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第三章⑤『神なる親』

 「あの、王様。差し支えなければ、一つだけ伺ってもよろしいですか」

 「貴様が質問などと珍しいな。よいぞ。王の寛大さに免じて許す。さあ、申すがいい」

 「その……私が神様の血を半分だけ引いているというのは、一体どういう意味ですか」


 初めての謁見で告げられた衝撃的な事実を含み、王に問い出したいことはエアには幾多もあった。

 しかし、迂闊に触れれば焼き尽くされる太陽さながらの威圧感と危うさを醸し出す王に萎縮するあまり、エアがまともに返事をするまでは暫し時間を有した。


 「……よもやと思ったが、小娘。もしや、お前の片親が女神であることすら、今まで知らなかったのか」

 「はい。まったく存じていませんでした。私を生んでくれた母はその、女神様、なのですか?」


 エアの純粋な問いに対し、黄金月のように冷たく眩い双眸が軽く見開いた。

 エアを静瞥(じょうべつ)する王からは、普段の毒めいた悪意はなく、かといって優しさと呼ぶには随分と冷めた気配が漂っている。

 考え言いあぐねている王の神妙な面持ちから、王の怒りに触れたのではないか、とエアの心臓は一瞬だけ跳ね上がる。


 「よく聞くがよい、小娘。お前の父親はただの矮小な人間、母親は女神、その結果生まれたのがお前という存在だ。それだけにすぎん。今更何を気にする?」


 しかし、エアの不安は杞憂だと吐き捨てんばかりに、王は月色の瞳を気怠げに細め、赤い唇で弧を描く。

 一見上機嫌そうにだが、端正な顔に浮かぶ酷薄な笑みは、決して歓迎的ではなかった。

 淡々とした台詞に対する適切な返事に迷いつつも、エアは何とか言葉を返した。


 「それは。なら、何故女神様は……私の母様は、父と結ばれたのでしょうか」

 「さあな。神々どもの小賢しい画策も、今の私には知ったことではない。 特に、男を誘惑し、たぶらかし、その全てを骨の髄まで貪り尽くさんとする――女の何とも浅ましき狡猾さと欲深さを顕現する女神どもの心中は、理解したくもないぞ」


 「……そう、ですか」


 どのような経緯から、実の両親は自分に生を与えたのか。

 その背景にある両親の心に、ほんのわずかでも触れ、想い馳せることをエアは密かに期待した。

 そんなエアの密かな願いに気付かないほど、この王は傲慢ではあるが決して鈍感ではない。


 「お前の父親とその女神の契りも、お前が期待するような愛のおとぎ話ほど美しくも、語り継がせる代物でもない。それは、この私でも断言できる」


 しかし、エアの希望する答えも慰めも与えるような心遣いは、当然この王には(あし)一枚ほどもない。

 無味乾燥な現実を叩きつける王の無情な言動に、エアは肩を落とした。

 胸奥が小さな火傷に似た失望と痛みで焦がされる中、エアが思い出したのはもう一つの疑問。


 それは、本来であれば神々を忠実に信奉し、彼らから賜った王権を駆使して繁栄してきたはずの王自身は、何故神々を心の底から忌み嫌うのか。

 しかも、畏服と崇拝の対象である神々を徹底的なまで侮蔑し、唾棄する王の不忠な言動に対し、何故神罰すら一向に下らないのか。


 傲岸不遜な王に玩弄される苦痛はあれ、神罰や災害の訪れる気配すら微塵もなく、別の意味で平和なザハブ。

 エアは拍子抜けを通り越して、薄気味悪さすら覚える。


 神々も信仰も実はまやかしで、実在しないのではないか――。


 罰当たり極まりない発想に陥りそうだ。

 王の異様に強気な態度と傲慢の根拠は一体何なのか、疑問は尽きない。


 沈思黙考を始めたエアを余所に、王は興が冷めたらしい。

 夕食の終わり時までの間、王は冷淡な表情で麦酒を静かに啜っていた。


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