かしこまりました……」
ほんとに良いのかなと言いたげな目で見ながら一人、また1人と部屋を退出し……最終的には私とミツハだけになる。
「ねえ、話し合いは?」
「しなくたって、外にはヴォルフがいるから」
それよりも今はサボり、ということらしい。あ、腕に尻尾巻きついて……フワフワ……
「気持ちいい…………じゃないっ!」
「……主、嫌だった?」
いやもう是非とも、もっとやってもらいたいけどさ…
「私らだけ休んでてもいいの?」
「今は休むのが仕事、だよ。主も……適材適所は大事って言ってた」
言ったっけなぁ……そう思いはするけど……
まぁいいや。実際魔力がまだ回復しきってないから今手伝いに行っても足手まといにしかならないわけだし。
甘んじてミツハからお世話されていると……コツコツと、扉を叩く音が部屋に響いた。
「…はぁ……どうぞ」
ミツハが溜息を吐きながら応える。
「あ、エマ……」
「失礼します……師匠、何やってるんです?」
入ってきたのはエマとルカ、それとついでのモチ。
復興の手伝いをしていたけど……何か用だろうか。
「ちょっと癒されてるの。行先行先で何らかの異変に巻き込まれてばっかりだし……さ」
「……ふふ、主を癒してるの」
「そうですか……」
呆れたように、エマは頭を抑えつつ……1つの紙切れを差し出した。
「先程魔導鳩が届きました。帝国からのようで……『ヨウコク』宛です」
「え……あ、そっか。あいつ死んだから…」
あいつ呼ばわりされる父親って……とんでもないろくでなしだったんだろうなぁ。
というわけで今は国の代表は依姫のミツハになる。だから国宛の手紙はミツハが処理しなければならない。
「えっと………」
封を開け、暫し内容をミツハが確認する。
「それにしても……もうこの状況が伝わってるってことかな」
「どうなんですかね……って」
「うわ!?何!?」
豪速球。扉の隙間から何かが飛来し私の真上で垂直落下。
「……魔導鳩?しかもこれ……最高級の……」
「みたいだね……私宛?」
加えている手紙には確かに……私の名が魔力で刻まれていた。
私もミツハと同じように内容を洗っていき……
「え…?マジで?」
「ねえ、主…」
……どうやらミツハも似たような内容だったようで……私達は顔を見合せる。
「あの、どういうものだったんです…?」
「…4カ国連合の緊急会議……の呼び出し」
「それに、私まで……?」
なんてこった。面倒事から……更に面倒が始まる予感。
まだ解決したばっかりなんだけど!!
* * *
『ははっ……今回はわざわざ引っ掛ける必要も無さそうだなぁ』
少年は、魔女の様子を木の上から眺めていた。
『……あれが開放されるのは俺も想定外だったが……『聖獣』が役割を果たしたようで何よりだ』
魔族、獣人族の『不死王』関連の問題。ここまで解決に導いたのはフィーナの功績が大きい。
『やはり……鈍っていても『色彩』は伊達じゃない……ってことか』
平和ボケしきってるのかと思っていたがそうでもないらしい。
でも……それでも……
『甘さは英雄にはいらねえんだよ』
”アイツ”を殺せなかったのは分かる。その通りだ。
だが”アイツ”を……現世にのさばらせ、挙句の果てには生かしているのは許せるものか。
『悪く思うなよ。魔女。1000年前の借りがあったから今までは見逃してやっていたが…』
別に、圧倒的な力を前に無力だった訳じゃない。本当に……心の奥底からかつて魔女は懇願し礼をしたのだ。
だから……『封印』を許した。
『時間切れだ。お前が生かしているせいで……今は加速しているのだからな』
逃れられない運命だったのだよ。
そもそもとして……あれだけ大勢殺しておいて情状酌量があるのがおかしかったんだ。
『世界を、平和にするため─────裁定の準備をしようか』
少年は声高々に宣言し……身体を傾ける。
重力に従って落ちる─────直前、背中から大きな翼が広がった。
そしてそのまま飛び行くのだ。天の者達が住まう世界へ。
* * *
暗殺者は無事……アジトへと戻っていた。
「なんだ?もう帰ってきたのか?」
「うるさい、別にいいでしょ」
「まさかサボってたんじゃ……って……あ?もしかしてこっぴどくやられたのか?」
同僚の男が声を掛けてくる。鬱陶しい。が……愚痴るには丁度いい相手か。
「えぇ……もう二度とごめんよ…」
「まだ確認段階だろ?」
「飛んだ貧乏ぐじだったわ」
あの獣がまた追いかけてくると考えると……恐ろしくて身震いしてしまう。
「考えられる?透明な魔術でさえ嗅ぎ分けて追ってくるのよ……しかも私達が身体強化魔術を使うよりも早く」
「そりゃ怖いねぇ」
「……でもまぁ、大丈夫だと思いたいわ。次は……ここが戦場になるのでしょう?それに私だけじゃない、んだよね?」
男は頷く。今回の『依頼』はこの小さな組織が全勢力をもっても達成出来るか─────そんな依頼なのだから。
「ま、ゆっくり休んでろよ。暫く別の依頼は変わってやらぁ」
「マジ!?助かる…………ありがと」
「うわっ……お前から感謝が聞けるとは思わなんだ」
うわとはなんだうわとは……でも本当にありがたかった。まだあの犬男からのダメージが残っている。命があるだけマシな方だろうか。
「……そんだけキツかったの……もう寝る」
女はソファに行儀悪くごろ寝し……そのまま目を瞑る。
なんとか生き残れたことに、天の巡りに感謝しながら。
獣人族領編は締めです。ただもう少しいい具合に練れたかもなぁというのが感想。
また次の章で会いましょう!ではでは!




