第五章⑥『制裁』
「どうか、お許しください……王よ」
「ははは……。まさか下女の分際で、この私に指図するとはな」
「とんでもございません。私は、ただ……その」
触れる全てを焼き尽くさんとする太陽のごとく威圧的で、凍てつく月のようにどこまでも冷やかな金の瞳で、王はメシュメシュを見下ろしている。
一方、王様の足下に恭しく跪いているメシュメシュは、喰い殺される寸前の小動物のように萎縮している。
淡々とした声を微かに震わせ、強張った表情で許しを請うメシュメシュは、静かに、けれどいつになく恐怖している。
メシュメシュの恐怖を見透かしている王は、やはり愉悦に満ち輝く眼差しと共に、冷笑を浮かべている。
「ふっ、まあよい。だが、喜ぶがいい小娘。この王の寛大さに免じて、貴様のささいな無礼は水に流してやる。貴様の”父親”が犯した罪は、貴様の体をもって償えばいい、ということだな?」
「っ……寛大なる王の慈悲、心から感謝致します……」
「ふっ。殊勝な娘を持つ貴様の父親は、誠に幸せ者よの。そこらの幼童のように震え、泣き叫ばれるほうが、いたぶり甲斐のあるものを」
十歳程度の幼子にしては健気で肝が据わって見えるメシュメシュの態度に、王は揶揄するように柳眉をひそめる。
しかし、冷徹な金の瞳に浮かべていた退屈そうな色は、一瞬で消え失せた。
代わりに、か弱き存在を弄ぶ嗜虐心を燃やすと、王は立派な絹で縫われた衣服の懐から一本の鞭を取り出した。
細長い鞭には茨に似た凶悪な棘が無数生えており、新鮮な柘榴を潰したような赤い汁が滴っている。
白桃のようなメシュメシュの柔肌を、あんな鋭利な棘の無知で打てばどうなるのか。
容易に想像できてしまったエアは、口元を押さえながら恐怖を吞んだ。
王は鞭にこびりついた滴を雪色の上質な布で拭きとると、その布を退屈そうに投げ捨てた。
そして跪いたまま微動だにしないメシュメシュの目先へ、鞭の先端を突き付けた。
メシュメシュは、普段通りの大人びた表情を崩さず、覚悟を決めた様子で双眸を閉じた。
怖くないはずがない。
本当は怖くてたまらないのに。
メシュメシュは、内なる恐怖を必死に押し殺している。
王自らの処罰を謹んで受け入れようとするメシュメシュだが、細い手足が微かに震えているのを、エアは見逃さなかった。
柘榴色の唇を獣のように不気味に吊り上げ、蒼然たる月のように冷めた瞳でメシュメシュを見下す王は、凶悪な茨の鞭を振り落とす――。
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